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第四章 腹黒王子と付き合いの良い魔族たち
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女性になりましょうといわれたので、なってみました。
その結果、今現在クライスにドン引きされています。
「女性の着替えを見るわけにはいかないので!」
と言って部屋を出て行ったクライスを、変化して女性用の服を着て「もう入っていいぞー」と呼び戻したのは三十秒ほど前。
入ってきて、目が合って、全身を眺めてから、クライスは「うっわ……」と言いつつ背をドアに張り付かせて固まってしまった。
「どういう反応なんだろう」
ロイドは苦笑してさらりと肩にこぼれた髪を後ろに払う。
その仕草を見ていたクライスが、喉をごくりと鳴らしてようやく言った。
「ロイドさん……?」
「そうだけど。オレの場合、女性型でいることが多かったから、こっちの方が年齢高めに出るんだよね」
男性のときは短髪だったが、女性型になると好みで長めの髪にしてしまう。その髪を手で掴んで「傷んでないかなー」とのんびり言いながらみていると、クライスが「あの」と声をかけてきた。
「どうした?」
「美女過ぎ! 女装して恥ずかしいの、本当に僕だけじゃないですか……。なんでそんなにスタイル抜群美人なんですかあああああ」
女性型のロイドは、外見年齢二十代後半くらい。身長は男性型とあまり変わらないが、身体にメリハリが出る。荷物になるのを嫌って、普段は女性用の服はごく薄いキャミソールドレス一揃えしか持ち歩いていない。そのため、クライスが目にしたのは胸や腰のラインがくっきりとしたドレス姿。
ロイドは小さく頷きながら、クライスに微笑みかけた。
「クライス可愛いよ? 女装、恥ずかしくないからね?」
「やめてくださいよおおおお、そんな美人に言われたら余計恥ずかしいじゃないですか!!」
クライスの絶叫が、ふつりと途絶えた。
どうしたのだろうとロイドは小首を傾げた。その視線の先で、表情をうかがわせないほど俯いたクライスが呟いた。
「ロイドさん、女性型でいることが多かったというのはつまり、男性型のルーク・シルヴァといるときに女性型をとることが多かったということですか」
「うん」
特に含むところもないので、ロイドは平淡な調子で肯定した。
「そうですか……。へえ」
声が低く、不穏。そのままずぶずぶと地にめりこみそうな勢いでしゃがみこんでしまう。
「ん……!? なに……!?」
普通の沈み方ではない。焦って駆け寄り、肩に手をかける。
すると、もはや泣き出す一歩手前のクライスにうるっとした上目遣いで見られた。
「ごめんなさい。自覚はあるんですけど、僕、かなり嫉妬深いんです……」
「嫉妬!? オレ!?」
何で!? と焦るロイドをさておき、落ち込み切った様子でクライスは続けた。
「美人過ぎるんです。ルーク・シルヴァと超お似合いじゃないですか。想像したくないけどしちゃった、いっぱいしちゃった……」
「いっぱいって何!? この短時間に!? ちょっとやめて、オレはあいつとはお友達だからね!?」
「それ、『今は』とか『男性型のときは』とか見えない注釈ついていませんか?」
「すごい思い込みだね!? 落ち着いて!? 妄想激し過ぎだよ!」
クライスは意を決したようにすくっと立ち上がり、視線を真っ向からロイドに叩き付けて堂々たる態度で言った。
「美人を前にしたら普通いけない妄想の一つや二つ三つするでしょう!! 男をなんだと思ってるんですか!?」
「いや、君女の子でしょ!? 女の子が妄想しちゃいけないとは言わないけど、そこまで清々しく男じゃなくても良くない!?」
オレは今何を言い切られたんだ!? と焦るロイドの手をとり、見た目は可憐な美少女であるクライスは熱っぽい眼差しで言った。
「ロイドさんやばい超可愛い」
