黒木くんと白崎くん

ハル*

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「これが終わったら?」 4

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~黒木side~



書店に来るまでの、一時のおかしな空気がどっかに行ったみたいになって、俺はきっと安心しきったんだろう。

白崎とこの後一緒にケーキを食いに行って、いつものように互いになんでもない話ばっかりをしてても、きっとずっと楽しい時間は過ぎていく。

呼吸をするのが当たり前みたいに、白崎が俺のそばにいる。

それっくらいの存在になってることにとっくに気づいていたのに、白崎の告白をフライングのように聞いていたことでどこか慢心でもしてたんじゃないかってくらいに…気を抜いていた。

「これ、ほんっとうにふわっふわ! すごいですね、先輩」

変わらない白崎の笑顔に、「今度、俺も挑戦してみようかって思ってる」なんていえば「きっと美味しくできますよ」としか返してこないことに何の違和感もなく笑顔でうなずいていた俺。

「先に書店に寄っておいて正解だったな。雨、またひどくなってきたな」

一旦止んだはずの雨が、窓の外でまた降り始めている。

「雨、やみませんかね」

白崎のその声に、俺はスマホを取り出して雨雲レーダーとやらを確かめた。

「あと三時間は雨が降り続けるって書かれているけど、この手のデータってどの程度信用出来るんだろうな」

スマホの画面を白崎に見せながら、二人で頭をくっつけるようにして首をかしげて。

「どうなんでしょうねぇ…、そういうのの信用度をまず聞きたいところですね」

そういいながら、白崎はリコッタチーズのパンケーキの最後の一口を食んだ。

「そういえば、弟が言ってたんですけどね?」

白崎にしては珍しく、家族の話が飛び出した。

「うん」

「降水確率ってあるじゃないですか」

「ああ、あるな」

手をあげてカフェオレのお代わりをジェスチャーで頼みつつ、白崎の話の続きを待つ。ある意味、なじみの店だから出来る技だけどな。じゃなきゃ、ちょっと生意気な客だ。

「あれって、雨が降る確率っていうか、その地域の中で何割の地域に雨が降る確率なんだっていう話なんですけどね」

なんて話をされて、よくみるテレビの天気予報の画面を思い浮かべる。

続けて自分が住んでいる場所の地図が浮かんできて、今日の降水確率ってどうだったけ? とか順番に思い出してみて。

「だからなのか20%とか言っていても、雨が降る2割の地域の範囲内だったなら気分的には100%ってことになりませんか?」

2割ったらそこまで高く感じないのに、雨が降る地域の中にあれば……って、か。

「……へぇ、面白いな、その話。なに、弟って天気に興味があるようなタイプ? 資格取りたいとか」

「いえ。そういうのはないんですけど、とにかくいろんなことに興味を持つってタイプですね。雑学っていうんですか? そういうのが好きで、正直勉強の方はあまり得意じゃないみたいなんですけど、そっちの知識は浅く広く…って感じです」

弟のことを思い浮かべながら話している白崎の姿は新鮮で、自分と一緒の時やいつものやつらと一緒にいる時には弟っぽくなるところがあるからか、兄貴って顔になるのは…不思議だ。

「なんか、おにーちゃんって感じだな」

届いたお代わりのカフェオレに砂糖を入れて、かき混ぜながら呟いた。

かき混ぜて、一口飲んで、短く息を吐いて。

視線を感じて視線を上げると、どこがどうとか説明しにくいけど、どこかいつもと顔つきが違う白崎と目が合った。

「…先輩は一人っ子なのに、おにーちゃんって感じですよね」

そうしてひとり言のように呟かれたその言葉は、なんか素っ気なくて。

「間違っても俺の兄貴になりたいだとか言うなよ? お前が俺に勝てるのは、身長だけなんだから」

すこしだけふざけたことを言い返すことしか出来ず。

「そう……ですね。僕は先輩に勝てるものが少ないですからね」

その声がどこか寂しげに聞こえて、俺は白崎にかける言葉を迷っていた。

すこし悩んで、ためらって、そうしてやっと言葉にしたのはこんな誘いの言葉。

「今日、久しぶりに泊まっていかないか」

空になった皿をテーブルの端にズラしていた白崎の手が、ピクッと一瞬反応して止まった。

「……無理か? 急すぎて」

なんて言いながらも、過去に白崎が泊まった時だって急だったんだしなと同意を待つ俺。

白崎に選択権を手渡しているようにしつつも、返事は一択だろうと……。

伏せられた視線、やや間があった後に白崎がおもむろにスマホを手にした。

「返事、すこしだけ待ってもらってもいいですか?」

その動きに、俺は勝手に想像していた。

(ああ、親に泊まっていいかの確認か)

