上 下
8 / 15

7話 真実を求めて

しおりを挟む
~ ノーランド視点 ~

 扉を閉めて、それを背にもたれ掛かった。
 中からすすり泣く声が聞こえる。

 彼女があんなに取り乱すところを、幼い頃を含めても見たことがなかった。
 それに俺の懇願に対して『嫌だ』ではなく『出来ない』と言っていた。
 彼女が何か隠しているのがわかる。しかし、問い詰めたとしても口を割らないのもわかった。
 『殺したいなら今すぐ殺して』と悲痛な叫びは、秘密を話すぐらいなら死ぬと暗に言っている様に感じた。
 
 愛しいシャティー。
 君は何を隠している。
 何がそこまで君を追い詰めているんだ。

「シャティーと話しは出来た?」
 ドキっとした。
 気配を感じなかった。
 声のした方を見ると、階段上に少女が座ってこちらを見ていた。
「貴方を待ってたの。ノーランド・マッケンジー侯爵令息様」
 ストレートに伸ばしたハニーピンクの髪にサファイアブルーの瞳を持つ、儚げな少女だ。そう、今王城で話題のメリダ王女。
「待っていた?」
 不穏な空気を感じとる。
「部屋でお話しましょ」
 感情を読み取らせない淡々とした言葉に、着いていくか迷う。
「シャティーの為に話を聞いて」
 シャティーの為と言われると、駄目だった。仕方なく、最上階に向かった。


×××


 メリダ王女はベッドに腰かけると、俺にベッド脇に置いてある椅子を勧めた。
「とりあえず、シャティーに手を出さないでくれてありがとう」
 ドキっとした。
 見ていたのか?
「あぁ、勘違いしないで!私は何も見てないわ。こうなることを夢で見ていたの」
「夢?」
「人の行動や選択によって、未来は様々なルートを通っているの。今夜の貴方の訪問は大きな分岐点だったのよ。シャティーと私の」
「どういう事だ」
「もしも今夜、貴方がシャティーを襲って、朝まで部屋から出てこなかったら、彼女は命を絶っていたわ。その延長で私の処刑か幽閉が確定するの」
 彼女は自分を『先見の姫』と称した。断片的な未来しか見ることが出来ないそうだが、何とも信じられない話だ。

「シャティーを幸せにするには、彼女の秘密を暴かなくてはいけないわ。でも、それが何なのか今はわからない。ヒントは『遺言』よ」
 『遺言』
 それは伯爵夫人が残したというものか?
「心当たりがあるのね?それなら急いだ方がいいわ。私の処遇が決まる前に真実にたどり着かなければ、彼女も私も死ぬしかない」

 メリダ王女の話しを全て信じた訳ではない。しかし、『伯爵夫人の遺言』によって俺たちの関係は大きく崩れて行った。そこに謎を解く答えがあるはずだ。


×××


 早朝。
 先触れも出さずにベンズブロー伯爵家に行った。無礼であるのはわかっていたが、伯爵に詫びて謁見していただいた。
 シャティーの処遇は俺に一任されているので、その件で来訪したと思っていたらしく、出会い頭土下座された。
「シャティアナを殺さないでくれ!妻を亡くし、娘までいなくなったら、私は生きていけない!お願いだ!!」
 額を床に擦り付けて、懇願された瞬間は何を言われているのかわからなかった。
 シャティアナの処罰は事態が収集するまで監査対象になるだけで、命を取るようなことはしないと散々説明したが、伯爵の取り乱し様は尋常ではなく、なかなか話が出来ずに困った。

 落ち着いたところで彼女との婚約の話を出した。俺の妻になって欲しいと口説いたが母親の遺言で拒否される。どんな遺言だったか教えて欲しいと。

 伯爵の話では、夫人は婚約発表した晩に、ナイフを持って現れた。
「愛している。今までもこれからも愛している」と涙を流しながら首を自ら切り裂いたそうだ。
 伯爵には遺言らしい事は言っていなかった。もしかしたら、伯爵の前に現れる前にシャティアナと話をしていたのかもしれないとの見解になった。

「そうだ!妻は日記を書いていたはずだ」
 使用人に伯爵夫人の日記を探させたが、見つからなかった。
 シャティアナの専属メイドをしていた者に当時の話を聞くと、日記の全てを彼女が隣国に持っていったという情報が手に入った。
 

