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しおりを挟む「……ふあ…」
口を開けずもごもご言う茉莉花の姿をモノ越しに見下ろせば、「やっちまった」と自責の念が膨れ上がる。
「あ、口開けなくて良い、すぐ拭くから!」
「ゔん…」
「ごめん、顔に……ごめんな、ごめん」
ティッシュで口をまず拭いて取り替えて、これ以上精液の面積が拡がらないよう丹念に掃除する。
飲ませたいなんて味合わせたいなんて思ってないんだ。
茉莉花の可愛い顔が苦痛に歪むなんて…恥じらいを除いた単純な苦痛の顔なんて見たくないんだ。
「……ゔー」
「すぐ風呂入ろうな」
気持ち良いのは一瞬だけで、飛び出した子種が茉莉花の顔に着地するまでにもう俺は後悔していた。
いざとなれば謝るなんて思っていても、「茉莉花は何でも許してくれるだろう」という驕りがあった。
でも「本気で冷めた顔で怒られたら?即刻別れを告げられたら?」とコンマ数秒で想像して興奮は掻き消えて、角度を変えるも当然発射したものの軌道は変わらなかった。
「…もう喋っても良い?」
「うん、ごめんな、茉莉花…調子乗った」
賢者タイムの悲壮感に背中を押されて、俺は茉莉花の目を見ることもできやしない。
のそのそと茉莉花を跨いでいた脚を退けて、ベッドへ正座で直った。
「空くん…何か反省してるの?」
「…顔に、掛けちまったから」
「謝るならしないでよぉ」
「だからごめん、お詫びなら何でもするから…あ、」
茉莉花はよいしょと起き上がり、覗き込むように俺の視界に入り込み
「…私が怒ってると思ってるの?」
といかにもなぷんぷん顔を作って見せる。
「あの、胸に掛けるって約束だったのに顔に行ったから」
「ふーん?それは別に良いんだけどぉ」
そりゃ直前に許可らしきものはもらってるもんな、でも踏み間違えたら大爆発しそうで恐い。
茉莉花のこの顔は冗談のノリの怒り顔なのだ。
それは分かってるけどよくよく考えたら本気の怒り顔を見たことが無かった。
ケンカでは茉莉花はまず悲しい顔になって時には泣き顔になり、俺はそこまでしか経験が無い。
俺が冗談だと思ってた今のこのぷんぷん顔にも本気の怒りが篭ってるとしたら…俺はすぐさま頭をシーツに擦り付けて懺悔しなければならない。
「茉莉花、あの、」
「何で、すぐ拭いちゃったの?」
「へ?……き、汚いし」
「私、おちんちんも舐めたことあるし、今さら汚いなんて思わないんだけど」
「うん?うん…」
何に対して怒っているんだ。
拭かずに放置しておけば良かったのだろうか。
俺が珍妙な表情で怒れる茉莉花を見つめていると、彼女は
「掛けたことに対して、感想とか、私の気持ちとか、やり取りがあっても良かったんじゃないのかなぁ⁉︎」
と俺の謝意を明後日の方向に飛ばしてしまった。
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