「間違えてるよ!? オレ別に可愛くないし、君は今オレとあいつの仲を疑ってなんか嫉妬してたよね? ……してたよね……?」
「嫉妬はしましたけど、それはそれとして可愛いものは可愛いんです。美人で可愛いって最強」
言いながら再び何かを思い出したようにうなだれる。
まさかの嫉妬再来? まさか。と思ったものの、何かぶつぶつ言っているのに耳を澄ませた限り、どうもルーク・シルヴァへの恨み言が炸裂している。
(え……えええ何この子面倒くさい……)
あの元魔王の心を射止めているからどれだけの人物なのか、何か計り知れない美徳がどこかに隠されているに違いないと無邪気に信じこもうとしていたのに、不安になってくる。普通に面倒くさい。
「ま……、いいや。どうせ一日は戻れないし。君も少し休んで落ち着いただろうから、このまま晩飯にでも行こう」
この子、疲れて少し情緒不安定なだけだよな。そう納得することにして、精一杯微笑んでみせた。
* * *
大きな町ということもあり、日が暮れてから賑わう店もあるせいか、通りには行き交う人の姿も多い。
大胆なドレスの美女ロイドと、可愛い系美少女であるところのクライスは、それぞれ杖や剣で武装しているのだが、単純に注目を集めるようで、果敢に声をかけてくる男もそれなりにいた。
(一応オレが保護者だよね)
ルーク・シルヴァからの厳命もあるし。
その思いから、「前衛は僕が」と申し出てきたクライスを後ろにかばって、ナンパ男はロイドが軽くいなした。穏やかな普段の顔は余所行きのようなもので、その気になれば強烈な眼光だけで人間の男などいくらでも蹴散らせる。
「前衛が全キルしてる……」
まったく手を出す隙すら見いだせないクライスが、後ろでぼやいていた。
「面倒だからその辺の店に入ろう」
目当ての店があったわけでもないので、通りから入りやすい店に決め、二人で連れ立って入口をくぐる。
店内はさほどの広さではなかったが、奥に野外席があるらしい。季節的にちょうど夜風が気持ちよく、そちらに行こうとした。だが、今日は込み合っていて満席で、と店員に説明を受けて屋内の席に落ち着いた。
野外席から死角になる隅の席で、薄暗いこともありあまり目立たない。
人に見られての食事も落ち着かないので、これはこれで、と納得した。
ロイドがメニューを眺めて、適当に注文する。
クライスは酒は飲まないので、酒はロイドだけ、クライスは蜂蜜入りのミルクを頼んで、二人で杯をぶつけて乾杯した。
「それにしてもロイドさん、失礼な男性の扱い、手際よかったですねー。こんな美女と歩くことなんてないから、僕が守るつもりだったのに。手も足も出なかった」
妙に落ち込んでいるクライスに、ロイドはくすくすと声を立てて笑った。
「自覚ないみたいだけど、君こそ可愛いよ。変な虫が近づこうものなら、オレが全部追い払ってあげる」
「ロイドさんカッコイイ。僕もそういうセリフ言いたい……。今度女性の要人を護衛する仕事のときに言おう」
「なんだそれ」
ロイドは遠慮なく噴き出した。
食事は和やかに進んだ。
話題は自然と尽きることがなかった。
宿での様子をみる限り、絶対気にしているだろうに、クライスはロイドやルーク・シルヴァの過去や関係を詮索するようなことは一切なかった。
(聞かれたら、言える範囲で答えるつもりだったのに)
そう思いつつ、意外なほどに控えめな話しぶりに、ロイドは純粋に心地よさを覚えていた。こうしている限り、クライスは全然「面倒な子」ではない。
あらかた食事を終えた頃、ふとクライスの視線が店内をさまよった。
「どうした?」
「見たことある人がいたような……」
(あ、女の子の恰好をしているからか)
見られたらそれなりにまずい相手らしい、と気付いてロイドはさりげなく椅子をずらす。クライスを身体でかばいつつ「どの辺にいる?」と視線を店内に投げる。
「あの亜麻色の髪の……。うん。気のせいじゃない。いつもと髪型が違うけど、あの人第三王子付きのアンジェラだ」