×××


 隣国に行って帰ってくるのに一週間はかかる。その間にメリダ王女の処遇が決定されては不味い。
 リックベルト殿下に
「シャティアナ嬢の心を開かせるには隣国にある物が必要なんだ。彼女の心を手に入れてから王女の処遇を決めて欲しい。このままでは彼女は王女の後を追ってしまう」
と、決定を先伸ばしにするようにお願いした。

「一つ貸しな」
 意地悪い顔で言われた。
 この人の『貸し』は必ず厄介事を押し付けられるんだ。
 しかし、シャティーを手に入れることが出来るなら安いものだ。


×××


 はやる気持ちでカルヴァン城に入った。今はリックベルト殿下の弟フレデリック殿下と我が国の宰相殿がカルヴァン王国を統治修繕を行っていた。

 殿下への挨拶もそこそこに、急いでシャティーの使用していた部屋に向かおうと、使用人の休憩室に向かった。

「本当にいい気味よ!」
「あいつ、王女様と幽閉されてるんでしょ?」

 二人の女が話す声が聞こえる。

「あの黒騎士、凄い声で探してたでしょ。きっとあいつが噂の恋人だったのよ」
 俺が城に攻め込んだ時に、シャティアナの居場所を尋問した女だ。
「あんた、それが分かっててあんな事言ったの~」
「人の男に色目を使った罰よ。今頃愛想つかされてるはずよ。こじれて別れてたら最高なのに」
「あんたみたいに?」
「そうよ!『なびかない華』なんて言われていい気になってるからよ。」
「あんたの旦那、賭けであいつを部屋に連れ込もうとして、逆に拘束されて城から追い出されちゃったもんね」

 なんだと…。
 この女のせいだ…。
 彼女を甘く迎えに行けなかったのは、こいつがでまかせを言ったから…。

「おい」
「「ひっ!」」
 俺の顔を見た女達は顔を青ざめた。
「詳しく話せ」

 シャティーは何人もの男に告白をされたそうだが『祖国に恋人がいるから付き合えない』と断って居たそうだ。
 『なびかない華』と有名で、男達から彼女の心を奪える奴は誰だと賭け事の対象にもなっていたらしい。
 俺にでたらめを教えた女の旦那が、仲間と賭けて、彼女を襲おうとしたそうだが、逆に彼女に締め上げられ、兵につき出されて城を追い出された。

 くだらない女の嫉妬と逆恨みで、俺は彼女を誤解し、5年ぶりの再開を最悪なものにしたのだ。思わず絞め殺しそうになったのは仕方がない事だろう。

 他の使用人に命じて、シャティーが使用していた部屋に案内させた。
 そして、クローゼットの中に隠すよう日記と手紙、何かの調査報告書が置いてあった。

 そこにはーーーー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

白い初夜

NIWA
恋愛
ある日、子爵令嬢のアリシアは婚約者であるファレン・セレ・キルシュタイン伯爵令息から『白い結婚』を告げられてしまう。 しかし話を聞いてみればどうやら話が込み入っているようで──

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子
BL
三枝貴人は総合病院で働くゲーム大好きの医者。 ある日貴人は乙女ゲームの制作会社で働いている同居中の妹から依頼されて開発中のBLゲーム『シークレット・ラバー』をプレイする。 ゲームは「レイ・ヴァイオレット」という公爵令息をさまざまなキャラクターが攻略するというもので、攻略対象が1人だけという斬新なゲームだった。 プレイヤーは複数のキャラクターから気に入った主人公を選んでプレイし、レイを攻略する。 一緒に渡された設定資料には、主人公のライバル役として登場し、最後には断罪されるレイの婚約者「アシュリー・クロフォード」についての裏設定も書かれていた。 ゲームでは主人公をいじめ倒すアシュリー。だが実は体が弱く、さらに顔と手足を除く体のあちこちに謎の湿疹ができており、常に体調が悪かった。 両親やごく親しい周囲の人間以外には病弱であることを隠していたため、レイの目にはいつも不機嫌でわがままな婚約者としてしか映っていなかったのだ。 設定資料を読んだ三枝は「アシュリーが可哀想すぎる!」とアシュリー推しになる。 「もしも俺がアシュリーの兄弟や親友だったらこんな結末にさせないのに!」 そんな中、通勤途中の事故で死んだ三枝は名前しか出てこないアシュリーの義弟、「ルイス・クロフォードに転生する。前世の記憶を取り戻したルイスは推しであり兄のアシュリーを幸せにする為、全力でバッドエンド回避計画を実行するのだが――!?

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

処理中です...