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 この国の王侯貴族はたいてい強弱はあれど魔力を持っていて、うまくコントロールできる者の中には魔法を使える者もいる。
 ララの生家である男爵家は、父の代における魔物討伐の武勲によって男爵に取り立ておられており、血統として魔力を持っているわけではない。
 一方、フランチェスカは筆頭公爵家だけあり、魔力の失われつつあるこの時代の人間にしてはきちんとした魔力を保持し、かつ魔法を使うことができる。

 公爵邸でのお茶会から数日後。
 手はずは整えたと馬車で迎えにきたフランチェスカに誘われ、ララは一緒に王宮へと向かった。

「あなた本当に、侍女として雇用されると思っていたの? 潜入捜査といっても、王宮に協力者は確保してあるから心配しないで。ただ、念の為わたくしは髪の色と目の色を変えているの。印象違うでしょ?」

 楽しげにそう言ってきたフランチェスカは、魔法で黒髪黒瞳の姿になっていた。
 普段とは違うその顔に、ララは感心して見とれてしまった。

(地味、平凡とは言うけれど。それは「公爵令嬢にしては」というだけであって……)

 編み込んだ髪をピンで留め、装飾性の無い紺色のワンピースに着替え、白のエプロンをつけた姿は、清楚で働き者の有能侍女といった雰囲気を醸し出していた。

 一方で、ララは着るものでいささか苦労することになった。腰は細いが胸が大きい。用意してもらった制服がなかなか合わない。これまで何かといえば「成り上がり女の、下品な胸」と令嬢たちには蔑まれ、男性からの視線を感じることも多かった胸がまたしてもここで邪魔を。

(容姿なんか、自分のせいじゃないのに)

 恥じるようなことでもないのに、ずっと居心地の悪い思いをしてきた。普段は意識していなかったが、こういうときは少し堪える。
 王宮に着いてから、ララに合う制服を探してもらう間、おとなしく待っていたフランチェスカは溜息まじりに呟いた。

「普段は気にしないようにしているけれど、わたくし顔だけではなく体つきも地味よね。いま流行りの恋愛小説では、たいてい王子は男爵令嬢と身分違いの恋をし、婚約者を捨てるのよ。もし殿下があなたを見初めたら、わたくし応援するわ。なかなか見る目があると感心しちゃうかも」

「何を言っているんですか? 私は自分がそんな恋愛に向いていると思ったことなどありません。婚約者どころか恋人もいませんし、その気配も全然ないですよ。フランチェスカが結婚した後はどうしましょう。せめて王太子妃となったフランチェスカの元に侍女としてついていけたらと思うんですけど。この制服、似合いますか?」

ララは明るく言うと、どうにか着れた制服姿でくるりとまわってみせる。フランチェスカも笑って「とても良いわ」と言ってから、自分も立ち上がって同じようにくるりとまわってみせた。

「殿下があなたを見初めたら、侍女になるのはわたくしね」
「本当に何を言っているんですか? どうしてそんなに急に弱気になっているんですか!!」

 驚いて聞き返すと、「気にしないで」とフランチェスカは薄く笑った。

 協力者は宰相をつとめているフランチェスカの父の部下で、宰相補佐のリノスという男性。「王太子の日頃の生活を見たい」というフランチェスカの要望に沿って、兵士の訓練場へと二人を案内してくれた。

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