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第三章 いざ、ロピック国へ
喧嘩するほど仲が良い?
しおりを挟む陽気な天気と射し込む光に眠気を誘われ、頭を前後に揺らす。
「到着しました」
御者の声に体を震わせ、目を擦りながら小さく返事をする。
草木に囲まれていた景色は知らぬ間に消えていて、大きな荷物を抱えた者達が列を連ねていた。
「並んでいる方達は入国審査待ちですか?」
「そうですよ。ロピック王国は審査が厳しいので、入国するのに時間を有します」
「だからこんなに並んでるんですね」
膝の上で寝ていた二人は椅子へと移り、欠伸をしながら伸びをしていた。背中を二度ほど撫でてから降りる準備をする。
最大で二か月滞在するというのに、荷物は背中からはみ出ない程度のリュックのみ。些か心もとない気もするが、足りなければ買えばいいという楽観的な思考故にこうなった。
ロピック王国での生活資金は国王であるパトリオットが出してくれるし、一度行ったことがある場所であればタキトゥスの移動魔法も使える。何も怖いことはない。
転生する前の日本ではありえないことだが、魔法がある国では当たり前。サバイバルが好きな人は少しがっかりするかもしれない。
あくまで楽ができるというだけなので、そういったことが好きな者、魔法が使えない者、お金を使いたくない者は野営などをしながら旅をするのも一つの手だ。馬車や御者を手配するのもタダではないからね。俺もこんな好条件じゃなければ、のんびり歩きながら来ていただろう。
「ちんたらしてないで、早く降りてもらえます?」
長蛇の列に目を向けて準備をしていたからか、御者が顔を覗かせて言った。
「今準備してんだろうがー。パトリオットのペットは“待て”もできねーのか?」
「国王陛下を呼び捨てにしないで頂けますか?躾のなっていないのはどちらでしょうね」
「あぁ?誰がペットだ半妖精」
「獣に変わりはないでしょう。私の名はエヴァンです。出発直後に自己紹介したはずですが?名前もまともに覚えられないんですね。上位怪狼族の落ちこぼれが」
御者であるエヴァンとタキトゥスは言い合いを始めてしまった。馬車と御者を手配したのはパトリオットなのだが、なんとエヴァンはパトリオットの近衛兵らしい。
あの日の夜に顔を合わせていたらしく、出発してから事あるごとにこうして口喧嘩をしている。喧嘩をするほど仲が良いと聞くが、本当なのだろうか?と発言者に問いたい。
「エヴァン様、お待たせして申し訳ありません」
慌てて準備をし、リュックを背負う。
「ネロちゃん。俺のこと“クソ犬”呼ばわりするクソ野郎に謝んなくていいから」
「クソクソ煩いんですよ。そんなにしたければ草むらでどうぞ?クソ犬」
「やっぱこいつ殺そう」
小さい体のまま尻尾を広げるタキトゥス。オネストと小競り合いをした時のような軽い雰囲気ではなく、刺すような殺気を纏っていた。完全に戦闘モードである。
「タキトゥス様、尻尾広げてないで行きますよー」
自分に一番近い尻尾を、シンさんがオネストにしたように掴んで引っ張る。
「いででででで!ネロちゃんネロちゃん!尻尾千切れちゃうっての!こら!」
涙目になりながら残りの二本で俺の手を叩く。馬車を降りる手前で振り返り、椅子の上に這いつくばっているタキトゥスに目線を合わせた。
「大人しく肩に乗りますか?」
「乗る!乗ります!」
「じゃあ離します」
手を離すと、言われた通り大人しく肩に乗った。俺が掴んだ尻尾を前足で摩り、恨めしそうな顔でこちらを見ている。
「エヴァン様にはこれから二か月お世話になるんです。悪口ばかり言ってはダメですよ。仲良くして下さい」
「ふーんだ」
拗ねたように顔を背けるタキトゥス。エヴァンは俺達三人が降りたのを確認してから魔法で馬車を小さくし、小さな箱の中にしまった。
ここまで運んでくれた馬に似た生き物は姿を消した。どうやら召喚魔法で呼び出していただけのようだ。
「いつまで拗ねてるんです?」
「ふーんだ。尻尾引っ張るネロちゃんなんかしーらない」
長蛇の列に並んでいる間、タキトゥスはずっとこの調子だった。反対の肩でオネストが「餓鬼だな」と呆れている。
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