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第五章 もつれあう前世の因縁
ほんと、何言ってんの?
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「フィリス」
白っぽい少年だった。髪も肌も衣服も白で、瞳だけが赤。
少年が口にした、聞き慣れない名前にアゼルとルーク・シルヴァが反応しそびれた中。
クライスの表情が一段暗くなった。
「イカロス様。まだ調査中ですよ、ふらふら近づかないでください。あと僕の名前はクライスですけど」
「僕にはここに何か危険があるようには見えない」
クライスの邪険極まる態度に対し、イカロスは果敢に食い下がった。表情にはまだ余裕がある。
「危険ですってば。僕まだ喧嘩中ですし。ことと次第によっては流血の大惨事ですよ。可及的速やかに離れてください。カインは何してるんだ」
最後の一言は同僚へのぼやきだった。
説明に耳を傾けていたルーク・シルヴァは、遅ればせながら合点がいったようにひとり頷いた。
「もしかして、俺とクライスは喧嘩をしていたのか。何かつっかかってくるなとは思っていたが」
アゼルが明らかに(このひと大丈夫?)という視線を送ったのだが、やさぐれきっていたクライスはといえば「そうだよ!!」と勢いよく食ってかかった。
「そう言われても、俺には喧嘩する理由がないからな」
ルーク・シルヴァの返答は恐ろしく淡白だった。
「なっ……。その綺麗なひととルーク・シルヴァ、距離近いっていうか、くっついていたし、それはもう浮気」
「これと? 俺が?」
これ、呼ばわりされたアゼルに対し、クライスは「あれ、え?」と動揺した声を上げた。
(勘違い? でも、言うべきことは言わないと!)
「昨日……、禁欲生活つらいみたいなこと言っていたから。もしかして他の女のひととって」
言いながら顔を真っ赤にしつつ、声はどんどん小さくなっていく。
姿を見せずに様子を伺っていたロイドは、木の影で崩れ落ちていた。
「ルーク・シルヴァお前何言ってんの。ほんと、何言ってんの……」
どうにかロイドを支えようとしたが間に合わなかったクロノスも、幹に背中と後頭部を押し付けて「えーと」と思わずのように声を出して眼鏡のブリッジを指でおさえていた。
木陰でのやり取りなど知る由もないルーク・シルヴァは、クライスに微笑みかけてのんびりと言った。
「そうだな。お前いまあんまり俺に近づくなよ」
「なんで……!?」
「何もしない自信がない。今日もすごく可愛い」
禁欲生活辛いな、とルーク・シルヴァは悪びれなく付け足した。
クライスは顔から火を噴いて固まった。
アゼルに至っては「こういう空気のときは全滅する。全滅する。間違いなく全滅する。回復係なんだからしっかりしないと」と自分に言い聞かせていた。明らかに現実逃避しきった顔でどこか違うところを見ていた。
やりとりを見守っていたイカロスは、指が白くなるほど拳を強く握りしめつつ、笑顔で「そろそろいいかい?」と言った。
「だめですよ……っ。今は何もかもがだめです! 見てればわかるでしょう!?」
クライスが過剰なまでの拒否を示す。
「わからないから確認している。フィリスはその男のことが好きなの? 付き合ってるの? その上で禁欲を強いているの? まだ何もしてないの? 本当に?」
イカロスが少年らしい瑞々しい声で矢継ぎ早に言った。
* * *
「なんなのあれ。誰? 誰か知らないけどちょっとあいつら滅ぼしてほしい」
しゃみこんだまま呟くロイドに対し、クロノスが「うちの弟ですね」とそっけなく答えた。
「殿下の弟?」
