5 / 122
第一章 策士のデート
月明かりに夜の船
しおりを挟む
不安になるくらいなら、聞けばいいのに。
並んで指輪見ていても、全然集中してないのが痛いほど伝わってくる。
(王族にあれだけ生意気な口きく奴が、どうして俺に対して、そこまで臆病になるのか)
「指輪は次回にしよう。集中してないときに選んでも、ずーっと迷いが残る」
リュートが声をかけると、消沈した様子のクライスは反論もなく頷いた。
「そうだね。ここまで付き合ってもらったのに、悪い」
「別に。次回って言ってるんだ。焦るな」
上の空のクライスに言い聞かせてから、リュートは目をつけていた商品を店員に包んでくれるようにお願いした。
クライスは心ここにあらずで店内を見て回っている。
「帰るぞ。……ほら」
手を差し出しても、ぼんやりしている。
ため息をついてリュートはクライスの手を掴んで引っ張った。
「気になるなら聞けよ。何遠慮してるんだよ。俺を信用しろって言っただろ。悪いことは何もなかった」
「クロノス王子ってなんか怖いんだよ。何考えてるかわからなくて。なんで鉢合わせするかな……」
「あれだけあしらっておいて、よく言う」
「僕のことはいいんだ。リュート……『ルーナ』が目をつけられたんじゃないかって」
「もしそうだとしても、俺は自分でどうにかできる。気にするな」
ぐずぐずしているクライスの手を引いて、夕暮れの気配漂う街路を歩く。
クライスの歩みが、遅れる。
「まだ何かひっかかってるのか?」
振り返って見上げると、クライスから悩まし気な視線を送られた。
「ルーナって、誰? 女の人の名前だよね。僕、リュートの交友関係あんまり知らないし」
(しいていえばルミナス、前世のお前の愛称に近い……。言えねーな)
ぱっと浮かんだから言ってしまったけど、今思えばあまり良くなかった。
クロノスの記憶が、それで刺激されたのもあるかもしれない。
「いまの知り合いの誰かというわけでは。ただ、王子に言ってしまったし、今後はそれでいこう。それより、晩飯の店は目星ついてるのか」
「うん。予約いれてる。指輪買わなかったし、支払いはもちろん僕が」
「却下。今日使わなくても後で使う金だろそれ。俺に何回も同じこと言わせんな。宮廷魔導士だって給料出てるんだ」
妙に落ち込んでしおらしくなったクライスを引きずって歩いていたが、ふと気づいて立ち止まる。夕陽を頬に受けているクライスを今一度見上げて聞いた。
「道を知らない俺に先を歩かせてる場合か。迷うぞ」
クライスは、滲むような笑みを浮かべた。
「ごめん。こんなに可愛い女の子連れてるんだし、しっかりしないと。ついてきてくれる? 失敗したくなくて下見したんだ、美味しいお店だよ」
カッコつけたいなら、「下見した」は言わなくても。
そう思ったけど、ようやく持ち直したクライスを突き放すのは忍びなくて、黙った。
* * *
食事の後、王宮に戻るつもりだったが、クライスに反対された。
「女の子の姿でリュートの部屋を出入りしてるところ見られない方がいいよ。特に今日は監視がついてるかもしれない」
「王子の差し金か。近衛騎士のお前が言うなら、やりかねないんだろう。それなら、この後は」
店を出て、すっかり暗くなり、人影も少なくなった道を並んで歩きながら何気なく聞く。
クライスは無言のまま、リュートに肩を寄せてその手を握りしめた。
「僕は外泊許可をとってるから。隊舎に戻らなくてもいいんだけど」
「俺も、火急の用事はなかったから、焦って帰る必要は」
言いながら、(ん?)と引っかかる。考えすぎかと思ったが、ここまできたら多分。
「もしかして、わざと監視に俺らが一緒に宿泊するところまで見せようと思ってるな。この策士が」
(そこまでやるか。偶然会ったクロノスはともかく、第一王子には日常的にそこまでの危機感を覚えてるってことだよな。近衛騎士隊で働いていて本当に大丈夫なのか)
「無理強いするつもりはなくて」
「べつに。『男同士』だし、俺は気にしない。宿もあてはあるんだろ? さっさと行こう。引きこもりにはハードな一日だった。眠い」
