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ダレン外伝①
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雨が降りしきる中、傷だらけの体を引きずりながら、俺は獣道を只ひたすら、町を目指して歩いていた。
体が重い…。
何故こうなってしまったんだ。
契約上の妻を捨てて、祖国を捨てて、『ダレン』という名前も捨てて、俺は『エレン』と名前を変えて冒険者をしていた。
始めは順調だった。
騎士団で鍛え上げた剣技もあったので、あっという間にBランクとなり、高ランク冒険者の仲間入りを果たした。
『閃光のエレン』と二つ名が知られ、パーティー勧誘が絶えなかった。
俺が知る中で一番有名で強いパーティー『歯牙の祭り』に勧誘されたときは、笑いが止まらなかった。
このパーティーで一旗上げれば、俺は有名人になれる。あいつらを見返してやれる!
そんな邪な考えを抱いていた。
パーティー内で確固たる地位を得るため、何でもやった。実力が伴わないのにパーティーに居座るお荷物を排除したり、男狂いの淫乱の相手をしたこともある。
順調だ。
順調だと思っていた。
冒険者になって3年。パーティーに入って1年たった。森の奥にサラマンダーが現れたと冒険者ギルドから依頼があった。
パーティーメンバー総勢10人で討伐に向かった。
始めは連携が取れていたのに、時間が経つに連れて乱れてしまい、討伐を失敗してしまった。
前衛で重症を負った俺は、メンバーに捨てられたのだ。
「偉そうに指図しやがって!メンバー全員お前の事、煙たがってたんだ」
「口ばっかりの男って最低よね」
「ちょっと剣が強いからって勘違いすんなよな!」
信頼していた仲間の辛辣な言葉が、瀕死の俺を追い詰める。
「すまな、かった。謝る。だから……」
「今さらおせーんだよ!」
そう言って、メンバーは俺を残して立ち去っていった。
ちくしょう……。
ちくしょう。
ちくしょう!!
こんな所で死にたくない!
ここは魔物が出る森だ。
血に釣られて魔物が寄ってきてしまう。
俺は動かない体を叱咤し、近くの木に背を預けた。
万が一の時用に回復ポーションを用意しておいて良かった。
全回復は無理だが、歩くくらい出来るだろう。
回復ポーションはとても高い。
無闇矢鱈に使用したくなかったのに、背に腹は代えられない。
ギルドに戻ったら覚えてろよ。
仲間を放置するのは規定違反だ。
あの町で冒険者を出来ないようにしてやる!
俺は腰のポーチから回復ポーションを取り出した。震える右手を左手で支えながら、なんとか口にすることが出来た。
サラマンダーから受けた酷い火傷部分は回復したが、折れた肋骨は治らなかったらしい。
「ぐっ!」
立ち上がるだけで激痛が走る。
歩く振動も傷に触り、痛みを伴うが動けない程ではない。
俺はゆっくりと剣を杖にして歩き出した。
必ず生きて帰ってやる。
その執念が、痛みで意識が飛びそうな俺を支えてくれた。
×××
どれくらい歩いただろう。
夜移動するのは危険を伴うが、この状態で腰を下ろしたら、もう立ち上がれないのではないかと不安が過り、一歩でも多く歩いた。
途中魔物に遭遇しそうになったが、運良く茂みに身を隠せたことで、やり過ごすことが出来た。
朝になる頃に雨が降りだした。
本当についてない…。
雨が体力を奪っていくのがわかる。
獣道が少し開けた気がするが、視界がぼやけ出した。
くそ!
くそ!
こんな所で死んでたまるか!
そう思うのに、体はいうことを聞かず、道端にパタンと倒れ込んでしまった。
立ち上がろうと腕に力を込めるが、ダメだった。
こんな所で死ぬのか……。
無様だな……。
見返してやりたかった。
俺をバカにする奴を。
俺をコケにした女を。
優秀な兄達を。
俺を捨てた両親を……。
嫌な奴らの顔ばかり思い出す。
みんなを見返してやりたかった。
俺は無価値な存在じゃないと。
俺は庇われるだけの子供じゃないと。
俺は……。俺は……。
ガサガサっ!
茂みが動くのが目の端に映った。
本当、最低な人生だった。
魔物に食われて死ぬなんて……。
ダメだ……意識が……。
×××
夢を見た。
とても小さかった頃、家族でピクニックに行った時のようだ。
「ダレン、いいぞ~。その調子だ」
小さい俺は一生懸命立ち上がろうとしていた。
周りには兄達が、母が、父がいた。
「あとちょっと!」
「あなた、ダレンはまだハイハイを始めたばかりなのよ」
「お尻を高く上げて可愛い!」
「この子は体を動かすのが好きだな。将来は騎士になるかな」
「騎士なんてダメよ。何かあったら命を落としてしまうかも知れないわ。お兄ちゃん達と一緒の文官になるのよ」
「この子の適正があるだろ」
「怪我したらどうするのよ!」
「母上、父上落ち着いて」
「あっ、ダレンが座った!」
「「えっ!」」
「あぶ?」
「「「可愛い~!!」」」
これは夢だ。
こんな事、あったはずがない。
優秀な兄達は、いつも両親の話題の中心だった。
長兄が学園の成績で首席になったとき、
乗馬大会で入賞したとき、
次兄が領地経営で画期的な案を出しとき、
宰相補佐に就任したとき、
父上と母上の嬉しそうな顔を見た。
成績も馬術も人並み。
経済学は苦手。
剣は少なからず楽しかったから騎士になった。
父上と母上の落胆した顔を見た。
俺は…。
俺に……。
俺にも!
×××
はっ!