「第三王子のイカロスです。しかしそれより気になるのが『フィリス』ですね。クライスの死んだ姉の名前です。死んだことになっているというか……」
考え深げに腕を組んで呟くクロノスの横顔を見上げて、ロイドも立ち上がった。
「殿下立ち直り早いね。オレもガタガタ言ってる場合じゃなかった」
言いながら、クロノスの組んだ腕にとん、と手で触れた。骨ばって固い感触が手に伝わる。なに? というように見下ろしたクロノスに、ロイドは微笑みかけた。特に深い意味はなかった。
* * *
「答える義務があるとは思えないんですが」
クライスは多少持ち直したらしく、咳払いをしてイカロスに向き直った。
ふっと顎をそらして、高慢さと勝気さをまなざしにのせたイカロスが、強い口調で言った。
「あるよ。あれはどう見ても男だ。男である君とあれがどうしてそんな熱愛もどきの痴話げんかをしているのかわからない。それともあいつは君の身体をもう知っているのか?」
対するクライスの表情はひどく固く、冷たかった。
「そんなこと知りたいの?」
「そんなこと、じゃない。大事なことだ。僕が君に男として生きて欲しいと頼んだ理由はただひとつ。誰にも君の身体を暴かせないためだ。生まれ変わった僕とめぐりあうまでね!」
胸に手を当てて熱弁をふるうイカロスを、クライスはさめきった目で見ていた。
やがて、はーっと大きなため息をもらした。
「いい加減にしなよそのシスコン。殿下の中身がクライスなのはわかったけど。生まれ変わって王子と部下になったからって、お姉ちゃんを好きにできると思わないでくれる。今の僕はフィリスではなく『クライス』だし、殿下とは全然知らない赤の他人同士だ。可愛い弟に言われるのもちょっと嫌なのに、いきなり王子殿下に『お前の身体が云々』言われてもふつうにめちゃくちゃ嫌だよ。そんなんで僕を説得できると本当に思っていたの? 一切合切おかしいよね?」
つい先ほどまでルーク・シルヴァに攻められて息も絶え絶えになっていたクライスとは同一人物と思えぬほどの端正な話しぶりであった。
「やっぱり、死んでいたのは双子の弟の『クライス』で、生き残った姉フィリスがクライスのふりをして生きていたってこと……? 『クライス』が死に際にお願いをして……?」
会話に耳をそばだてていたロイドが呟くも、クロノスは寡黙に口を閉ざしたまま。
鋭い視線をイカロスに向けている。
一方で、アゼルもまたいつでも戦闘に入れるようにと緊張を高めつつあった。
(何か嫌だ)
この真っ白の少年。
存在から、良いものが何も感じられない。
イカロスは、自分を睨みつけているアゼルに目を向けて、愉快そうに笑った。
「久しぶり、アゼル」
名前を呼ばれてアゼルが顔を強張らせたのと同時に、クロノスが木の陰から姿を現した。イカロスはさらに笑みを深めた。
「兄さんというべきか。それとも……ステファノ?」
歯をくいしばって睨みをきかせているアゼルを背にかばうように、クロノスが進み出る。
少年を見極めるように見据えて、かけていた黒縁眼鏡を左手で外した。
「お前は誰だ。イカロスじゃないのか」
「イカロスだよ。ただ僕はね、『死によって記憶が途切れない存在』なんだ。イカロスの前に生きたクライスの記憶はしっかりある。それ以前の記憶もずっと続いているんだ。兄さんとは、そうだね。前前世にまみえている。本当に強い魔導士だった、ステファノ。まさか今回は兄弟として生まれつくなんて考えもしなかったけど」
場違いなまでに、澄んだ明るい笑い声。
どこか空虚で、親しみを感じられない。
「俺の名前を知っているということは、前前世ではそれなりに近くにいたと見て良いのか。あいにく誰だか見当もつかないな。もったいぶらずに名乗って欲しいものだ」
