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32話 結婚式

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「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、お互いを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
 
「「誓います」」

 今日は私とサイラスの結婚式だ。
 王都の教会で、たくさんの人に祝福され、幸せな一時を過ごしている。

「エスメローラ」
「お母様!オルトハット王国から遥々ありがとうございます」
 教会横の広場で立食パーティーを開き、参列してくれた人々にあいさつ回りが終わり、三年ぶりに家族に再会出来た。
 気持ちが高揚してしまい、はしたなく走りよってしまった。

「走ったら危ないでしょ。もう、いつまでたっても子供ね」
「ごめんなさい。嬉しくて……」
 お母様にお小言を言われたが、それも嬉しく思ってしまう。しょうがないわねって困った顔を見ると、無性に泣きたくなってしまう。

「エ"ス"メ"ロ"ーラ"~、ギレイだよ~」
 例のごとく、お父様は大号泣している。
 なんだか、学院の卒業パーティーを思い出してしまうわ。

「姉様、結婚おめでとう」
 少し見ない間に、ダッセルはずいぶんと体が大きくなったし、仕草も紳士然としていて、見違えてしまった。
「立派になったわね」
「ありがとう。姉様もすごく綺麗だよ。さすが、自慢の姉様だね」
「ふふ、ませちゃって」
 成長を感じるけど、笑った顔はよく知った弟の顔だった。

 あぁ、みんな元気そうで安心した。
 どうしよう、幸せ過ぎるわ。

「エスメローラ」
「サイラス」
 サイラスも合流した。
 あいさつ回りは済んだそうだ。

「兄様、お久しぶりです」
「あぁ、元気そうだな」

 ん?

「お義父さん、お義母さん。ご無沙汰しております」
「ふふ、そんなかしこまらないで」
「……うむ」

 え?

「兄様。僕、母様にチェスを習っているんだよ。今なら兄様に負けないよ!」
「え?!お義母さんに?!それはうかうか出来ないな。でも、お義母さんにはまだ勝ってないだろ?」
「うっ……。母様は別格だよ!」
「まぁ、そうだな」

「ちょっと待って!」
 思わず家族とサイラスの輪に割って入ってしまった。

「何でそんなに親しげなの?!」
「「え?」」
 全員、何でキョトンとするのよ。

 私は約三年ぶりに家族に会うのよ。
 サイラスを紹介しに帰郷したことはないわ。

 サラ様の時に会ってはいるが、秘密魔道具の存在は秘匿するはずだ。
 サラ様とサイラスを同一人物と知らないはずだ。

 え???

 サイラスとしては、私の家族と初対面のはずよね?

「サイラスさんは、エスメローラがイエルゴートに渡ってから、何度か我が家に来てくれているのよ」
「え?!」
 
 聞いてないわ!
 家族からの手紙にもそんな事は書いてなかったじゃない!

「エヴァンス公子がエスメローラを呼び戻す計画を画策する場合、手っ取り早いのは家族を人質にすることだろ?」
「まぁ……そうでしょうね」

「エヴァンス公子を止められる唯一の存在は?」
「……エヴァンス公爵様?」
「正解」

 すごく良い笑顔で言われても……。

 みんなの話を要約すると、サイラスはいろいろなツテを使ってエヴァンス公爵様の弱味を握ったらしい。どんな弱味かは教えてくれなかったが……。
 で、その情報を漏らされたくなければ、マルマーダ伯爵家に手を出すなと脅していたそうだ。

 そう言えば、イエルゴート王国に来て少ししてからエヴァンス公爵家から慰謝料が支払われてた。もしかして……。

 家族の顔を見たら、みんな良い笑顔をした。

 それから、私に求婚したあと、結婚の承諾をもらいに来ていたらしい。
 しかも、お父様と弓で決闘したとは驚きだった。

 全然知らなかったが、お父様は弓の名手らしい。剣術はからきしだから、遠距離攻撃できる弓を訓練していたそうだ。
 的を射る時の視線は、とても鋭くて痺れるほどカッコいいと、お母様が惚気たのは聞かなかった事にした。

『大事な娘をまかせられるのか、見極めてやる』
 なんて、小説でも希なセリフを言っていたらしい。恥ずかしいような、嬉しいような……。
 複雑な気持ちだ。

 勝負の結果は、武術全般に精通しているサイラスが勝利したらしい。
 落ち込むお父様を見かねて、お母様が得意のチェスで勝負を挑んだそうだ。なんと、ずっとお母様が勝ち越ししていると聞いて驚いた。

 ただ、お母様はサイラスをとても気に入っていたので、結婚に関しては賛成してくれたそうだ。

 なんだか……複雑。
 何でみんな教えてくれなかったのよ!

「何で教えてくれなかったのよ。家族の事を守ってくれたのは嬉しいし、感謝してるわ。でもオルトハット王国に行くなら一緒に連れていってくれればよかったじゃない!」
 思わずサイラスに詰め寄ってしまう。
 婚約報告なら私だって直接話したかったわ。

「それはわたくしがお願いしたからよ」
 お母様が口を開いた。
「貴女には何も言わないで欲しいって。貴女には知らせなかったけど、元エヴァンス公子の執着は相当なものだったわ。少しでも貴女の情報を得ようと何度も間者を送り込まれるし、旦那様なんて女を利用した罠を仕掛けられたのよ!ダッセルに高飛車傲慢令嬢から縁談の申込が来たり、本当に大変だったのよ」
「え?」

 なにそれ!?

「こんな話、貴女にしたら気に病んでしまうだろうし、最悪帰ってきちゃうじゃない。帰ってきたらきっと誘拐されてたわよ。それで監禁されて子供を孕まされて、絡め取られてたわ」
 みんなに頷かれた……。

「エスメローラ、ごめんな。護衛を強化しても、さすがに危険だったから、お義母さんの提案を受け入れたんだ。それに、私がマルマーダ伯爵家に出入りしていると相手に伝わると、変に刺激してしまう可能性もあって、極秘に行動せざるを得なかったんだ。秘密にしていたことは謝るよ。ごめんな」
 申し訳なさそうな顔をするサイラスを直視出来ず、私は視線を反らした。
 
 私を守るためだった。
 わかってるわ。
 サイラスが黙っていたのは、そうせざるを得ない状況だった。
 お母様だって私の身を安じるからこそ、秘密にして欲しいと提案したのよ。
 全部わかってるわ。

 ……でも、モヤモヤしてしまう。
 怒っているんじゃないの……ただ……。

「寂しいなって……。ごめんなさい。これは我儘。サイラス、私の家族を守ってくれてありがとう。私を守ってくれて、ありがとう」

 感謝する気持ちに嘘はないから。
 私はニッコリと微笑んだ。
 すると、サイラスが突然抱き締めてきた。
 
「……ごめん、ごめんな。寂しくさせてごめん。君を守るためでも、一人のけ者扱いしてごめん」
「いいの。我儘言ってごめんなさい」
「我儘なんかじゃないよ」

「ゴホンっ!」
 大きな咳払いが聞こえた。
 お父様だ。
 さっきまで号泣してたのに、ちょっと怒っているようだ。
「あなた達、イチャつくのは二人だけの時にしなさい」
 お母様が不意に視線を外に向けた。私もその視線の先を見ると、生暖かい目でみんなに見られていた。

 はっ、恥ずかしい……。
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