って。

白崎が何かを打ち込み、送って、わずかな間の後に返信があって、また返信をして、ふ…と画面を暗くしてから白崎はスマホをテーブルに伏せた。

そうして顔を上げた白崎の顔は、普段見てきた顔とは違ってて。

「白…さ」

その名前を言いかけたところに言葉を遮るように、白崎が俺にまっすぐ向いたままで告げた。

「まだハッキリと返事できないです。泊まれたらいいんですけど、この後がどうなるか…まだわからなくて」

と、曖昧な返事をよこした。

「え…あ……、家族でどっか行くとか、すっごい晩飯の予定でも?」

自分が動揺しているのがわかる。言ってることがまるでガキの言うことみたいだ。すっごい晩飯って、どういう?

外泊なんて、出来ない時があったっておかしくないだろ? いつものやつらとだって、必ず全員が集まれたわけじゃなかっただろ? 動揺する必要なんかないはずなのに。

「そうじゃないんですけど…まだハッキリとは」

白崎は笑顔を浮かべつつ、曖昧なままで俺への返事を保留した。

「あー…あぁ、そ…っか。じゃあ、しゃあないよな。ハッキリしたら教えてくれよ?」

今日はダメなんじゃないかという想像の方がデカくなってきて、想像しただけで思ったよりもガッカリしている自分を自覚しながら苦笑いを浮かべた。

「……ね、先輩。もう少しだけ話したいんですけど、時間…いいです?」

急に振られた話に、俺の中に断るという選択肢はなかった。

ただ、なぜかここじゃ話せないという白崎。

店を出てから店に来る途中にあった公園で話がしたいと言われて、妙な不安だけが胸の中に広がっていって。

さっきよりは小ぶりになってきた雨の中、それぞれに傘をさして公園まで歩いていく。

公園までの道中は、気持ち悪いほどに静かで会話はない。

普段と明らかに違う空気に、息が詰まりそうだ。

白崎からこんな空気を感じたことは、これまで一度もない。

「あ。…あそこ、あのドーム状になってるとこ、中は結構広めみたいですよ。あの中に入ってみませんか?」

公園に入ってすぐに白崎が指さした遊具は、ドーム状の大きめのかまくらっぽいモノに、あちこちから顔を出せるように穴が開いているモノで。

天井部分にはその穴はなく、ドーム状の端から端へと数段の階段とその先に緩やかな滑り台がついている。

天井部分を跨ぐようなその形状は、雨を凌ぐのにもよさそうではあるけれど。

「俺たちの身長で、その中に入ったら狭くないか?」

そういいつつ、傘を畳んで先に中へと潜り込むように身を沈めて進んでいく。

俺の後から俺よりもデカい体と長い手足を折るようにして、白崎も中に入ってきた。

「…わぁ、せまーい」

なんて、ガキみたいに笑いながら。

「だーから、言っただろ。狭くないか? って」

「予想通りです。…でも、あれですね。ほら…小さい時にいた場所に成長してから行ってみたら、何もかもが小さく見えるって。……でも本当は、遊具の大きさはちっとも変わっていなくって、自分が大きくなっただけなんですけどね」