「第三王子……? ああ、そうか。王宮で見たのか。オレも見覚えがあるはずだ。彼女、同じ宿に泊まってるみたいだぞ」
クライスの視線の先にいる女性を見て、ロイドは小声で呟く。
「やっぱりそうか。たぶんさっき宿でもすれ違った。一瞬だからよくわからなかったけど……」
唇を噛みしめて渋面になったクライス。「いつ?」とロイドが聞くと「温泉。といってもお互い入るところまでは見てないからギリギリ大丈夫かも」と自分に言い聞かせる様子で答える。
「何しているんだろう。第三王子ってひきこもりで公的な場には姿を見せないんだけど、たまに城下にはふらっと出るから警備が大変って聞いたことあるけど……それかな」
「うーん? でもあそこ王子が泊まるような宿じゃないと思うけど」
「それは、お忍びだろうし。どこか近くに王子もいるのかな」
ロイドの影になるように、身を縮こませながらクライスが言う。
(女性型になってて良かったかも。さっき会ったオレだとは気付かないだろう)
万が一目が合っても、知らないふりで通そう。
そう思いつつ、ちらちらと様子を伺っていたロイドとクライスであったが。
野外席の方から颯爽と歩いてきた二人の男を目にして同時に息を呑んだ。
二人で、見間違えではないかと、顔を見合わせて確かめあう。
背の高い銀髪と、毛先を遊ばせた黒髪の男。
「どういう組み合わせ……?」
クライスは血の気のひいた顔をしている。
あまりにも思いがけない出会いに、喜ぶよりも困惑し、ついで今の自分の服装からして絶対に会えないと思っているせいだろう。
ロイドは会えない理由はないのだが、クライスを知人の目からかばう責務があるので動けない。
ひとまず見送ろうと決め込んだ先で。
銀髪の男が何かに気付いたように立ち止まった。
まったく、鮮やかな手際で、亜麻色の髪の女性に近づくと抱き寄せる仕草をした。
「!!」
先程とはまったく違う意味でロイドもクライスも息を呑んだ。
ロイドとしては(ああ、これはやばいな。やばいでしょ)という意味で。
クライスは言わずもがな。
ただでさえ血の気のひいた顔に、絶望に染まった瞳が昏く輝いていた。
その結果、今現在クライスにドン引きされています。
「女性の着替えを見るわけにはいかないので!」
と言って部屋を出て行ったクライスを、変化して女性用の服を着て「もう入っていいぞー」と呼び戻したのは三十秒ほど前。
入ってきて、目が合って、全身を眺めてから、クライスは「うっわ……」と言いつつ背をドアに張り付かせて固まってしまった。
「どういう反応なんだろう」
ロイドは苦笑してさらりと肩にこぼれた髪を後ろに払う。
その仕草を見ていたクライスが、喉をごくりと鳴らしてようやく言った。
「ロイドさん……?」
「そうだけど。オレの場合、女性型でいることが多かったから、こっちの方が年齢高めに出るんだよね」
男性のときは短髪だったが、女性型になると好みで長めの髪にしてしまう。その髪を手で掴んで「傷んでないかなー」とのんびり言いながらみていると、クライスが「あの」と声をかけてきた。
「どうした?」
「美女過ぎ! 女装して恥ずかしいの、本当に僕だけじゃないですか……。なんでそんなにスタイル抜群美人なんですかあああああ」
女性型のロイドは、外見年齢二十代後半くらい。身長は男性型とあまり変わらないが、身体にメリハリが出る。荷物になるのを嫌って、普段は女性用の服はごく薄いキャミソールドレス一揃えしか持ち歩いていない。そのため、クライスが目にしたのは胸や腰のラインがくっきりとしたドレス姿。
ロイドは小さく頷きながら、クライスに微笑みかけた。
「クライス可愛いよ? 女装、恥ずかしくないからね?」
「やめてくださいよおおおお、そんな美人に言われたら余計恥ずかしいじゃないですか!!」
クライスの絶叫が、ふつりと途絶えた。
どうしたのだろうとロイドは小首を傾げた。その視線の先で、表情をうかがわせないほど俯いたクライスが呟いた。
