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第三章 狂い始め

終わりは突然に

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 俺とさくらの間に静斎など訪れるわけもなく。


『好きとか言われてほだされた挙句、押し倒されるとか美味しすぎる展開よ!?“春都先輩……抱かせて?”とかうるうるした目で言われたんじゃないの!?』
「抱かせてとは言われてねーよ。“挿れたいけど、春都先輩に激しく突かれたい”って淫乱素質ありまくりの発言されたけどな。タイプじゃねーから嬉しくもなんともねーわ」

『何それ。リバ有り要素満点じゃないの!ちょっと春都。今すぐヤってきて。掘って掘られてを繰り返して腰立たなくなった事を恥ずかしそうに私に報告してきて!』
「タイプじゃねーって言ってんの。抱かねーし、抱かせねーよ」

『いいから前立腺擦られてアンアン喘いで来なさいよ!!!』
「なんでキレてんだよ!」


 互いに息切れしながら言い合いを続ける。
 BLトークになるといつもこうだ。
 転校生の話を聞いて、王道ストーリーじゃない!と喜んでいたはずなのに、今では拗らせてとにかく性交渉に持っていこうと必死だ。
 “飢えてる”の一言では片付けられないほどの熱に、若干引き気味の俺。


『ていうか、最近忙しかったって言ってたけどちゃんとヤることヤってるの?可愛らしい親衛隊の仔猫ちゃんとか、小動物系男子たくさんいたでしょ?ちゃんと抱いてる?』


 母親が上京した息子に“ちゃんとご飯食べてるの?”と心配する要領で、卑猥な話をするのはやめなさい。
 全国の子供思いのお母さんがそのセリフ使えなくなるだろうが。


「仕事に追われて抱いてねーよ」
『なんで抱かないのよ!放置されてる親衛隊の身にもなりなさい!』
「仕事しないと学校の運営に支障が出るんだよ」
『学校も大事だけどセックスも大事でしょうが!』


 性欲が強いであろう高校生には、確かにセックスは大事だ。
 大事だけれども、学校が第一でしょうが。
 バカなのかな?
 さくらちゃんはバカなのかな?


「さくらは本当にそういった行為がお好きですね」
「太一。満面の笑みで言うことじゃないから」


 呆れたように言えば、会話が聞こえていたのか、さくらが『太一もいるの!?スピーカー!スピーカーにして!』と騒ぎ出した。
 俺とさくらは幼馴染なのだが、実は太一もそうなのだ。
 年は少し離れているものの、幼い頃から三人で仲良く遊んだものだ。
 俺と太一も、その頃は主従関係なんてものはなく、タメ口で話していたな。
 懐かしい記憶を思い出し、感傷に浸る。


『太一元気?BLライフ楽しんでるー?というか、ちゃんと春都とヤってるー?』
「本人の前でサラッと聞くな」
「うん。ついさっきもしたよ」
「お前も素直に答えんな」


 この会話を側から聞くと、ディープな会話に驚愕する人も中にはいるだろう。
 一般的な幼馴染というのがどういうものなのかは知らない。
 自分達の性事情まで赤裸々に話しているのは、異常なのかも知れない。
 それでも、俺たちにとってはこれが普通なわけで。


『きゃー!お盛んですこと!あ、春都。提案なんだけどさ、前に話してた春都にぞっこんの誠って人と三人でとかどうかな!?春都もついに処女卒業しちゃう!?しちゃおうよ!てかしろ!』
「しないから。つか、よく誠のこと覚えてたな」
『当たり前よ。春都の周りの男達は全てチェック済みなんだから!誰と誰をカップリングさせるか、日夜考えてるのよ!私は!』
「さくら。夜は早めに寝た方がいいよ」
『ありがとう!そういう優しいところ、凄く好きだよ!毒舌ドS野郎をデロデロに甘やかして骨抜きにして、しまいには春都を掘ってくれると、』


ーーー……ティロリン。


 通話終了を告げる音がスマホから発せられる。
 切ったのは紛れもなく俺の親指で、太一はタオルを置いてドライヤーを手にした。
 スイッチを入れると、暖かい風が髪に当たる。
 タオルで十分に拭かれた髪の毛が乾くのにそう時間はかからず、すぐにスイッチは切られた。


ーーー……ブーッ。ブーッ。


 なり続けるスマホ。
 ディスプレイに表示される“さくら”という文字。


「相変わらずの腐女子ぶりでしたね」
「ブレなさすぎて感心するわ」
「紅茶、飲みますか?」
「ん」


 電話に出た方がいいのでは?なんていう言葉はなく、互いに暖かい紅茶を飲みなが一休みし、夜遅くまで書類整理をするのだった。
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