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第三章 いざ、ロピック国へ
嫉妬と平民街
しおりを挟む「……二人とも?そろそろ離れてくれませんか?」
ウンディーネと別れた後、エヴァンを先頭にして平民街へと向かっていた。
道行く人々が俺を見てはクスクスと顔を綻ばせてすれ違って行く。
「ダーメー!ちゃんと消毒しないと!」
「くそ。水の匂いがまだする」
「浄化をすればいいのでは?」
「それじゃダメなの!俺たちの匂いにしないと」
二人は必死になって俺の顔を舐め回している。手足をモモンガのように広げ、顔面に張り付きながら。
魔法の世界とはいえ重力というものは存在する。支えがなければ地面へ落ちていくわけだけど、二人は俺の頭や首に三本の尻尾を絡ませて体を固定していた。
僅かに魔法の痕跡もあるので、浮遊魔法か位置固定の魔法を施しているのかもしれない。
ウンディーネがキスした唇はもちろんのこと、触れた両頬も消毒対象だ。ピチャピチャと音を立てて舌が顔面を徘徊する。
「前は見えるようにしてるでしょ!?文句言わない!」
「そういう問題じゃないんですけど……」
すれ違う人に“あらあら、可愛いわね”と笑われるのはもちろん恥ずかしい。
加えて鼻に二人の毛が入るからくすぐったいのだ。くしゃみが出ていないのが奇跡と言える。
「もう少しで終わるから吸っててくれ」
「そーそー。俺らの匂い堪能してて!」
「猫吸いならぬ狼吸い……」
何を言っても離れてくれなさそうなので、諦めて吸うことにした。
人よりも高い体温を感じながら深呼吸をする。
定期的にお風呂に入っているからか獣臭さはなくて、代わりに自分と同じ香りがした。
何度か吸っていると、その中にお日様の匂いが混じっていることに気付く。
直接太陽をかげるわけもないので、洗濯物を干した後の柔らかい感じと言えばいいのだろうか?
「あー……うん。いいかも」
猫を飼っている人達が“猫吸い最高”って言うのがわかる気がした。これは……癖になる。
「もうすぐ平民街ですよ……って、何しているんですか?あなた達は」
噴水から前のみを見ていたエヴァンの第一声がこれだ。俺がその立場でも同じことを言うさ。
顔面に子狼を貼り付けている人間なんてそうそういないもんな。わかるよ。
「消毒~」
「あとひと舐めで終わる」
「んー……おっけ!完璧俺たちの匂い!」
「よし」
満足した二人は両肩へと戻っていく。俺の顔はというと、涎でべちょべちょだ。
「顔、拭きますか?」
哀れみを浮かべたエヴァンがタオルを差し出してくれるが、二人はまたしてもお怒りだ。丁寧にお断りをして自分ので拭いた。
マーキングのつもりなんだろうけど、流石にやり過ぎだと思う。
人魚さんのお陰で容姿に恵まれたとはいえ、人には好みというものがあるわけで。そこまで心配する必要はないよ?と伝えたいものだ。
「ここが平民街……ですか?」
「たまたま平民が集っているのでそう呼ばれていますが、正式には“コルテオ”という街です。出店も多く、パレードやイベントなどで行列が出来やすいことから名付けられたと言われています」
二人が離れたことで広がった視野で辺りを確認する。
他の場所に比べて人通りは多いし、店の数は段違いだった。
「こんなに人通りが多いなら先にくれば良かったですね」
「貴重な魔法を使う者ですから、王族や貴族に守られてある程度はいい暮らしをしているかと思っていたんですけどね。予想が外れていたようです」
眉間に皺を寄せ、小さくため息をついた。
国に一人いるかどうかという希少な魔法使いであれば丁重に扱われそうなもの。
エヴァンの考えは至極真っ当のように思えた。
コルテオという街は中間という言葉がピッタリで、人種と獣種の割合が半々だ。
小競り合いは多いが、輸出入に積極的なので人が集まるのも納得できる。
入国審査を緩めればもっと栄えるのかもしれないけど、他国の出身で王族でもない冒険者ギルドの事務員が首を突っ込む話ではない。
「一先ず噴水に向かいましょう。ウンディーネに挨拶しなければ」
「えー!またー?」
エヴァンの言葉にようやく落ち着いた二人が暴れだす。
「ネロちゃんがウンディーネにまた襲われる……」
「襲われてません」
「ちゅーされてたもーん!俺達のネロちゃんなのにぃいいいいい」
「防御魔法張っておくか」
「……張らなくていいですよ」
荒れ狂う尻尾に後頭部を攻撃されながら四人で仲良く噴水へと向かう。
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