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第二章 日常のようで非日常

俺の仕事は…

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 ようやく静かになったところでシンさんは「ごほんっ」と咳払いを一つ。
 朝礼は毎朝欠かさず実施されており、全員で円になって情報共有を行う。
 下っ端である俺が発言することはほぼないが、毎日大量の情報が入ってくるのでメモを取るのに大忙しだ。


「それでは朝礼を始める。重要な連絡事項は三つ」


 従業員全員に見えるよう腕を前に突き出し指を三本立てた。


「一つ、ロピック国付近で戦死した者達が帰還前に南瓜族ジャック・オー・ランタンにより白骨化。彷徨っておった魂と運悪く融合し悪骸骨族ダークスケルトンが大量発生。戦後間もないロピック国から討伐応援要請がきておる。

 二つ、二週間前から各国で指名手配中じゃった上位食屍鬼族ハイグールがこの国に逃げ込んどるようじゃ。左目に傷があり、食事中に目が赤くなっておれば其奴の可能性が高い。店で目元を隠している者、目が赤い者がいたらすぐに報告するよう冒険者達に呼びかけを徹底するんじゃ。

 三つ、冒険者の我らに対する横暴な態度がここ最近目立つ。数日前も怪我人が三人出たのは皆知っていると思うが、先日国王様直々に、“騒ぎを起こした冒険者は資格を剥奪し数ヶ月から数年の禁固刑に処すように”と御達しがあった。情けはいらん。問答無用で軍へ連絡し、ち込むように」


 そこまで喋ったところで一息つき、新しいタバコを咥えて火をつけたシンさん。


「その他はいつも通りじゃ。整理整頓や敷地内の清掃を徹底すること。依頼に関しては冒険者の能力をその目で見定め、見合ったものでないと感じれば正直に伝えて断れ。命は失ってからでは遅いからの。ワシからは以上じゃ」


 口から煙を吐き出し「他に何かあるかの?」と尋ねる。
 待つこと数十秒。
 申し出がなかった為、朝礼は終了した。
 従業員達はそれぞれの持ち場へと向かう為に足早に移動する。
 のんびり歩いていると“お前がのんびり歩いとった数十秒で一枚の書類に目が通せるのー”とシンさんに言われてしまうからだ。

 そんなシンさんは冒険者達が集う国一番のギルド、トラディシオンのギルドマスターだ。
 六十九歳でありながら、そこらの冒険者よりも遥かに強い人族ヒューマン
 そんなチート級のシンさんの元で俺は事務職員として働いている。

 異世界に転生して冒険者になったり、いろんな職種になったりするというのがよくある異世界転生話なのだが、俺はあいにく平凡中の平凡。
 冒険者になれるだけの実力はなく、他の職種に就けるだけの適性もなかった。
 そんな時、祖父のように面倒を見てくれていたシンさんからトラディシオンうちで働かないかと誘いを受けたのだ。
 早く自立したかった俺はその申し出を快諾し、今もこうして働いているわけだ。


「ネロォォォ!!!さっさと依頼書を掲示板に貼り付けろ!後五分で開けるぞ!」
「はっ、はい!」


 机の上に置かれた紙の束と画鋲を持ち、急いで依頼書を貼り付ける掲示板へと向かう。


浮遊フライ


 手にした紙に生活魔法の一つである物体を浮かせる魔法をかけ、掲示板に紙を近づけてから画鋲で一気に固定するのだ。
 魔法とはやはり便利で、五分もかからずに依頼書を全て貼り終えた。

 そして「よーし。今日もバンバン働けー!」という独特な掛け声でギルドの扉は開けられ、冒険者達はバーゲンセールに来た主婦達のように雪崩れ込んでくる。
 国一番のギルドは他と比べ物にならないほど数が多く、食堂もあるからかどの時間も混み合う。
 つまり常に忙しいということだ。


「……すげーとこで働いてんだな。ネロちゃんって」
「慣れれば何てことないですよ」
「慣れってこえー……」
「驚きを通り越して恐怖さえ覚える」


 目を丸くする二人。
 俺は肩に乗った二人が誰かとぶつからないように避けながら自分のデスクへと向かった。

 国一番と言われるギルド、トラディシオンの事務職員。
 これが俺の職業です。

 地味とか言わないの。
 そんなの俺が一番わかってんだから。
 傷つくからやめて。
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