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第三章 狂い始め
腐女子の想像力
しおりを挟む『で、それがどうしたのよ。転校生が攻めって話が出てきたってことは、もしかして生徒会メンバーの誰かとヤってるとこでも目撃しちゃったわけ?転校生が攻めの状態で』
髪を乾かしてもらいながらソファーに寝転がっている俺とは違い、電話越しにさくらの生活音が聞こえる。
物体同士が擦れる音や、本のページをめくる音。
紙の上に乗っかってしまったのであろう何かを、払うようにして手でどかすような音。
全てが身近なもので、その状況で電話をしてくる事に呆れつつ、さくらのBLに対する執念というものを感じた。
「目撃っつーか、体験したっつーか」
俺が何気なく発したこの言葉があまりに衝撃的だったのか、叫び声と共に、耳元で大きな音がした。
障害物にぶつかりながら、高いところから落ちていくような、そんな音。
あくまで予想だが、机の端に置いていたであろうスマホを慌てて手に取ろうとしたが、勢い余って滑り落ちてしまったというところだろうか。
最後に悲痛な叫びが聞こえたので、足の甲か指に被害が及んでいるのかもしれない。
……また足開いて勉強してたな。
あいつ。
スカートを履いているというのに、俺の前で羞恥心のかけらもない格好をするさくらを思い出しながら、ため息をつく。
悶絶しているのか一向に反応がない。
しばらく待つか、と決めたところで、頭部に違和感……というより、痛みを感じた。
髪の毛を引っ張られているような、そんな感覚。
顔の皮膚が力を加えられている方向へと引き寄せられ、額と頭皮の境目が必然的に後退する。
耳元で「ブチブチブチ」と毛根が悲鳴をあげていた。
「太一さん太一さん太一さん。禿げる。禿げるから。そんなに引っ張らなくても拭けるでしょーが!」
「あぁ、私としたことが。申し訳ございません」
無意識か、それとも故意的か。
顔色が見えない状態である今、判断は出来かねるが、十本以上の髪の毛が犠牲になったことは確かだ。
『もしもし春都!?可愛い可愛いさくらちゃんは、スマホによる足の甲への容赦ない打撃に悶絶していたけれど、“全くもう。構ってもらえなくて意地悪してきたのね!可愛い子ね!”とか一ミリたりとも思ってない事を口にしてから戻ってきたわよ!待たせたわね!』
痛みに思わず強張らせていた体から、一気に力が抜けていく。
不慮の事故があっても通常運転でなによりです。
『つまり春都は転校生に掘られちゃったわけね。転校生のアソコはどうだった?見かけによらずビッグビッグビーッグッ!だったの?淫らに喘いじゃった!?待って。春都が喘いでるところ想像できない。いや、私に不可能はないわ。腐女子の想像力を舐めるんじゃないわよ!たった数秒でドS攻め春都をひん剥いて、アンアン言わせられるんだから!頭の中で!』
「とりあえず落ち着け。言葉足らずの俺が悪かった。生徒会室で押し倒されはしたが、途中で政宗が来たから未遂だ」
お決まりのマシンガントークで話をよくない方向へと持って行こうとするさくらを、見えもしないのに手を前に突き出し、興奮する動物を落ち着かせるようなお決まりの仕草する。
鼻息を隠そうともせず、しまいには『はぁ、はぁ』と息遣いさえも聞こえてきた。
エロ漫画やAVなどによく登場してくる変態オヤジか、と思わず突っ込みたくなる。
『ていうかなんで押し倒されちゃったのよ。あんたの方が体格いいはずでしょうが』
「俺のこと好きだとか、セックスしようだとか言ってきたから、予想外すぎてフリーズしたんだよ」
『何それ!フラグ立ってんじゃん!何したのよあんた』
「なんもしてねーよ。寧ろ喋ってねーよ。政宗のこと好きだったはずなのに、俺のこと好きとか急に言い出したんだよ。仕方ねーだろーが」
さくらがデカイ声で捲し立ててくるからか、俺もつられて声が大きくなる。
スピーカーにしていないというのに、会話はダダ漏れ。
太一が後ろで盛大にため息をついていた。
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