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(これ、手ぶらで帰ったら失格だよな。だけどシンデレラがいない。王子様……、王子様は? シンデレラがいなければ誰かと結ばれる? その時点でこのシンデレラ不在の話は「めでたしめでたし」か? それとも……何らかのバグで、終われなくなる?)
 その場合どうなのだろう。
 顎に軽く握りしめた拳をあてて考え込む。そのとき、ふっと視界が影った。
 小さなコウモリが窓から飛び込んできて、暖炉の前で瞬く間に人間の形になる。黒衣に長身、黒髪の男。

「困ってるようだな」
「お師匠さま……!」
 整った容貌に、苦笑を浮かべている。担当教官のハリス。ホッとしすぎて気が緩みかけたミカであったが、ハリスは両方の手のひらを前に突っ張るように突き出し、それ以上近寄るな、という態度。
「不測の事態らしいから、助言しに来た。とりあえず、シンデレラが王子と結ばれない限り、この物語は終わらない。最悪、お前閉じ込められるぞ」
「シンデレラ、いません!!」
 勢いよく言うと、「うん」と安らかな表情で頷かれる。

「どうにかしろ」
 そのようなことを言われましても。

「王子、欲深すぎじゃないですか……。そんな……、運命の人に出会えないからってヤンデレ化しなくても良いじゃないですか。二番めくらいの相手で満足してくれればいいのに。たぶん今晩の舞踏会にもいるでしょ『運命か運命じゃないかでいえば第二志望って感じ。前世の家族か友達かな~。親近感はあるけどこう、ちょっと違う』みたいな相手。今生はそのへんで満足してトゥルーエンドにしてもらえないですかね……」 
 誰も彼も運命の相手に巡り合えるだなんて、都合よく考えすぎでは。
 きわめて現実的に一般小市民としての意見を述べると、ハリスに変な顔をされた。
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