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第三章 いざ、ロピック国へ

入国審査

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 並び始めて二時間。ようやく検査場が見える所までやってきた。あと数人で順番が回ってくる。
列から頭一つ分ずらし様子を伺うと、二人の獣種ビーストが身分証に穴が開いてしまうほど見つめていた。


「ありがとうございます」


 持ち主に返したところで荷物検査が始まった。二人で手分けして鞄から中身を取り出し、テーブルの上へ綺麗に並べていく。丁寧且つ迅速な動きだ。
 広げ終わったかと思えば、鞄を逆さにしては戻しを二人で二回ずつ行う。漏れが無いようダブルチェックをしているのだろう。
 そして日本でいう懐中電灯のような物で、鞄の中に光を当てて内側に危険物が張り付いていないかを見る。ここまでで約五分。

 鞄を端に置き、二人の一歩後ろで控えていた人族ヒューマンが一つ一つ指を指しながら中身の総数を確認。二度ほど行ってから持っていた書類に記載し、ペンを止めて二人の動向を見守る。
荷物を戻す際に数が違っていたら、どちらかが盗んだということ。側に控えていた人族ヒューマンは、職員の不正を監視する役割を担っているのだと悟った。
 二人は左右に別れ、荷物を一つずつ手に取って四方八方から不審な点や物がないかを探る。目視はもちろんのこと、振って音を聞き、匂いを嗅ぐ。
 二人で全て確認し終わるのに約十分。これは荷物が少ない場合で、商人など手荷物が多い者は更に時間が掛かるだろう。長蛇の列ができるはずだ。


「異常無し」
「同じく異常なし」


 二人が全ての工程を終えたことを告げ、鞄の中に中身を戻していく。その際、周囲に聞こえるよう数を口にしていた。


「一、二、三……」
「一、二、三……」


 一人が先に言い、もう一人が復唱する。


「……三十八」
「……三十八」
「確認致しました。運んでください」


 取り出した時と数が一致しているのを確認し、ようやく終了。袋や鞄などの口を閉め、更に別の者に渡した。検査が終わった荷物を持って簡易的に作られた仕切りへと移動する。
そして、仕切りの入り口に用意されたテーブルに置いた。身体検査を行っている持ち主が出てくるまで荷物の側を離れることはなかった。
 

「そ、想像以上に厳重ですね」
「この国ではこれが当たり前です。長年やっている商人なんかは、時間が掛かるのを見越して早めに出発するそうですよ。量にもよりますが、朝に到着して夜に入国ということもあるとか」

「夜!だからこんなに早くから並んでいるんですね」
「こちらは東門で一般向けの検査場です。商人専用の検査場は数キロ離れた北門にあります。北門はここの比ではありませんよ」

「そ……そうなんですね」


 新たな情報に脳がついていかず、当たり触りのない言葉しか口にできなかった。


「次の方」


 機械的な声が聞こえ、我に返る。気付かぬうちに自分たちの番になっていた。
 

「タキトゥス様、オネスト様。身分証です。これを持って前へどうぞ」


 二人は渡した紙を口に咥え、俺の体からテーブルへと飛び移った。


「拝見いたします」


 獣種ビーストは大人しく座っている二人を見下ろしてから身分証へと視線を向けた。黒目を上から下に動かし、お礼を言ってから返却した。
 荷物が無いのは一目瞭然。鞄を運んでいた者に目配せし、駆け足でやって来る。二人を抱いて仕切りの中へと運んで行った。念のため身体検査を行うようだ。
 前に人がいなくなって気付いたのだが、検査場は四ブロックに分かれていて、空いた所から順に案内されるらしい。
 これだけの人数が並ぶのであればあと二ブロック作っても良い気がする。しかし、人員やスペースの確保ができないなど様々な理由があるのだろう。


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