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第二章 日常のようで非日常

怒鳴り声

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 二人と仕事場に行くようになって約一ヶ月。
 森や動物達も真夏から秋へと変わる準備を始めた。

 職場の人たちも二人の存在に慣れてきたようで、タキちゃん、ネスちゃんという愛称で親しまれている。
 シンさんがいない時であればギルド内を歩き回っても何も言われないし、寧ろ「歩いてる!可愛い!」と熱い視線を浴びているほどだ。
 職員達にとってアイドル的存在になりつつある。
 まぁ、可愛いしな。


「ネロちゃん。フィーから書類預かってきた!この間城門近くで起こった冒険者同士のいざこざの報告書だってさ」
「ありがとうございます」


 床から机への大ジャンプを見事成功させたタキトゥスは、伏せの状態で次の冒険者が来るのを待っているオネストに尻尾で攻撃を開始した。
 往復ビンタをされているというのに、慣れているのか何も言わない。
 言わないんだが、あまりにもしつこかった為、痺れを切らしてついに尻尾で応戦を始めた。
 机の上で繰り広げられる尻尾での攻防戦。

 可愛い以外の言葉なんて見つからない。
 この天使達をこの世に産み落としたのは神か?
 それとも女神か?
 いつかお会いできたなら、心からお礼を言いたい。


「おい!どうことだ!」


 二人の姿に和んでいると、俺の背後で何やらトラブルが起きているようだった。
 大柄の獣人が机を乱暴に叩き、報告を受けていた女の獣人に向かって怒鳴っている。
 彼女は先ほどタキトゥスが書類を預かってきたフィー。
 本名はセルフィーといい、俺はそちらで呼んでいる。

 椅子からはみ出た尻尾は丸まっているが、相手の獣人に悟られぬよう耳をピクピクさせながらも必死に垂れぬよう努めているようだった。


「他の奴は小鬼族ゴブリン十八体の討伐で2500Gガル貰ってたんだぞ!なんで同じ数なのに俺は1250Gガルなんだよ!」

「支払われない理由はご自身が一番わかっているのではありませんか?先ほど伝えた金額しか、こちらからはお支払いできません」


 強気な態度で返すセルフィー。
 女は男に比べてどうしてもなめられやすい。
 それを理解しているからこその高圧的な態度。
 男は余計腹を立てたのか、額に血管を浮かび上がらせ、掴みかかろうと腕を伸ばす。
 しかし、その手が彼女の喉元に届くことはなかった。

 全ての動きを封じるかのように床からは先端が尖った氷が突き出ており、男は目線だけを下へ動かし息を潜めている。
 唾を飲み込む音が静まり返ったギルド内に響く。
 喉仏が動いただけで皮膚が裂け、血が氷を伝って落ちていく。
 相手の恐怖を駆り立てるには十分で、青ざめた表情でセルフィーを見ていた。

 いや、違うな。
 正しくはセルフィーの背後に立っている俺を、だ。
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