言いながら、クロノスは魔導士ステファノとしての知識をめまぐるしく探り始める。
死によって記憶が途絶えることのない存在。
どこかで聞いたことがある。あまり良い感触ではない。
危険な予感がする。
ルーク・シルヴァは口を挟まずにおとなしく見ていたが、クライスが視線を向けると音も無く歩き出した。身動きをしないままだったクライスの横に並び立つ。
「剣ができるのは知っている。魔法に関しては俺が防ぐ」
特に抑えたわけではないようだが、身体に直接響くような低い声で告げられてクライスは小さく頷いた。
イカロスは一同を見回すと、真っ赤な瞳を輝かせて顔全体に笑みを広げた。
「前前世ではね。僕は勇者ルミナスの運命の相手だった。ステファノのことも、アゼルのこともよく知っているよ。だって命がけで戦ったからね。それでさ、最後の最後に、本当は手に入れるはずだったのに、少しばかり手元が狂って殺しちゃったんだ。あのときは正直絶望したよ。だけど同時に死ねたから、同時に生まれ変わることができた。せっかくすごく近い場所に生まれついたのに、ちょっと弱い個体だったから、成長する前に死んじゃったけど。……ねえ、二人とも、そこの赤毛が誰かはわかっているんだよね? 邪魔しないでくれる? 僕はどうしても欲しいんだよ。ずーっと欲しかったんだ」
クロノスは外した眼鏡をアゼルに手渡した。「下がってていいよ」と囁きかける。
心配そうに見上げたアゼルに、にこりと微笑みかけた。
そのえみを目に焼き付けるように見つめながら、アゼルは独り言のように呟く。
「現状、一番恋敵的な意味で邪魔なのは、ステファノじゃなくてあっちの銀髪だと思うんだけど……」
ルミナスに関わることである以上、ステファノ=クロノスが受けて立つというその心理は痛いほどわかってしまうとはいえ。
「話を聞いていると、イカロスのその『前前世』、その状況に該当しそうな相手は俺は一人しか思い浮かばない」
クロノスの右手に、ちりちりと青い光が迸る。
肯定するように、イカロスは笑って言った。
「多分兄さんの考えで間違いない。あのときルミナスの息の根を止めた相手といえば──。そう、僕の前前世は『魔王』だよ」
白っぽい少年だった。髪も肌も衣服も白で、瞳だけが赤。
少年が口にした、聞き慣れない名前にアゼルとルーク・シルヴァが反応しそびれた中。
クライスの表情が一段暗くなった。
「イカロス様。まだ調査中ですよ、ふらふら近づかないでください。あと僕の名前はクライスですけど」
「僕にはここに何か危険があるようには見えない」
クライスの邪険極まる態度に対し、イカロスは果敢に食い下がった。表情にはまだ余裕がある。
「危険ですってば。僕まだ喧嘩中ですし。ことと次第によっては流血の大惨事ですよ。可及的速やかに離れてください。カインは何してるんだ」
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説明に耳を傾けていたルーク・シルヴァは、遅ればせながら合点がいったようにひとり頷いた。
「もしかして、俺とクライスは喧嘩をしていたのか。何かつっかかってくるなとは思っていたが」
アゼルが明らかに(このひと大丈夫?)という視線を送ったのだが、やさぐれきっていたクライスはといえば「そうだよ!!」と勢いよく食ってかかった。
「そう言われても、俺には喧嘩する理由がないからな」
ルーク・シルヴァの返答は恐ろしく淡白だった。
「なっ……。その綺麗なひととルーク・シルヴァ、距離近いっていうか、くっついていたし、それはもう浮気」
「これと? 俺が?」
これ、呼ばわりされたアゼルに対し、クライスは「あれ、え?」と動揺した声を上げた。
(勘違い? でも、言うべきことは言わないと!)