見た目は若い恋人同士でも、何か起こりようがないのはクライス本人以上にリュートがよくわかってる。今日一日クライスがべたべたしてきたのはひとえに監視を意識してのことだろう。宿の中まで、女体リュートに何かをするつもりとは全く考えられなかった。
そもそもクライス自身が女性だ。それがリュートにバレたらまずいのはわかっているはず。
「何から何まで付き合わせて、ごめんね。リュートはそこまでのつもりはなかっただろうけど、言ったら断られるかと思って、言えなくて」
「こちらこそ。何から何まで段取り組んでもらったみたいで。思った以上に楽しかったし、最後は乗りかけた船だ。夜の海にしばし漕ぎ出そう」
昼寝が必要な体質なのに、今日は全然寝ていない。とにかく寝たい一心で誘うと、クライスはようやく踏ん切りがついたように、しっかり頷いて言った。
「ありがとう。いま僕、すごく幸せ」
* * *
クライスが決めていたのは、王都の観光客が泊まる中ではそれなりのランクの宿で、部屋はもちろん二人一緒。
リュートとしては、何も思うところはなかった。
むしろ湯浴みや着替えのタイミングで女と気付かないふりをしないとな、という点で少しだけ緊張した。
部屋に併設された浴室にはきちんと沸かしたお湯が用意してあった。リュートが先を譲ってもクライスは頑として拒んだ。
渋々先に湯を使うと、水を捨て魔法で新しく湯を用意した。
湯上り用のローブは大きすぎたので、着て来た白のドレスを身に着け、髪を乾かしきらないまま浴室を出る。クライスは窓際の椅子の上で膝を抱えて座っていた。
「お湯交換しといた。どうぞ」
「ありがとう」
ちらっとリュートを見つつ、困ったように視線を逸らして立ち上がる。
(そんな青少年のような反応しなくても。俺が困る)
浴室に行くクライスとすれ違い、部屋を見渡す。
寝台は大きいのがひとつ。
眠かったので、先に寝てしまおうと遠慮なく潜り込んだ。眠りに落ちる直前、思い直す。
(あいつ変なところで律儀だし、声かけないと絶対ソファか床で寝そう)
ソファで寝るなら身体の小さい自分の方が良い。
目をこすりながら移動し、丸まって寝る。
すぐにうたた寝したらしい。気付いたらクライスの気配がそばにあって、目を開けたら思った以上に顔が近くにあった。
「起きた。ごめん、寝台に運ぼうと思って」
「いいよ。お前が使えよ」
「そういうわけには!」
言うと思った。面倒くさい。とことん面倒くさい。
波打つ豊かな銀の髪をかきあげて、リュートは溜息をついた。
「不毛な言い争いは浴室の使用権のときで懲りた。あんな広い寝台なんだ、二人で使っても余裕だろ。俺そんなに寝相は悪くない。一緒に寝るぞ」
「え……」
「何驚いてんだよ、面倒なんだよそういうの。それともお前は寝相が悪いのか」
クライスは、ベルトや小物、装身具の類は外していたが、昼間着ていた服装だった。湯上りのローブなんて胸元がすらっと開いてしまいそうなもの着られなかったのはよくわかる。それだけ服をしっかり着込んでいるなら寝乱れても肌が露出することはないだろう。
「いいか、俺は寝台に寝る。お前も寝ろ。口答えは許さない。今日一日付き合った俺の最後のお願いくらい聞け。ごちゃごちゃ言ったら絶交だからな」
あまりの眠さゆえに、相手の弱みを余さず全部利用する暴言で締めくくり、リュートはふらっと立ち上がった。
そこで、ふと思い出して部屋に入ってクロゼットに押し込んでいた自分の荷物を漁りに行く。宝石店で包んでもらった小さな品物をクライスの胸に押し付けるように渡した。
「今、中身を確認して」
戸惑った様子ながら、クライスが包みを開く。
中から出てきたものを、不思議そうに目の高さにかざした。
「ブレス……?」
シルバーの細いチェーンに、華奢なリボン型のチャームと青い宝石がついただけのシンプルな環。
「アンクレット。指輪はお前が買うって言うし。首輪は女物しかなかったけど、お前つけないだろ。耳に穴もないし、そのくらいしかなかった」
「僕、ふだん足が出るような服装はしない」