遊具の壁を手のひらでペタペタと、まるで何かを確かめるように何度も触れながら呟いた。

「視点をどこに置くかって話か? 多分」

俺がそう返せば、「ですね」とだけ返してきた。

入り口がわりにした穴の向こうには、小雨になったとはいえ水たまりに雨が何度も波紋を作っている。

狭い空間で二人、体育座りの格好で黙っている。聴こえるのは、雨の音だけ。

――どれくらいの時間が経っただろう。

「ね、先輩」

先に口を開いたのは、白崎。

「ん?」

それだけ返して、その続きを待ちきれず、白崎の顔を覗きこむ。

覗きこんだその先にあった瞳は、やっぱりいつもと違う色に見えて、俺は溢れそうな不安を抑えこむように制服の胸元をぎゅっと握りこんだ。

「今からする話が終わったら、先輩にお願いがあるんです」

珍しく自分から甘えてくるような言葉に、俺は即答する。

「ああ、いいよ。どんなもんでも、俺が叶えられることなら…叶えてやる」

自分の口からそんな言葉がすらすらと出てくるのが不思議なのに、白崎にだけは別にいいかと思えてしまう自分がいる。こういうとこなかったのに、白崎のことを好きになったことで変えられてしまったのか? なんて考えてしまう俺がいる。

(でも、白崎が俺を変えたのなら、別に…嫌じゃない)

どんどん加速していく感情を持て余しそうになりつつも、

「お願いの内容を聞く前に、そんなこと言っちゃっていいんですか? 後悔しますよ?」

言ってる内容は、すこし意地悪な含みを持たせたものだってわかるのに、それすらも白崎ならいいかと思っている俺がいる。

(自分が思っているよりも、白崎のことが好きになってるのかもしれないな)

日を追うごとに自覚していく、白崎に抱く自分の中でデカくなっていく気持ち。

(先輩と後輩ってだけじゃ、やっぱ……物足りない)

「この話が…」

「ん?」

聞き漏らした言葉を問いかけるみたいにいつもの返事をするけれど、白崎は笑顔のままで俺の顔を逆に覗きこむようにしてから呟いた。

「これが終わったら……」

白崎がいう“これ”の意味がつかめずに、黙って見つめ返していると。

「…………きっと、雨はあがりますよ。――咲良先輩」

初めての呼び方で、俺のことを呼んだ。

「白崎…」

その声は甘く、俺の心をくすぐり揺さぶるには十分で。

俺は白崎が遊具の床に置いていた手に、自分の手を重ねる。

元カノたちからも名前を呼ばれたことなんかあったはずなのに、白崎に呼ばれたってだけで心が弾んだ。

――だから、頭から抜けちまったんだ。本当に、一瞬。白崎が俺に話があるっていってたのに。

「…していいか…」

ねだるように、ミリ単位の距離から確認をする。“なにを”かも言葉にしもしないで。

『今から白崎とキスをする』

自分の欲が脳内でリピートされる。重ねた手にギュッと力を込めてから、もう一度囁いた。

「お前とキスがしたい……りん

そうして俺も、初めて目の前にいる好きな人の名を呼んでみた。

たったそれだけなのに、なんでこんなに心臓がドキドキするんだろうな。

(それもこれも、相手が白崎だから……なんだろ?)

とっくの昔に出ていた答えを答案に書いて、白崎の同意を待ちながら顔を傾けた。

(あとは、白崎のイエスか白崎の方からわずかにでも近づいてさえくれたら)

触れそうで触れられない距離で、俺はその瞬間を待っていた。

「…どうして、したいんですか?」

けれど耳に入ってきたのは、どこか低いトーンの疑問形。

”どうして”

それは、俺が白崎のことが好きで、白崎も直接の告白はないけれど俺のことを好きなんだって知っているから。

(両想いなんだったら、別にキスくらい)

急かすつもりはないと思っていた俺は、自分の方からその言葉を告げた。

「お前のことが好き…だからだ」

受け入れるんだろう? お前は…って頭の中から白崎へと囁いて、顔を傾ける。

わずかしかなかったはずの隙間に、スッと手のひらを割り込まれた。

俺の口元をふさぐ、白崎の大きな手。雨のせいかすこしひんやりした手のひらが、かすかに震えている気がした。

(…なんで)

