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第一章 お転婆娘
壁ドン
しおりを挟むアデルと階段の所で別れた私は、ゲイルの書斎へと向かう。
途中、「いい加減になさい!」と怒鳴られたメイド長に遭遇し、ヒヤヒヤしたのはここだけの秘密だ。
書類を運んでいるのをさりげなくアピールして歩いていたからか、何も言われなかったので私の勝ちである。
ニヤける顔を隠すことなく歩いていると、突き当たりに気付かず衝突した。
気付いた時には既に目の前に壁があり、緩やかな坂道を描いていた私の高い鼻は平坦な道へと変貌を遂げる。
何が言いたいかって?
鼻が痛いんだよ。
壁とキスしてしまいましたわ……。
なんて恥ずかしがりなが言える状況ではない。
とにかく痛い。
書類を落ちないように気をつけながら片手で持ち、もう片方の手でぶつけた鼻を指で摩る。
よかった。
平坦になったのは一瞬だけのようだ。
鼻の無事を確認した私は、再び歩き始める。
ゲイルの書斎はお父様……つまり国王の部屋に近い場所にあり、いつでも御目通りできるようになっている。
それだけでゲイルがどれほど信頼されているかがわかるというものだ。
私の夫になっている時点で信頼されているも同然なのだが。
ーーー……コンコンコン。
「ジャスミンです。書類をお持ちしました」
扉の中心部分で立ち止まり、姿勢を正して中指で軽く三回ノックをする。
「入れ」
すぐさま入室を許可された。
数時間前に肉汁や果汁がどうのと言っていた時よりも少し篭った声色。
ドアを挟んでいるのだから当然か。
「ん?どうした。眉間に皺が寄ってるぞ」
「聞いてよ。ここに来る前の突き当たりでね、」
「鼻でも潰したか?」
「……なぜわかったの」
「音がした。とてつもなく大きな音。壁がぶち抜かれたかと思ってヒヤヒヤした」
「私は猪か」
「違うのか?」
「違います。あなたの目は飾りか何かですか?」
書類を渡しに来ただけだというのに、すんなりと事が進まないのは私のせいなのだろうか?
いいや、そんなことはないはずだ。
私をからかって遊ぶ周りの人間のせいだ。
「人のせいにするな。からかう隙を与えているのはお前だ」
うるさいお口は私の愛がこもった口付けで黙らせてあ、げ、る。
……誰がそんなことするか。
「しないのか?」
「しませんよ?」
「なんで」
「なんでも」
「俺ら夫婦」
「うん。だから?」
例え死ぬかキスするか二択を迫られようとも、私はあなたとキスなんてしないだろう。
……カッコつけて言ってみたけど、そんな訳ないよね。
生死を問われたら、もちろん生きる方を選びたい。
よくあるじゃない。
“あんたとキスするぐらいなら死んだほうがマシよ!”
ってセリフ。
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私はするよ。
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