(だと思って、女物っぽいけどそれにしたんだ。下手に普段使いできるネックレスやブレスなら、義理堅い性格だし、俺に会うときはつけていそうで。女物だと洒落にならない。服の下に隠していても、何かの拍子に他の奴に見られるかもしれないから)
「いらないなら捨てて良い」
「捨てるわけないよっ」
「じゃあ、今俺の前でつけてみせて欲しい。俺、結構好きなんだよな。アンクレット」
贈ったのは、つけているところを見てみたいから。
ちょうど風呂上りに、部屋付けのサンダルをひっかけただけのクライスは、窓からの月明かりで慎重に足首にアンクレットをつけた。思った通り細い足首で、チェーンがゆるく垂れている。
「似合うな。綺麗な足だ」
見るだけ見て満足したリュートは、そのまま寝台にもぐりこむと「おやすみ」と言ってすぐに眠りに落ちた。
夢も見ないほどよく寝た。
* * *
早朝、目を覚ますと、寝台の反対側の隅に、身体を縮こませて寝ているクライスの姿が確認できた。赤毛が掛け布から少しだけ枕にはみ出ている。
(よし。寝てる)
言いつけを守るか見張るなんて馬鹿らしいことはもちろんしなかったが、クライスなりに仁義を通したようでほっとした。
それから、身体の違和感に耐え切れずにドレスは脱ぎ捨てる。さすがにそのまま寝たのは窮屈だった。胸が苦しかったのもある。
ついでに、魔法の制限時間が切れていることに気付いて、さっさと男性の姿に戻った。
身体の大きさが全然違う。
寝台の真ん中でのびのびと身体を伸ばした。
「ん……」
クライスが寝返りを打ち、仰向けになった拍子に腕が触れてきた。さして気にならなかったのでそのままにしておいた。
そして、再び眠りに落ちた。
並んで指輪見ていても、全然集中してないのが痛いほど伝わってくる。
(王族にあれだけ生意気な口きく奴が、どうして俺に対して、そこまで臆病になるのか)
「指輪は次回にしよう。集中してないときに選んでも、ずーっと迷いが残る」
リュートが声をかけると、消沈した様子のクライスは反論もなく頷いた。
「そうだね。ここまで付き合ってもらったのに、悪い」
「別に。次回って言ってるんだ。焦るな」
上の空のクライスに言い聞かせてから、リュートは目をつけていた商品を店員に包んでくれるようにお願いした。
クライスは心ここにあらずで店内を見て回っている。
「帰るぞ。……ほら」
手を差し出しても、ぼんやりしている。
ため息をついてリュートはクライスの手を掴んで引っ張った。
「気になるなら聞けよ。何遠慮してるんだよ。俺を信用しろって言っただろ。悪いことは何もなかった」
「クロノス王子ってなんか怖いんだよ。何考えてるかわからなくて。なんで鉢合わせするかな……」
「あれだけあしらっておいて、よく言う」
「僕のことはいいんだ。リュート……『ルーナ』が目をつけられたんじゃないかって」
「もしそうだとしても、俺は自分でどうにかできる。気にするな」
ぐずぐずしているクライスの手を引いて、夕暮れの気配漂う街路を歩く。
クライスの歩みが、遅れる。
「まだ何かひっかかってるのか?」
振り返って見上げると、クライスから悩まし気な視線を送られた。
「ルーナって、誰? 女の人の名前だよね。僕、リュートの交友関係あんまり知らないし」
(しいていえばルミナス、前世のお前の愛称に近い……。言えねーな)
ぱっと浮かんだから言ってしまったけど、今思えばあまり良くなかった。
クロノスの記憶が、それで刺激されたのもあるかもしれない。
「いまの知り合いの誰かというわけでは。ただ、王子に言ってしまったし、今後はそれでいこう。それより、晩飯の店は目星ついてるのか」
「うん。予約いれてる。指輪買わなかったし、支払いはもちろん僕が」
「却下。今日使わなくても後で使う金だろそれ。俺に何回も同じこと言わせんな。宮廷魔導士だって給料出てるんだ」
妙に落ち込んでしおらしくなったクライスを引きずって歩いていたが、ふと気づいて立ち止まる。夕陽を頬に受けているクライスを今一度見上げて聞いた。
「道を知らない俺に先を歩かせてる場合か。迷うぞ」