当然の疑問を頭に思い浮かべて、俺は白崎のその手を避けようと手首をつかんだ。

「学校祭の時にも、先輩はキス…しましたよね? 僕に」

そう切り出されて、あの時間を思い出す。

白崎のファーストキスの相手になりたくて、かすかに触れただけの事故みたいなものをそれにしたくなくて重ねた唇。

あの時は結局、答えを聞けずに終わったはずだ。

白崎が好きで、キスしたい相手が誰なのか。

ズルいってわかってても、あの場で自分がその場所に立ちたくて白崎の同意も得ずにキスをした。

(でも許してくれるだろうと思っていた。…なんでかって…白崎は俺のことが)

口元を隠されたままで、コクンとうなずく俺。

「ああやって、先輩に好意を抱いていそうな相手とキスをする…とか。慣れて…ますか?」

ぶつけられた質問に、白崎の手をそっと避けてからまっすぐにその目を見つめつつ答えを返す。

「いや。そんなつもりはないし、これまでだってそういうキスをしたことは…なくって」

あの時の感情を紐解けば、これが正直なところだ。

「じゃあ、どうして…男の僕にキスを? ……やっぱりからかって…たんですか?」

質問の内容は互いに結構照れくさいか恥ずかしいかもしれないことなのに、白崎はいつもとは違う目で俺を見つめ続けている。

「そんなつもりは、一切なかった。ただ……」

と、そこまで言いかけて、一瞬ためらう。

「…ただ?」

どっかガキっぽい感情な気がして、言葉にするのを迷う。

「あー……っと、さ。んと…その……俺は、さ。あの時…は」

そのためらいすら、ちゃんと言葉にしなきゃ勝手に歩き出してしまうかもしれないっていうのに、自分の中にあったカッコつけたいだけのプライドが足を引っ張ることになるなんて。

「……いいですよ、もう。どうせ…からかっていたんでしょう? 僕、特別言葉にしていなかったですけど、先輩に対してどんな目を向けていたのかなんて、まわりからみても滑稽なくらい明確だっただろう…し」

いいですよ、もう。と切り出した瞬間、白崎の目がチカッと光った気がした。何かの反射か? と思った程度の光だ。

それは大した気にするほどでもなくて、引っかかったのは白崎がぶつけてきた言葉の内容で。

「滑稽…って」

白崎が俺に向けて来る気持ちをバカにしたとか、そんなつもりは一切なかった。

むしろ俺を想ってくれている、好かれていると感じるたびに、俺の中にもじわじわと滲んでいった白崎への想いが正当化されていくようで安心出来たほどなのに。

あの夜の内緒の告白は、俺にとって今につながる大事な記憶なのに。

「確かにお互い…ちゃんと言葉にはしてこなかったけど、俺は…お前が俺にちゃんと伝えられるその時が来るまで…待とうって思ってて。どっちも急かしたくないって考えてて」

いつものメンバーに話してきたようなことを、こんなタイミングで白崎に伝えることになるなんて。

俺のその言葉に、白崎の目がそらされた。

「そ…ぅ、だった…んですか」

俺のどの言葉に対しての、それだ?

「いつから?」

不意に新たな疑問を投げかけられる。

「え?」

主語のない疑問には、安易に答えられない。

「先輩は…いつから………僕を」

明確になった疑問に、俺はなんて返せばいいのか悩む。

いつから、なんて…ハッキリはしていない。キッカケだけはわかる。

「あの、雨の日……お前が、来て、帰った後……かもしれない」

自信なさげにそう返せば「…え」と戸惑うような声が耳に入る。

「まさかあの…タイミング、で? そんなはず…」

俺があの時好きになったのがおかしいとでも言いかねない、そんな表情を浮かべる白崎。

「おかしいか? そんなに」

まさかとか言われても、そこしか浮かばないんだからしょうがない。

「だってよ、あの時お前が俺に」

俺が白崎を好きだと思ったキッカケを疑われて、ポロッとこぼれた一言。

「…え」

「あ……っ」

白崎の目が大きく見開かれて、戸惑いをハッキリ浮かべた目で見つめられる。

(寝てる時に告白されたとか、俺は一言も言ってない…よな?)