「昨日……、禁欲生活つらいみたいなこと言っていたから。もしかして他の女のひととって」
言いながら顔を真っ赤にしつつ、声はどんどん小さくなっていく。
姿を見せずに様子を伺っていたロイドは、木の影で崩れ落ちていた。
「ルーク・シルヴァお前何言ってんの。ほんと、何言ってんの……」
どうにかロイドを支えようとしたが間に合わなかったクロノスも、幹に背中と後頭部を押し付けて「えーと」と思わずのように声を出して眼鏡のブリッジを指でおさえていた。
木陰でのやり取りなど知る由もないルーク・シルヴァは、クライスに微笑みかけてのんびりと言った。
「そうだな。お前いまあんまり俺に近づくなよ」
「なんで……!?」
「何もしない自信がない。今日もすごく可愛い」
禁欲生活辛いな、とルーク・シルヴァは悪びれなく付け足した。
クライスは顔から火を噴いて固まった。
アゼルに至っては「こういう空気のときは全滅する。全滅する。間違いなく全滅する。回復係なんだからしっかりしないと」と自分に言い聞かせていた。明らかに現実逃避しきった顔でどこか違うところを見ていた。
やりとりを見守っていたイカロスは、指が白くなるほど拳を強く握りしめつつ、笑顔で「そろそろいいかい?」と言った。
「だめですよ……っ。今は何もかもがだめです! 見てればわかるでしょう!?」
クライスが過剰なまでの拒否を示す。
「わからないから確認している。フィリスはその男のことが好きなの? 付き合ってるの? その上で禁欲を強いているの? まだ何もしてないの? 本当に?」
イカロスが少年らしい瑞々しい声で矢継ぎ早に言った。
* * *
「なんなのあれ。誰? 誰か知らないけどちょっとあいつら滅ぼしてほしい」
しゃみこんだまま呟くロイドに対し、クロノスが「うちの弟ですね」とそっけなく答えた。
「殿下の弟?」
「第三王子のイカロスです。しかしそれより気になるのが『フィリス』ですね。クライスの死んだ姉の名前です。死んだことになっているというか……」
考え深げに腕を組んで呟くクロノスの横顔を見上げて、ロイドも立ち上がった。
「殿下立ち直り早いね。オレもガタガタ言ってる場合じゃなかった」
言いながら、クロノスの組んだ腕にとん、と手で触れた。骨ばって固い感触が手に伝わる。なに? というように見下ろしたクロノスに、ロイドは微笑みかけた。特に深い意味はなかった。
* * *
「答える義務があるとは思えないんですが」
クライスは多少持ち直したらしく、咳払いをしてイカロスに向き直った。
ふっと顎をそらして、高慢さと勝気さをまなざしにのせたイカロスが、強い口調で言った。
「あるよ。あれはどう見ても男だ。男である君とあれがどうしてそんな熱愛もどきの痴話げんかをしているのかわからない。それともあいつは君の身体をもう知っているのか?」
対するクライスの表情はひどく固く、冷たかった。
「そんなこと知りたいの?」
「そんなこと、じゃない。大事なことだ。僕が君に男として生きて欲しいと頼んだ理由はただひとつ。誰にも君の身体を暴かせないためだ。生まれ変わった僕とめぐりあうまでね!」
胸に手を当てて熱弁をふるうイカロスを、クライスはさめきった目で見ていた。
やがて、はーっと大きなため息をもらした。
「いい加減にしなよそのシスコン。殿下の中身がクライスなのはわかったけど。生まれ変わって王子と部下になったからって、お姉ちゃんを好きにできると思わないでくれる。今の僕はフィリスではなく『クライス』だし、殿下とは全然知らない赤の他人同士だ。可愛い弟に言われるのもちょっと嫌なのに、いきなり王子殿下に『お前の身体が云々』言われてもふつうにめちゃくちゃ嫌だよ。そんなんで僕を説得できると本当に思っていたの? 一切合切おかしいよね?」
つい先ほどまでルーク・シルヴァに攻められて息も絶え絶えになっていたクライスとは同一人物と思えぬほどの端正な話しぶりであった。