俺は意識を取り戻した。
知らない木目の天井がある。
「痛っ!」
無意識に起き上がろうとして体に痛みが走った。
痛い……。
生きている……。
体が重い…。
何故こうなってしまったんだ。
契約上の妻を捨てて、祖国を捨てて、『ダレン』という名前も捨てて、俺は『エレン』と名前を変えて冒険者をしていた。
始めは順調だった。
騎士団で鍛え上げた剣技もあったので、あっという間にBランクとなり、高ランク冒険者の仲間入りを果たした。
『閃光のエレン』と二つ名が知られ、パーティー勧誘が絶えなかった。
俺が知る中で一番有名で強いパーティー『歯牙の祭り』に勧誘されたときは、笑いが止まらなかった。
このパーティーで一旗上げれば、俺は有名人になれる。あいつらを見返してやれる!
そんな邪な考えを抱いていた。
パーティー内で確固たる地位を得るため、何でもやった。実力が伴わないのにパーティーに居座るお荷物を排除したり、男狂いの淫乱の相手をしたこともある。
順調だ。
順調だと思っていた。
冒険者になって3年。パーティーに入って1年たった。森の奥にサラマンダーが現れたと冒険者ギルドから依頼があった。
パーティーメンバー総勢10人で討伐に向かった。
始めは連携が取れていたのに、時間が経つに連れて乱れてしまい、討伐を失敗してしまった。
前衛で重症を負った俺は、メンバーに捨てられたのだ。
「偉そうに指図しやがって!メンバー全員お前の事、煙たがってたんだ」
「口ばっかりの男って最低よね」
「ちょっと剣が強いからって勘違いすんなよな!」
信頼していた仲間の辛辣な言葉が、瀕死の俺を追い詰める。
「すまな、かった。謝る。だから……」
「今さらおせーんだよ!」
そう言って、メンバーは俺を残して立ち去っていった。
ちくしょう……。
ちくしょう。
ちくしょう!!
こんな所で死にたくない!
ここは魔物が出る森だ。
血に釣られて魔物が寄ってきてしまう。
俺は動かない体を叱咤し、近くの木に背を預けた。
万が一の時用に回復ポーションを用意しておいて良かった。
全回復は無理だが、歩くくらい出来るだろう。
回復ポーションはとても高い。
無闇矢鱈に使用したくなかったのに、背に腹は代えられない。
ギルドに戻ったら覚えてろよ。
仲間を放置するのは規定違反だ。
あの町で冒険者を出来ないようにしてやる!
俺は腰のポーチから回復ポーションを取り出した。震える右手を左手で支えながら、なんとか口にすることが出来た。
サラマンダーから受けた酷い火傷部分は回復したが、折れた肋骨は治らなかったらしい。
「ぐっ!」
立ち上がるだけで激痛が走る。
歩く振動も傷に触り、痛みを伴うが動けない程ではない。
俺はゆっくりと剣を杖にして歩き出した。
必ず生きて帰ってやる。
その執念が、痛みで意識が飛びそうな俺を支えてくれた。
×××
どれくらい歩いただろう。
夜移動するのは危険を伴うが、この状態で腰を下ろしたら、もう立ち上がれないのではないかと不安が過り、一歩でも多く歩いた。
途中魔物に遭遇しそうになったが、運良く茂みに身を隠せたことで、やり過ごすことが出来た。
朝になる頃に雨が降りだした。
本当についてない…。
雨が体力を奪っていくのがわかる。
獣道が少し開けた気がするが、視界がぼやけ出した。
くそ!
くそ!
こんな所で死んでたまるか!
そう思うのに、体はいうことを聞かず、道端にパタンと倒れ込んでしまった。
立ち上がろうと腕に力を込めるが、ダメだった。
こんな所で死ぬのか……。
無様だな……。
見返してやりたかった。
俺をバカにする奴を。
俺をコケにした女を。
優秀な兄達を。
俺を捨てた両親を……。
嫌な奴らの顔ばかり思い出す。
みんなを見返してやりたかった。
俺は無価値な存在じゃないと。
俺は庇われるだけの子供じゃないと。
俺は……。俺は……。
ガサガサっ!
茂みが動くのが目の端に映った。
本当、最低な人生だった。
魔物に食われて死ぬなんて……。
ダメだ……意識が……。
×××
夢を見た。
とても小さかった頃、家族でピクニックに行った時のようだ。
「ダレン、いいぞ~。その調子だ」
小さい俺は一生懸命立ち上がろうとしていた。
周りには兄達が、母が、父がいた。
「あとちょっと!」
「あなた、ダレンはまだハイハイを始めたばかりなのよ」
「お尻を高く上げて可愛い!」
「この子は体を動かすのが好きだな。将来は騎士になるかな」
「騎士なんてダメよ。何かあったら命を落としてしまうかも知れないわ。お兄ちゃん達と一緒の文官になるのよ」
「この子の適正があるだろ」
「怪我したらどうするのよ!」
「母上、父上落ち着いて」
「あっ、ダレンが座った!」
「「えっ!」」
「あぶ?」
「「「可愛い~!!」」」
これは夢だ。
こんな事、あったはずがない。
優秀な兄達は、いつも両親の話題の中心だった。
長兄が学園の成績で首席になったとき、
乗馬大会で入賞したとき、
次兄が領地経営で画期的な案を出しとき、
宰相補佐に就任したとき、
父上と母上の嬉しそうな顔を見た。
成績も馬術も人並み。
経済学は苦手。
剣は少なからず楽しかったから騎士になった。
父上と母上の落胆した顔を見た。
俺は…。
俺に……。
俺にも!
×××
はっ!
俺は意識を取り戻した。
知らない木目の天井がある。
「痛っ!」
無意識に起き上がろうとして体に痛みが走った。
痛い……。
生きている……。
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