クライスは、滲むような笑みを浮かべた。
「ごめん。こんなに可愛い女の子連れてるんだし、しっかりしないと。ついてきてくれる? 失敗したくなくて下見したんだ、美味しいお店だよ」
カッコつけたいなら、「下見した」は言わなくても。
そう思ったけど、ようやく持ち直したクライスを突き放すのは忍びなくて、黙った。
* * *
食事の後、王宮に戻るつもりだったが、クライスに反対された。
「女の子の姿でリュートの部屋を出入りしてるところ見られない方がいいよ。特に今日は監視がついてるかもしれない」
「王子の差し金か。近衛騎士のお前が言うなら、やりかねないんだろう。それなら、この後は」
店を出て、すっかり暗くなり、人影も少なくなった道を並んで歩きながら何気なく聞く。
クライスは無言のまま、リュートに肩を寄せてその手を握りしめた。
「僕は外泊許可をとってるから。隊舎に戻らなくてもいいんだけど」
「俺も、火急の用事はなかったから、焦って帰る必要は」
言いながら、(ん?)と引っかかる。考えすぎかと思ったが、ここまできたら多分。
「もしかして、わざと監視に俺らが一緒に宿泊するところまで見せようと思ってるな。この策士が」
(そこまでやるか。偶然会ったクロノスはともかく、第一王子には日常的にそこまでの危機感を覚えてるってことだよな。近衛騎士隊で働いていて本当に大丈夫なのか)
「無理強いするつもりはなくて」
「べつに。『男同士』だし、俺は気にしない。宿もあてはあるんだろ? さっさと行こう。引きこもりにはハードな一日だった。眠い」
見た目は若い恋人同士でも、何か起こりようがないのはクライス本人以上にリュートがよくわかってる。今日一日クライスがべたべたしてきたのはひとえに監視を意識してのことだろう。宿の中まで、女体リュートに何かをするつもりとは全く考えられなかった。
そもそもクライス自身が女性だ。それがリュートにバレたらまずいのはわかっているはず。
「何から何まで付き合わせて、ごめんね。リュートはそこまでのつもりはなかっただろうけど、言ったら断られるかと思って、言えなくて」
「こちらこそ。何から何まで段取り組んでもらったみたいで。思った以上に楽しかったし、最後は乗りかけた船だ。夜の海にしばし漕ぎ出そう」
昼寝が必要な体質なのに、今日は全然寝ていない。とにかく寝たい一心で誘うと、クライスはようやく踏ん切りがついたように、しっかり頷いて言った。
「ありがとう。いま僕、すごく幸せ」
* * *
クライスが決めていたのは、王都の観光客が泊まる中ではそれなりのランクの宿で、部屋はもちろん二人一緒。
リュートとしては、何も思うところはなかった。
むしろ湯浴みや着替えのタイミングで女と気付かないふりをしないとな、という点で少しだけ緊張した。
部屋に併設された浴室にはきちんと沸かしたお湯が用意してあった。リュートが先を譲ってもクライスは頑として拒んだ。
渋々先に湯を使うと、水を捨て魔法で新しく湯を用意した。
湯上り用のローブは大きすぎたので、着て来た白のドレスを身に着け、髪を乾かしきらないまま浴室を出る。クライスは窓際の椅子の上で膝を抱えて座っていた。
「お湯交換しといた。どうぞ」
「ありがとう」
ちらっとリュートを見つつ、困ったように視線を逸らして立ち上がる。
(そんな青少年のような反応しなくても。俺が困る)
浴室に行くクライスとすれ違い、部屋を見渡す。
寝台は大きいのがひとつ。
眠かったので、先に寝てしまおうと遠慮なく潜り込んだ。眠りに落ちる直前、思い直す。
(あいつ変なところで律儀だし、声かけないと絶対ソファか床で寝そう)
ソファで寝るなら身体の小さい自分の方が良い。
目をこすりながら移動し、丸まって寝る。
すぐにうたた寝したらしい。気付いたらクライスの気配がそばにあって、目を開けたら思った以上に顔が近くにあった。
「起きた。ごめん、寝台に運ぼうと思って」
「いいよ。お前が使えよ」
「そういうわけには!」
言うと思った。面倒くさい。とことん面倒くさい。