「ロイドさん、女性型でいることが多かったというのはつまり、男性型のルーク・シルヴァといるときに女性型をとることが多かったということですか」
「うん」
特に含むところもないので、ロイドは平淡な調子で肯定した。
「そうですか……。へえ」
声が低く、不穏。そのままずぶずぶと地にめりこみそうな勢いでしゃがみこんでしまう。
「ん……!? なに……!?」
普通の沈み方ではない。焦って駆け寄り、肩に手をかける。
すると、もはや泣き出す一歩手前のクライスにうるっとした上目遣いで見られた。
「ごめんなさい。自覚はあるんですけど、僕、かなり嫉妬深いんです……」
「嫉妬!? オレ!?」
何で!? と焦るロイドをさておき、落ち込み切った様子でクライスは続けた。
「美人過ぎるんです。ルーク・シルヴァと超お似合いじゃないですか。想像したくないけどしちゃった、いっぱいしちゃった……」
「いっぱいって何!? この短時間に!? ちょっとやめて、オレはあいつとはお友達だからね!?」
「それ、『今は』とか『男性型のときは』とか見えない注釈ついていませんか?」
「すごい思い込みだね!? 落ち着いて!? 妄想激し過ぎだよ!」
クライスは意を決したようにすくっと立ち上がり、視線を真っ向からロイドに叩き付けて堂々たる態度で言った。
「美人を前にしたら普通いけない妄想の一つや二つ三つするでしょう!! 男をなんだと思ってるんですか!?」
「いや、君女の子でしょ!? 女の子が妄想しちゃいけないとは言わないけど、そこまで清々しく男じゃなくても良くない!?」
オレは今何を言い切られたんだ!? と焦るロイドの手をとり、見た目は可憐な美少女であるクライスは熱っぽい眼差しで言った。
「ロイドさんやばい超可愛い」
「間違えてるよ!? オレ別に可愛くないし、君は今オレとあいつの仲を疑ってなんか嫉妬してたよね? ……してたよね……?」
「嫉妬はしましたけど、それはそれとして可愛いものは可愛いんです。美人で可愛いって最強」
言いながら再び何かを思い出したようにうなだれる。
まさかの嫉妬再来? まさか。と思ったものの、何かぶつぶつ言っているのに耳を澄ませた限り、どうもルーク・シルヴァへの恨み言が炸裂している。
(え……えええ何この子面倒くさい……)
あの元魔王の心を射止めているからどれだけの人物なのか、何か計り知れない美徳がどこかに隠されているに違いないと無邪気に信じこもうとしていたのに、不安になってくる。普通に面倒くさい。
「ま……、いいや。どうせ一日は戻れないし。君も少し休んで落ち着いただろうから、このまま晩飯にでも行こう」
この子、疲れて少し情緒不安定なだけだよな。そう納得することにして、精一杯微笑んでみせた。
* * *
大きな町ということもあり、日が暮れてから賑わう店もあるせいか、通りには行き交う人の姿も多い。
大胆なドレスの美女ロイドと、可愛い系美少女であるところのクライスは、それぞれ杖や剣で武装しているのだが、単純に注目を集めるようで、果敢に声をかけてくる男もそれなりにいた。
(一応オレが保護者だよね)
ルーク・シルヴァからの厳命もあるし。
その思いから、「前衛は僕が」と申し出てきたクライスを後ろにかばって、ナンパ男はロイドが軽くいなした。穏やかな普段の顔は余所行きのようなもので、その気になれば強烈な眼光だけで人間の男などいくらでも蹴散らせる。
「前衛が全キルしてる……」
まったく手を出す隙すら見いだせないクライスが、後ろでぼやいていた。
「面倒だからその辺の店に入ろう」
目当ての店があったわけでもないので、通りから入りやすい店に決め、二人で連れ立って入口をくぐる。
店内はさほどの広さではなかったが、奥に野外席があるらしい。季節的にちょうど夜風が気持ちよく、そちらに行こうとした。だが、今日は込み合っていて満席で、と店員に説明を受けて屋内の席に落ち着いた。
野外席から死角になる隅の席で、薄暗いこともありあまり目立たない。
人に見られての食事も落ち着かないので、これはこれで、と納得した。