心の中で言い訳めいたことを繰り返しながら、白崎の様子を伺う。

俺と見つめあったまま白崎の目がゆっくりと細められ、やがてそらされてから、白崎の顔がさっき入ってきた穴の方へと向けられた。

「これが…終わったら……」

何かを呟いたようだけど、顔がこっちを向いていなきゃ聞き取りにくい。

「今、なんて」

背後から聞き返してみても、答えは返ってこない。

静かな雨の音だけをBGMに、二人でいつまでも遊具の中で雨宿り。

「雨、止まないですね」

こっちを向くこともなく、ひとり言みたいに呟き、また静かになる。

「そう、だな」

俺の返事は、大した意味を持たせずに返しただけだ。

「雨…止んでほしかったな…ぁ」

切望していたようなその声に、俺は胸の奥に痛みを感じていた。

「晴れるって…信じたかった」

天気の話をしているって思うのに、何か違うのか? と聞き返したくなる。

のに、俺はその質問を切り出せない。

何かを言葉に、と口を開きかけた俺。

けれど、開きかけた口から言葉は出ることがなく、同時に白崎が素っ気なく告げた言葉を聞きとろうとしていた。

「泊まり、行きません。…ごめんなさい」

こっちを見ることもなく、そのまま身を低くした体勢で遊具を出て行こうとする白崎。

「白崎!」

遊具を出て、追いかけて、腕をつかんで。そうして、もう一度伝えたら? と思うのに、遊具の入り口まで進んだけれど、そこから先に進めない。

「さよなら、咲良先輩」

最後まで俺を振り返ることなく、傘をさしてしまえば、顔なんか見えなくなって。

「り…鈴!」

アイツよりも先に呼びたかった名前を呼ぶだけで、足を縫いつけられたかのように動くことはなかった。

雨は強くなって、白崎は雨の糸が色濃くなっていく中に溶け込むように遠くなっていく。

置いていかれたその空気の中、俺はどうしたらいいのかわからなくなってスマホを手にした。

あの日のように、スマホに戻ってこいって電話なりメッセージを送るなりすれば、もう一度さっきの話をやりなおせるのか?

それにアイツが話したいって言ってたことって、いったい何の話だったんだ?

さっきした話は、アイツがしたかった話に含まれるわけがないだろう。

学校祭の時の、好きでキスしたい相手も聞けていない。そして、今回のアイツからの話と話の後のお願いってやつも聞けていない。

「聞きたかったことが、なにも…聞けてない」

それだけが事実で、それだけがひどく重くのしかかってくる。

スマホを手にして、白崎へのメッセージを送る勇気もなく、俺はアイツにメールを打ち込んで送りつけた。

『…で、今どこ。迎え行くから』

俺が送ったメールに、それだけ送り返してきた。

『住所は……の、公園。ドーム状の遊具の中にいる』

住所と雨宿りをしている場所を伝えると『わかった』とだけ返ってきた。

どれくらい待っただろうか、わからない。

「みーつけた」

声の主が白崎よりもデカい体をしゃがませて、遊具の中を覗きこんできた。

「……なに、泣いてんの? こんな場所で」

ガキみたいに、制服の袖で自分の目元をグイグイとこする俺に。

「はいはい。とりあえず泣いてるままでいいから、俺んとこ…おいで?」

そいつは、開いた傘の中へと誘うように手を差し出した。

「…悪い、佐々木」

こんな天気の中に、メールをした時点で予定があるとかないとかもなく、呼び出したのに。

「いーんだよ、お前は俺を呼び出したって」

素っ気なく、でも甘やかす言葉で俺を許してくれる。

「俺、なんでこんなに…ダメなんだろ。恋愛に事関すると…」

誰かと別れるたびに呼び出してしまう、たった一人。

「いーからいーから。今日も話、してみな? 優しい俺が聞いてやっから」

優しい言葉に毒されるように、俺はその手をつかむ。

「頼って…ごめん」

傘の中、力なくもたれかかった俺の肩を抱き寄せて、雨に濡れないようにしてくれるそいつは。

「甘えてごめん、佐々木」

弱い俺を知っている、信頼している友達で。

「気にすんなって言ってんだろ?」

そして、俺のこれまでの恋愛遍歴とか、カッコ悪いとこも受け止めてくれる相手でもあって。

「さ、俺んち行こ? ついでに今日、泊まってきなよ」

俺が弱ってる時は、俺だけを最優先にしてくれる相手でもあった。





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