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第2話 緑の地の神殿
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屋敷を出ると日が煌々と空に輝いていた。
周囲は木々に囲まれ、自然に溢れた地であることが伺える。緑が多いのは田舎だからなのだろうか。
そんなことを考えながら馬車に揺られ、木々を抜け緑の大地を進んでいく。
やがて目的の場所である神殿へとたどり着いた。
「さぁ、着きましたよ」
「ここが神殿……」
馬車の窓から外を覗こうとすると、窓に反射して自分の顔が映る。童顔で黒髪の顔が。
馬車内に備え付けの鏡があるのだが、乗車した際そこに映っていたのは黒髪のほどほどに整った顔立ちの少年だった。兄2人も見た感じ10代半ばであったことから想像はしていたが、実際にこの目で認識した時の衝撃は電流が走ったかのような凄まじいモノだった。
自分は子どもであるという認識もあればそんなわけないという認識もある。自分であって自分でないという認識のズレも相まって、一言の会話もないままここまで来てしまった。
また金髪の一家にも関わらず、黒髪の子どもというのは厄介な事情がありそうだ。隠し子? 忌み子? 下手な行動を取ると今後に関わりそうで怖いのだけれど……やはりそこら辺も思い出せない。
医療を受けられる立場にあるなら医者に診てもらうべきかもしれない。
「どうしたの? 早く降りなさい」
「は、はい」
母に促され、急いで馬車から降りる。降りた先には見下ろすように立つ神殿があった。
華美な装飾などはないものの上部にかけて緩やかに細った特徴的な柱が天を支えている。所々意匠が凝らされていることから『神殿』という名前に違わず、重要な場所らしい。
そう言えばあの柱の形状……確かエンタシスと言ったか。昔世界史の授業で習ったのを覚えている。
……ん? 昔っていつの話だ?
やはり何かが可笑しい。知らない世界で知らない記憶を持っているような、そんなちぐはぐさを感じる。一体自分は誰なんだろうか。
すぐにでも発狂したいが、こんな子どもが騒いだとてどうにもならないことは明らかだ。大人しく母に連れられて神殿の中へと進んでいった。
煌々とした日を遮り、ひんやりとした屋内を進んでいくと如何にもな服装をした老人が立っていた。
「ようこそ、お待ちしておりました。オークハート家の奥様、そしてコート様ですね。儀式を担当させていただく神官でございます」
「どうぞよろしく」
「では、儀式を行いますので奥へどうぞ。ご主人もお待ちです」
神官に連れられ扉を抜けると開けた部屋に出る。聖堂程の広さの部屋に煌びやかなモザイクガラスが幾つも並び、壇上には神を模したかのような像が立っている。神官の言う通り、部屋には先客として父親が待っていた。
「ようやく来たか。もう身体は大丈夫なのか、コート」
「はい、ご心配をおかけしましたお父様」
「お前が倒れたと聞いてどれほど心配したか……元気があるのは良いことだが、怪我は極力ないようにな」
高身長で髭を生やした、厳格そうで優し気なこの人が父らしい。自身の中にある認識のズレについてはもう気にしないことにした。
そして金髪。これで血縁者に黒髪はいないことが決定したわけだ。事情が気になるがセンシティブな話だと困る……何故自分だけ黒髪なのかそれとなく聞いてみようか。
「ねぇお父さ──「では準備が出来ましたのでコート様はこちらに」」
「ん? 何か言ったかコート」
「う、ううん何でもない」
「そうか。なら神様の所へ行ってこい」
聞きたいことが聞けなかったが仕方ない。今後幾らでも聞く機会はあるだろう。
神官の指示に従い壇上付近まで足を進めた。
「コート様。今回は貴方に『神託の儀』を行っていただきます」
「神託の儀?」
「神託の儀は神とお逢いする貴重な場です。我々には見えない空想の間においてお逢いし、人生の根幹となる『魔法』を頂戴いたします。寛大なお方ですが、決して粗相のないように」
「わ、わかりました」
「よろしい。では神像の前で跪いて、祈りを捧げてください」
「祈り……ですか?」
「難しく考えることはありません。邪念を捨て、神のことを思い浮かべれば神はお逢いになるでしょう」
神社の参拝とかそういう感じでいいんだろうか。
神官の指示通り神像の前で跪き、祈りを捧げ目を瞑る。
これで本当に神様に会えるんだろうか。
そう考えていると頬を撫でるような風が耳元を過ぎる。気のせいか
……室内で風なんて吹くか?
