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正面にすりガラスの窓。右手に手洗い場、左手に個室が並んでいて、人影はない。
(誰もいない? 良かっ……)
ぎいっと音がして、一番奥の個室のドアが開いた。
出て来たのは、帽子、サングラス、マスクを身に着けた大柄な女性。肩幅が広く、全体のパーツが大きい。
玲央名をちらりと見て、歩く速さを落とした。すれすれ、肩が軽く触れるほどの距離を通ってドアを出て行く。
出て行ってくれて良かった、と思った瞬間、ほとんど反射のような勢いで玲央名は振り返って女性の後を追いかけていた。
違和感。
(水を流した音がしなかった。手も洗わなかった。いやにゆっくり俺のことを見て……!?)
「待って!! 女子トイレで何してた!?」
廊下に出て、後ろ姿に声をかけると、振り返りもせずに突然走り出した。
びっくりした顔をして固まった可憐にぶつかって転ばせても止まらない。
黒。
確信して玲央名は走り、背中に羽織っていたジャケットを掴む。するりと脱がれて、さらに逃げられる。
(このやろう!)
踏み込んで、体当たりをしてその場に押し倒す。
体重をかけて乗り上げて、両手で腕や肩をおさえこみながら声を張り上げた。
「鷺沢さん! 職員室、誰か呼んできてくれ!!」
(こんなに声出したら、完全に気付かれる)
全然声を作っている余裕はなくて、まずいとは思ったが、それどころではない。体格的にはさほど変わらない上に、おおいに暴れている相手を押さえていて余裕がない。
武道を身に着けているわけでもなく、キメ技があるわけでもなく、やや軽めの体重がすべて。
「はなせっ」
玲央名に向けて叫ばれた声は、案の定女性の声ではなかった。
はっと気づいたときには玲央名は思い切り弾き飛ばされていた。
勢い、廊下の壁に叩き付けられて、体のあちこちを打ち付ける。
立ち上がった女装の男が逃げ出そうとする。
その正面に可憐がいるのを見た瞬間、痛みを忘れて玲央名は立ち上がった。
「避けて!!」
(止めようと思ったら怪我するから、俺に任せて!)
全部言うこともできずに、靴が脱げたまま走り出す。追いついた男の背中にもう一度体当たりを食らわせた。
男は、手にしていた鞄を取り落とす。中から細かな機械のパーツのようなものが飛び出す。
(隠しカメラ。たぶん。決定的)
男がふらついた瞬間、追いついて来た可憐が、伸ばされた男の腕を避けながら掌底を顎に叩きこんだ。
ほとんど、その一撃が決め手になった。
騒ぎを聞きつけた職員たちが集まってきて、男は廊下の床に押し付けるように確保された。
* * *
(誰もいない? 良かっ……)
ぎいっと音がして、一番奥の個室のドアが開いた。
出て来たのは、帽子、サングラス、マスクを身に着けた大柄な女性。肩幅が広く、全体のパーツが大きい。
玲央名をちらりと見て、歩く速さを落とした。すれすれ、肩が軽く触れるほどの距離を通ってドアを出て行く。
出て行ってくれて良かった、と思った瞬間、ほとんど反射のような勢いで玲央名は振り返って女性の後を追いかけていた。
違和感。
(水を流した音がしなかった。手も洗わなかった。いやにゆっくり俺のことを見て……!?)
「待って!! 女子トイレで何してた!?」
廊下に出て、後ろ姿に声をかけると、振り返りもせずに突然走り出した。
びっくりした顔をして固まった可憐にぶつかって転ばせても止まらない。
黒。
確信して玲央名は走り、背中に羽織っていたジャケットを掴む。するりと脱がれて、さらに逃げられる。
(このやろう!)
踏み込んで、体当たりをしてその場に押し倒す。
体重をかけて乗り上げて、両手で腕や肩をおさえこみながら声を張り上げた。
「鷺沢さん! 職員室、誰か呼んできてくれ!!」
(こんなに声出したら、完全に気付かれる)
全然声を作っている余裕はなくて、まずいとは思ったが、それどころではない。体格的にはさほど変わらない上に、おおいに暴れている相手を押さえていて余裕がない。
武道を身に着けているわけでもなく、キメ技があるわけでもなく、やや軽めの体重がすべて。
「はなせっ」
玲央名に向けて叫ばれた声は、案の定女性の声ではなかった。
はっと気づいたときには玲央名は思い切り弾き飛ばされていた。
勢い、廊下の壁に叩き付けられて、体のあちこちを打ち付ける。
立ち上がった女装の男が逃げ出そうとする。
その正面に可憐がいるのを見た瞬間、痛みを忘れて玲央名は立ち上がった。
「避けて!!」
(止めようと思ったら怪我するから、俺に任せて!)
全部言うこともできずに、靴が脱げたまま走り出す。追いついた男の背中にもう一度体当たりを食らわせた。
男は、手にしていた鞄を取り落とす。中から細かな機械のパーツのようなものが飛び出す。
(隠しカメラ。たぶん。決定的)
男がふらついた瞬間、追いついて来た可憐が、伸ばされた男の腕を避けながら掌底を顎に叩きこんだ。
ほとんど、その一撃が決め手になった。
騒ぎを聞きつけた職員たちが集まってきて、男は廊下の床に押し付けるように確保された。
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