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第一章 出会い

それは唐突にやってきた

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 俺は再び、仕事の合間を縫ってバリーと共に川へとやってきた。
 泳ぎを教えて欲しいと頼まれたのである。
 普通に生活するだけなら泳げなくても生活に支障はない。
 披露する場があるわけでもないし、誰も泳げるか泳げないかなんて気にしないからだ。
 日本のように体育授業の一環として水泳があるわけでもないしな。
 だから何の問題もないのだ。

 泳ぐ必要がなければ泳げるようになりたいと言い出す者もいない。
 しかしバリーにはそうなりたいと言うきっかけがあったらしい。


「お前も単純だな」


 川の中でも水深が一メートル以上ある場所で、縁に掴まりながらぎこちなく足を動かしているバリーを陸から見つめる。


「うっせーな!レイが泳げる奴はかっこいいって言ってたんだよ!」
「好きな子にかっこいいって言われたいんだよなー。わかるわかる」
「絶対バカにしてんだろ!」


 顔を真っ赤にさせながらも足を上下させ、沢山の水しぶきを上げている。
 クロールの基本となるバタ足の練習だ。
 本来であれば潜ったり浮いたりという水に慣れるところから始めるのだが、普段から川や湖で遊んでいるこいつは悠々クリア。
 早く泳げるようになりたいというから、初日からバタ足をさせているわけだ。


「足の甲で水を蹴るんだぞ。そーそー。いい感じ」


 生前水泳のインストラクターをしていたからか、久々に指導で心が高まっている自分がいた。
 やはり獣人と人間では運動能力に差があるようで、飲み込みが早いという一言で片付けられないほど急成長を遂げ、だった一時間半でクロールが泳げるようになってしまった。
 スピードはないがフォームは完璧だ。
 今も尚、日本で水泳を習っているであろう人間の皆様に申し訳なくなってしまった。
 俺が悪い事をしているわけではないのだけれど……うん。
 なんかごめんなさい。


「よっしゃー!泳げたー!こんな泳ぎ方してる奴見たことねーんだけど、なんで泳ぎなんだ?」
「クロールって泳ぎ。知ってる人は俺とお前ぐらいだよ」
「まじかよ!クロールってすげーんだな!習得した俺もすげー!」


 水着というものがこの世界にはない為、素っ裸で川の端から端まで泳いで戻ってきたバリー。
 「よっこいしょ」と年齢らしからぬ言葉を口にして陸に上がってきた。
 自分と俺しかできない泳法と知り、尻尾を激しく左右に動かし水滴が俺の顔にかかる。
 それはもう盛大に。
 可愛いから許すけど。


「ふぃー。汗掻いたから水浴びするわ。そこらへんで遊んでていいぞ」


 服を着替えたバリーそう言って上に着ていたTシャツを脱ぎ、近くの岩に放り投げる。
 春夏秋冬という言葉はこの世界にはないが、四季はあるようで。
 きっと今は日本でいう夏。
 水辺の近くとはいえ暑かった。
 

「おっしゃー!じゃあピッグドッグ狩ってくるわ!晩飯晩飯!」


 手足を獣化させ、二足歩行から四足歩行へとシフトチェンジして森の中へと駆けていく。
 ピッグドック。
 子犬サイズの豚で戦闘能力が低く、子供の人狼族ヒューマンウルフでも容易に仕留められる魔物だ。
 この一帯には低位の魔物しかいない為、怪我などの心配はないだろう。
 駆けて行った方向に「気をつけてなー」と言えば、「おー!」と返事が返ってきた。

 さすが獣人。

 耳の良さに感心しながら、全裸になった俺は川に足を入れて中へと入っていく。
 近くにある滝へと足を進めて頭から水を被る。
 夏なのにも関わらず水は冷たく、汗を流し、更に火照った体を冷やしてくれた。


「あー気持ちよかっ……た」


 十分に水を浴びた俺は大変満足していた。
 川から上がってから水避アクアプルーフを使ってから服を着ようと水辺に目を向けた時、


「「グルルルルル」」


十七歳にして二度目の死を体験しそうな予感がプンプンしていた。

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