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第三章 いざ、ロピック国へ

ウンディーネの情報

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「あ、来たわね」


 あの日から二日。俺達はウンディーネの元を再び訪れた。


「やっほー!」
「二日振りだな」


 肩に乗っていた二人は噴水の縁へと飛び降り、小さくなった手を挙げて挨拶をする。
 ウンディーネが噴水に溜まった水を魔法で操作し、二人の肉球にぶつけた。挨拶代わりのハイタッチだろう。


「これ、今回のお礼。どのくらいいるかわからなくて多めに買ってきた。皆んなで食べて」


 ここにくる前に買った物をオネスト達のすぐ側に置く。
 瓶の中に半透明のお菓子が入っていて、揺らすとカランと小さく音を立てた。


「あら、ブロックアイス?」
「そう。知り合いのウンディーネから最近これが流行ってるって聞いて」
「気の使える男は好きよ。ありがとう」


 噴水の縁に上半身を乗り出し、瓶の側面を触りながら微笑んだ。初対面の時は無表情に近かったけど、その柔らかい表情に笑みを返す。


「ねぇ、蓋を開けてちょうだい。一つ食べたいわ」
「魔法で水に触れても崩れないようにしてもらったから噴水に入れるね。わざわざ瓶から取り出さなくていいから、交代で来たウンディーネ達も食べれるだろ?」
「嬉しい!早く入れて頂戴!」


 水に浸かったままの足をバタつかせ、急かすように瓶を叩く。
 跳ねた水がタキトゥス達にかかって文句を言われているけど、気にした様子もなくキラキラした目をこちらに向けていた。余程気に入っているらしい。
 瓶を逆さにして中身を出すと、近くに落ちたブロックアイスを拾って口に含んだ。
 ブロックアイスは元の世界で言う氷砂糖のようなもので、四角い形をしたアイスクリームというわけではない。
 体の小さいウンディーネでも一口で食べれる大きさで、舐めると甘みが徐々に広がっていく氷菓子だ。


「こら。それはウンディーネ達のですよ」


 縁の近くに流れてきたブロックアイスを掬って食べようとしているタキトゥスに言えば、悪戯を見つかった子どものように肩を振るわせた。
 不満げにこちらを見る彼に「別で買ってますよ」と声をかければ一気にご機嫌だ。


「ゴホン」


 数歩離れた所に立っていたエヴァンがわざとらしく咳払いをする。
 世間話ばかりしていたからか、拾い食いを咎められたタキトゥスよりも険しい表情をしていた。
 “早く聞いてください”と目で訴えかけてくる。
 そんなに気になるなら自分で聞けばいいのにと思うが、プライドの高い彼のことだ。タキトゥスが掴んだ糸口に、自ら手を出したくないのかもしれない。


「何?あの堅物。少しぐらいいいじゃない」
「ご主人様の所に帰りたくてしょーがねーのよ」
「バブちゃんってことね」
「そそ。ハーフエルフのバブちゃん」


 小さな声で言いたい放題だ。エヴァンの表情は特に変わっていないから、聞こえてないのだと安堵した。


「本題だけど、オースティンの事で何かわかった?」


 出会って数分。ようやく今回の目的である話を振った。
 やれやれとため息混じりに呟くエヴァンと、どうなの?と尻尾を左右に揺らすタキトゥスとオネスト。
 重要人物であるウンディーネは、ブロックアイスをコロコロと口の中で遊ばせた。


「あなた達が探している人なのかは知らないけど、普通の人族ヒューマンで平民街によく来るみたい」
「え!見た目の特徴と詳しい場所はわかる?」
「15歳ぐらいで茶髪に黒目の男の子よ。住んでる場所までは知らないわ。平民街の噴水にそういう名前の子が頻繁に来るっていうだけだから」


 ブロックアイスを噛んだのか、カリッという音をたてながら申し訳なさそうに目を伏せた。


「大まかな場所と特徴、年齢もわかったしかなり前進じゃない?」
「そうだな。この後早速行ってみよう」


 二人が噴水の縁から離れようと立ち上がる。
 しかし、ウンディーネは小さな水球を容赦なく飛ばして制した。
 タキトゥスは濡れたことで垂れた毛を触りながら「なんだよもー」と文句を言っている。


「話は最後まで聞くものよ。情報は一つじゃないんだから」
「もう一人いるって事?」

「……確証はないの。ただ、ここからもっと東に行った所で“オースティン”て誰かが呼んでいたのを聞いたことがあるって。見たわけじゃないから見た目や特徴も一切わからない。もしかしたらさっき話した男の子かもしれないわ」


 そうだとしても、確認してみる価値はあるように思えた。見た目がわからなくても場所が絞れるのは有り難い。
 雲を掴むような存在だったオースティンが、形あるものになったのだからかなりの進歩だと言える。


「声を聞いたのはいつ頃?」
「確か二ヶ月前って言っていたわ」

「わかった。先に平民街の男の子に話を聞いて、その時期に獣種ビーストエリア……て言うのかな?そこに行ったか聞いてみるよ」

「そっちにいるウンディーネに話を通しておくから、声をかけるといいわ。水付きのあなたと話したいって言っていたから喜ぶはずよ」


 噴水の水でハートマークを作り、ウィンクをしながら再び足をバタつかせた。無邪気な少女のようでとても可愛らしい。
 お礼を言って立ち去ろうとすれば、「ちょっとこっちに来て」と俺だけ手招きされる。
 エヴァンは既に歩き始めているし、タキトゥス達は縁から降りて俺の足をよじ登っている最中だ。
 飛び乗れる距離だったはずなのにわざわざ足を経由しているのは、前に可愛いと溢したからだと思う。


「どうした?」


 膝に手を当ててから前屈みになり、顔を近づける。
 一度水に潜ってから浮き上がったウンディーネが俺の両頬に手を添え、チュッと音を立ててから離れていく。


「あぁああああああああ!」


 お腹周りに到達していたタキトゥスが叫び、オネストは無言で尻尾を叩きつけて来る。
 それぞれが別の形で抗議しているけど、予測なんてできないのだから許してほしい。


「お菓子、ありがとう。また会いに来て?」
「ぜーーーったいダメー!!!!」


 服に噛み付いた二人が噴水から早く離れろと言わんばかりに引っ張る。
 唇にされたとはいえ、小さな女の子からキスされたようなものなので恥ずかしいという感情は一切なかった。


「ふふふ。また来るよ」
「ネロちゃあああああん!浮気ぃぃいいいい」
「ネロ、思わせ振りはよくない」


 二人が騒がしくなる前に噴水から離れ、情報をくれたウンディーネに手を振ってお別れをした。


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