魔法世界の魔法鎧～前世の夢を現実に！～

第5話 目指せ！ 機会鎧『パワードスーツ』!!

あれからまた1日経った。初日は部屋の掃除に徹したことで床には足の踏み場ができ、床に無造作に置かれていた本や書物は棚にきっちりと収納した。可能な範囲で換気も行ったことで空気も綺麗になり、大分クリーンな部屋へとなっている。ただそんな部屋の状況とは裏腹に、心の中はすっきりしていなかった。


「これからどうしたもんかな……」


状況は初日から何も変わらない。両親や兄弟と顔を合わせることはおろか、屋敷の一区画から外に出ることを禁じられている。この部屋と隣室以外の扉を開けようとしてもビクともしない。鍵を掛けられるタイプでない扉の為、恐らく魔法か何かが使われているんだろう。定期的に衣服や食事等は貰えるが、軟禁に近い状況だ。


「ま、その扱いも今では納得がいくけどね」


様々な書物、世界の歴史・状勢を記したものを読んでこの世界の仕組みはある程度理解した。
結論から言えば神託の儀で魔法を得られなかった者は、この世界で生きてはいけないのだ。


この世界は生前の世界で例えるなら産業革命あたりの西洋。もっと砕いて言うならば西洋系の異世界モノの世界だ。
周辺設備には木・石・レンガ等が用いられ、テレビなど電気を用いたモノは文書の限りは見つからない。

今現在隔離されてて、この本がいつのものかわからない為確実ではないが……生活水準は現代日本のモノと比べると大分低いことが予想される。

ただ、それは日本が存在した世界と同種の技術のみを比較した際の話だ。この世界には魔法が存在する。神が幼い子に送る祝福である神託の儀を皮切りに、人は様々な魔法を使っている。

料理の火や洗濯等の生活用水、スポーツひいては戦争にまで用いられるとのこと。現在はある程度自然や科学に頼る部分もあるようだが魔法に生活が、世界が大きく左右されることには変わりないとのことだ。


魔法とは世界の根幹を成すもの。万人を愛す神が無垢な子どもに魔法を託し、人は人生を謳歌する。これがこの世界のセオリー。魔法を託されなかった、神から愛されなかった者は生活基盤を得られず、いずれ地獄へと誘われるだろう。その者らに慈悲を与えてはならない──────これがこの世界の理だと、聖書は記している。


この内容を初めて目にした際には創作の話かとも思ったが、背表紙にはご丁寧に神殿観閲済みの印まで押されている。昨日の神官や両親の様子、今置かれている状況を見るにその本はノンフィクションということになる。


『その者らに慈悲を与えてはならない』──────
今でこそ最低限の衣食住が与えられているが、いつこの家から追い出されても可笑しくない。そして魔法がなくては日銭を稼ぐこともままならないだろう。

衣食住の提供が終わるまで怠惰な暮らしを続ける。そういうのもなしではないが……どうにも勿体ない。


魔法は本当に授与されないと使えないのだろうか。魔法が根幹であるこの世界において、神に気に入られなければ人生終了？　社会的には終わるのかもしれないが……何か生き残る抜け道があるんじゃないか？


神がいる世界だ。しかも創作でもあまり見ない傲慢系の神が。
そいつのいわば加護無しで生き残れるなんて希望的観測なのかもしれない。それでも、そのわずかな可能性にかけてみたい。


「折角の第2の生、それもファンタジーの世界ときた。なら一か八か試してみたいよな！」


平凡な生活を、平凡な人生を彩を与えてくれた存在──────『アメリカンコミック』。その中でも機会鎧のヒーローに幼い頃から憧れてきた。
ご都合主義の最強魔法・スキルなんてありゃしない。それでも引き継いだ知識・記憶、そして夢がある。


「この魔法の世界で機会鎧パワードスーツを作ってやろうじゃないの‼」


あの世界では憧れでしかなかったもの、絵空事を現実に。
夢に向かった挑戦が始まった。