ロイドがメニューを眺めて、適当に注文する。
クライスは酒は飲まないので、酒はロイドだけ、クライスは蜂蜜入りのミルクを頼んで、二人で杯をぶつけて乾杯した。
「それにしてもロイドさん、失礼な男性の扱い、手際よかったですねー。こんな美女と歩くことなんてないから、僕が守るつもりだったのに。手も足も出なかった」
妙に落ち込んでいるクライスに、ロイドはくすくすと声を立てて笑った。
「自覚ないみたいだけど、君こそ可愛いよ。変な虫が近づこうものなら、オレが全部追い払ってあげる」
「ロイドさんカッコイイ。僕もそういうセリフ言いたい……。今度女性の要人を護衛する仕事のときに言おう」
「なんだそれ」
ロイドは遠慮なく噴き出した。
食事は和やかに進んだ。
話題は自然と尽きることがなかった。
宿での様子をみる限り、絶対気にしているだろうに、クライスはロイドやルーク・シルヴァの過去や関係を詮索するようなことは一切なかった。
(聞かれたら、言える範囲で答えるつもりだったのに)
そう思いつつ、意外なほどに控えめな話しぶりに、ロイドは純粋に心地よさを覚えていた。こうしている限り、クライスは全然「面倒な子」ではない。
あらかた食事を終えた頃、ふとクライスの視線が店内をさまよった。
「どうした?」
「見たことある人がいたような……」
(あ、女の子の恰好をしているからか)
見られたらそれなりにまずい相手らしい、と気付いてロイドはさりげなく椅子をずらす。クライスを身体でかばいつつ「どの辺にいる?」と視線を店内に投げる。
「あの亜麻色の髪の……。うん。気のせいじゃない。いつもと髪型が違うけど、あの人第三王子付きのアンジェラだ」
「第三王子……? ああ、そうか。王宮で見たのか。オレも見覚えがあるはずだ。彼女、同じ宿に泊まってるみたいだぞ」
クライスの視線の先にいる女性を見て、ロイドは小声で呟く。
「やっぱりそうか。たぶんさっき宿でもすれ違った。一瞬だからよくわからなかったけど……」
唇を噛みしめて渋面になったクライス。「いつ?」とロイドが聞くと「温泉。といってもお互い入るところまでは見てないからギリギリ大丈夫かも」と自分に言い聞かせる様子で答える。
「何しているんだろう。第三王子ってひきこもりで公的な場には姿を見せないんだけど、たまに城下にはふらっと出るから警備が大変って聞いたことあるけど……それかな」
「うーん? でもあそこ王子が泊まるような宿じゃないと思うけど」
「それは、お忍びだろうし。どこか近くに王子もいるのかな」
ロイドの影になるように、身を縮こませながらクライスが言う。
(女性型になってて良かったかも。さっき会ったオレだとは気付かないだろう)
万が一目が合っても、知らないふりで通そう。
そう思いつつ、ちらちらと様子を伺っていたロイドとクライスであったが。
野外席の方から颯爽と歩いてきた二人の男を目にして同時に息を呑んだ。
二人で、見間違えではないかと、顔を見合わせて確かめあう。
背の高い銀髪と、毛先を遊ばせた黒髪の男。
「どういう組み合わせ……?」
クライスは血の気のひいた顔をしている。
あまりにも思いがけない出会いに、喜ぶよりも困惑し、ついで今の自分の服装からして絶対に会えないと思っているせいだろう。
ロイドは会えない理由はないのだが、クライスを知人の目からかばう責務があるので動けない。
ひとまず見送ろうと決め込んだ先で。
銀髪の男が何かに気付いたように立ち止まった。
まったく、鮮やかな手際で、亜麻色の髪の女性に近づくと抱き寄せる仕草をした。
「!!」
先程とはまったく違う意味でロイドもクライスも息を呑んだ。
ロイドとしては(ああ、これはやばいな。やばいでしょ)という意味で。
クライスは言わずもがな。
ただでさえ血の気のひいた顔に、絶望に染まった瞳が昏く輝いていた。
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