「やっぱり、死んでいたのは双子の弟の『クライス』で、生き残った姉フィリスがクライスのふりをして生きていたってこと……? 『クライス』が死に際にお願いをして……?」
会話に耳をそばだてていたロイドが呟くも、クロノスは寡黙に口を閉ざしたまま。
鋭い視線をイカロスに向けている。
一方で、アゼルもまたいつでも戦闘に入れるようにと緊張を高めつつあった。
(何か嫌だ)
この真っ白の少年。
存在から、良いものが何も感じられない。
イカロスは、自分を睨みつけているアゼルに目を向けて、愉快そうに笑った。
「久しぶり、アゼル」
名前を呼ばれてアゼルが顔を強張らせたのと同時に、クロノスが木の陰から姿を現した。イカロスはさらに笑みを深めた。
「兄さんというべきか。それとも……ステファノ?」
歯をくいしばって睨みをきかせているアゼルを背にかばうように、クロノスが進み出る。
少年を見極めるように見据えて、かけていた黒縁眼鏡を左手で外した。
「お前は誰だ。イカロスじゃないのか」
「イカロスだよ。ただ僕はね、『死によって記憶が途切れない存在』なんだ。イカロスの前に生きたクライスの記憶はしっかりある。それ以前の記憶もずっと続いているんだ。兄さんとは、そうだね。前前世にまみえている。本当に強い魔導士だった、ステファノ。まさか今回は兄弟として生まれつくなんて考えもしなかったけど」
場違いなまでに、澄んだ明るい笑い声。
どこか空虚で、親しみを感じられない。
「俺の名前を知っているということは、前前世ではそれなりに近くにいたと見て良いのか。あいにく誰だか見当もつかないな。もったいぶらずに名乗って欲しいものだ」
言いながら、クロノスは魔導士ステファノとしての知識をめまぐるしく探り始める。
死によって記憶が途絶えることのない存在。
どこかで聞いたことがある。あまり良い感触ではない。
危険な予感がする。
ルーク・シルヴァは口を挟まずにおとなしく見ていたが、クライスが視線を向けると音も無く歩き出した。身動きをしないままだったクライスの横に並び立つ。
「剣ができるのは知っている。魔法に関しては俺が防ぐ」
特に抑えたわけではないようだが、身体に直接響くような低い声で告げられてクライスは小さく頷いた。
イカロスは一同を見回すと、真っ赤な瞳を輝かせて顔全体に笑みを広げた。
「前前世ではね。僕は勇者ルミナスの運命の相手だった。ステファノのことも、アゼルのこともよく知っているよ。だって命がけで戦ったからね。それでさ、最後の最後に、本当は手に入れるはずだったのに、少しばかり手元が狂って殺しちゃったんだ。あのときは正直絶望したよ。だけど同時に死ねたから、同時に生まれ変わることができた。せっかくすごく近い場所に生まれついたのに、ちょっと弱い個体だったから、成長する前に死んじゃったけど。……ねえ、二人とも、そこの赤毛が誰かはわかっているんだよね? 邪魔しないでくれる? 僕はどうしても欲しいんだよ。ずーっと欲しかったんだ」
クロノスは外した眼鏡をアゼルに手渡した。「下がってていいよ」と囁きかける。
心配そうに見上げたアゼルに、にこりと微笑みかけた。
そのえみを目に焼き付けるように見つめながら、アゼルは独り言のように呟く。
「現状、一番恋敵的な意味で邪魔なのは、ステファノじゃなくてあっちの銀髪だと思うんだけど……」
ルミナスに関わることである以上、ステファノ=クロノスが受けて立つというその心理は痛いほどわかってしまうとはいえ。
「話を聞いていると、イカロスのその『前前世』、その状況に該当しそうな相手は俺は一人しか思い浮かばない」
クロノスの右手に、ちりちりと青い光が迸る。
肯定するように、イカロスは笑って言った。
「多分兄さんの考えで間違いない。あのときルミナスの息の根を止めた相手といえば──。そう、僕の前前世は『魔王』だよ」
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