波打つ豊かな銀の髪をかきあげて、リュートは溜息をついた。
「不毛な言い争いは浴室の使用権のときで懲りた。あんな広い寝台なんだ、二人で使っても余裕だろ。俺そんなに寝相は悪くない。一緒に寝るぞ」
「え……」
「何驚いてんだよ、面倒なんだよそういうの。それともお前は寝相が悪いのか」
クライスは、ベルトや小物、装身具の類は外していたが、昼間着ていた服装だった。湯上りのローブなんて胸元がすらっと開いてしまいそうなもの着られなかったのはよくわかる。それだけ服をしっかり着込んでいるなら寝乱れても肌が露出することはないだろう。
「いいか、俺は寝台に寝る。お前も寝ろ。口答えは許さない。今日一日付き合った俺の最後のお願いくらい聞け。ごちゃごちゃ言ったら絶交だからな」
あまりの眠さゆえに、相手の弱みを余さず全部利用する暴言で締めくくり、リュートはふらっと立ち上がった。
そこで、ふと思い出して部屋に入ってクロゼットに押し込んでいた自分の荷物を漁りに行く。宝石店で包んでもらった小さな品物をクライスの胸に押し付けるように渡した。
「今、中身を確認して」
戸惑った様子ながら、クライスが包みを開く。
中から出てきたものを、不思議そうに目の高さにかざした。
「ブレス……?」
シルバーの細いチェーンに、華奢なリボン型のチャームと青い宝石がついただけのシンプルな環。
「アンクレット。指輪はお前が買うって言うし。首輪は女物しかなかったけど、お前つけないだろ。耳に穴もないし、そのくらいしかなかった」
「僕、ふだん足が出るような服装はしない」
(だと思って、女物っぽいけどそれにしたんだ。下手に普段使いできるネックレスやブレスなら、義理堅い性格だし、俺に会うときはつけていそうで。女物だと洒落にならない。服の下に隠していても、何かの拍子に他の奴に見られるかもしれないから)
「いらないなら捨てて良い」
「捨てるわけないよっ」
「じゃあ、今俺の前でつけてみせて欲しい。俺、結構好きなんだよな。アンクレット」
贈ったのは、つけているところを見てみたいから。
ちょうど風呂上りに、部屋付けのサンダルをひっかけただけのクライスは、窓からの月明かりで慎重に足首にアンクレットをつけた。思った通り細い足首で、チェーンがゆるく垂れている。
「似合うな。綺麗な足だ」
見るだけ見て満足したリュートは、そのまま寝台にもぐりこむと「おやすみ」と言ってすぐに眠りに落ちた。
夢も見ないほどよく寝た。
* * *
早朝、目を覚ますと、寝台の反対側の隅に、身体を縮こませて寝ているクライスの姿が確認できた。赤毛が掛け布から少しだけ枕にはみ出ている。
(よし。寝てる)
言いつけを守るか見張るなんて馬鹿らしいことはもちろんしなかったが、クライスなりに仁義を通したようでほっとした。
それから、身体の違和感に耐え切れずにドレスは脱ぎ捨てる。さすがにそのまま寝たのは窮屈だった。胸が苦しかったのもある。
ついでに、魔法の制限時間が切れていることに気付いて、さっさと男性の姿に戻った。
身体の大きさが全然違う。
寝台の真ん中でのびのびと身体を伸ばした。
「ん……」
クライスが寝返りを打ち、仰向けになった拍子に腕が触れてきた。さして気にならなかったのでそのままにしておいた。
そして、再び眠りに落ちた。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
無能な婚約者はいりません
ごろごろみかん。
恋愛
ルティカーナはいい加減限界だった。
自分のミスを他人に押し付け、そのくせプライドだけは天にものぼり、褒められたがりでいちいち上から目線で謎のアドバイスをかましてくる婚約者が。
「無能な婚約者なんていりません!なんでもいいから婚約破棄してくれないかしら!?」
限界を迎えたルティカーナが行ったのは鏡に愚痴をぶちまけることだった。
「鏡よ鏡、私って本当にリヴェルト様と結婚するの?本当に?絶対嫌なのだけど」
そう言ったルティカーナに、鏡は突然割れてーーーある単語を指し示した。その単語から導き出したのは仮面舞踏会。