疑問に思い瞑っていた目を開ける。目を開けた先は神像はおろか神殿、地上でもない。真っ新な青空の下、白一色の雲の上で跪いていた。
周囲は木々に囲まれ、自然に溢れた地であることが伺える。緑が多いのは田舎だからなのだろうか。
そんなことを考えながら馬車に揺られ、木々を抜け緑の大地を進んでいく。
やがて目的の場所である神殿へとたどり着いた。
「さぁ、着きましたよ」
「ここが神殿……」
馬車の窓から外を覗こうとすると、窓に反射して自分の顔が映る。童顔で黒髪の顔が。
馬車内に備え付けの鏡があるのだが、乗車した際そこに映っていたのは黒髪のほどほどに整った顔立ちの少年だった。兄2人も見た感じ10代半ばであったことから想像はしていたが、実際にこの目で認識した時の衝撃は電流が走ったかのような凄まじいモノだった。
自分は子どもであるという認識もあればそんなわけないという認識もある。自分であって自分でないという認識のズレも相まって、一言の会話もないままここまで来てしまった。
また金髪の一家にも関わらず、黒髪の子どもというのは厄介な事情がありそうだ。隠し子? 忌み子? 下手な行動を取ると今後に関わりそうで怖いのだけれど……やはりそこら辺も思い出せない。
医療を受けられる立場にあるなら医者に診てもらうべきかもしれない。
「どうしたの? 早く降りなさい」
「は、はい」
母に促され、急いで馬車から降りる。降りた先には見下ろすように立つ神殿があった。
華美な装飾などはないものの上部にかけて緩やかに細った特徴的な柱が天を支えている。所々意匠が凝らされていることから『神殿』という名前に違わず、重要な場所らしい。
そう言えばあの柱の形状……確かエンタシスと言ったか。昔世界史の授業で習ったのを覚えている。
……ん? 昔っていつの話だ?
やはり何かが可笑しい。知らない世界で知らない記憶を持っているような、そんなちぐはぐさを感じる。一体自分は誰なんだろうか。
すぐにでも発狂したいが、こんな子どもが騒いだとてどうにもならないことは明らかだ。大人しく母に連れられて神殿の中へと進んでいった。
煌々とした日を遮り、ひんやりとした屋内を進んでいくと如何にもな服装をした老人が立っていた。
「ようこそ、お待ちしておりました。オークハート家の奥様、そしてコート様ですね。儀式を担当させていただく神官でございます」
「どうぞよろしく」
「では、儀式を行いますので奥へどうぞ。ご主人もお待ちです」
神官に連れられ扉を抜けると開けた部屋に出る。聖堂程の広さの部屋に煌びやかなモザイクガラスが幾つも並び、壇上には神を模したかのような像が立っている。神官の言う通り、部屋には先客として父親が待っていた。
「ようやく来たか。もう身体は大丈夫なのか、コート」
「はい、ご心配をおかけしましたお父様」
「お前が倒れたと聞いてどれほど心配したか……元気があるのは良いことだが、怪我は極力ないようにな」
高身長で髭を生やした、厳格そうで優し気なこの人が父らしい。自身の中にある認識のズレについてはもう気にしないことにした。
そして金髪。これで血縁者に黒髪はいないことが決定したわけだ。事情が気になるがセンシティブな話だと困る……何故自分だけ黒髪なのかそれとなく聞いてみようか。
「ねぇお父さ──「では準備が出来ましたのでコート様はこちらに」」
「ん? 何か言ったかコート」
「う、ううん何でもない」
「そうか。なら神様の所へ行ってこい」
聞きたいことが聞けなかったが仕方ない。今後幾らでも聞く機会はあるだろう。
神官の指示に従い壇上付近まで足を進めた。
「コート様。今回は貴方に『神託の儀』を行っていただきます」
「神託の儀?」
「神託の儀は神とお逢いする貴重な場です。我々には見えない空想の間においてお逢いし、人生の根幹となる『魔法』を頂戴いたします。寛大なお方ですが、決して粗相のないように」
「わ、わかりました」
「よろしい。では神像の前で跪いて、祈りを捧げてください」
「祈り……ですか?」
「難しく考えることはありません。邪念を捨て、神のことを思い浮かべれば神はお逢いになるでしょう」
神社の参拝とかそういう感じでいいんだろうか。
神官の指示通り神像の前で跪き、祈りを捧げ目を瞑る。
これで本当に神様に会えるんだろうか。
そう考えていると頬を撫でるような風が耳元を過ぎる。気のせいか
……室内で風なんて吹くか?
疑問に思い瞑っていた目を開ける。目を開けた先は神像はおろか神殿、地上でもない。真っ新な青空の下、白一色の雲の上で跪いていた。
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