仮面舞踏会にルティカーナが行くと、そこで出会ったのは半年前に異世界から訪れた、聖女の恋人だという男だった。
【1章完結】経験値貸与はじめました!〜但し利息はトイチです。追放された元PTメンバーにも貸しており取り立てはもちろん容赦しません〜
コレゼン
ファンタジー
冒険者のレオンはダンジョンで突然、所属パーティーからの追放を宣告される。
レオンは経験値貸与というユニークスキルを保持しており、パーティーのメンバーたちにレオンはそれぞれ1000万もの経験値を貸与している。
そういった状況での突然の踏み倒し追放宣言だった。
それにレオンはパーティーメンバーに経験値を多く貸与している為、自身は20レベルしかない。
適正レベル60台のダンジョンで追放されては生きては帰れないという状況だ。
パーティーメンバーたち全員がそれを承知の追放であった。
追放後にパーティーメンバーたちが去った後――
「…………まさか、ここまでクズだとはな」
レオンは保留して溜めておいた経験値500万を自分に割り当てると、一気に71までレベルが上がる。
この経験値貸与というスキルを使えば、利息で経験値を自動で得られる。
それにこの経験値、貸与だけでなく譲渡することも可能だった。
利息で稼いだ経験値を譲渡することによって金銭を得ることも可能だろう。
また経験値を譲渡することによってゆくゆくは自分だけの選抜した最強の冒険者パーティーを結成することも可能だ。
そしてこの経験値貸与というスキル。
貸したものは経験値や利息も含めて、強制執行というサブスキルで強制的に返済させられる。
これは経験値貸与というスキルを授かった男が、借りた経験値やお金を踏み倒そうとするものたちに強制執行ざまぁをし、冒険者メンバーを選抜して育成しながら最強最富へと成り上がっていく英雄冒険譚。
※こちら小説家になろうとカクヨムにも投稿しております
私はあなたのヒロインにはなれない。
ごろごろみかん。
恋愛
王太子の婚約者であるシュネイリアは、【予知】の力で自身が十六歳で死ぬことを知った。
さらに十年後の未来で、婚約者のリュアンダルは、シュネイリアの死を引きずって十年間婚約者を持たず、彼女の死に囚われていた。
彼は、後悔しているのだ。
シュネイリアに同じ想いを返せなかったことを。
十年後の彼の心を溶かすのは、彼の新しい婚約者である隣国の王女だった。
予知を通して、十年間彼が苦しむことを知ったシュネイリアは決意した。
今この婚約を破棄することは出来ない。
だけど、自分が十六を迎えてなお、生きることが叶えば、この婚約を破棄してあげよう。彼を望まない婚約から解放してあげよう──と。
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!
ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~
平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。 スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。 従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪ 異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。
貴方が婚約者とは
有沢真尋
恋愛
「縁談がきてしまいました。結婚する気なんてなかったのに」
「どうしてですか。結婚の何が嫌なんですか」
「結婚が嫌なのではなく、相手が嫌なんです」
変わり者といわれる令嬢は、いけないと知りつつも、図書館で出会った青年にひかれてしまう。しかし降って湧いた縁談のせいで、青年とはもう会えないことに。
【他サイトにも公開あり】
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる