黒木くんと白崎くん

ハル*

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最初の一歩 5※白雪姫アレンジver.

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~白崎side~


昔々あるところに、自分が一番キレイだと思い込んでいる王妃様がいました。

王妃様の日課は、魔法の鏡に向かってこう話しかけることでした。

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは…だぁれ?」

すると魔法の鏡が答えます。

「この世で一番美しいのは、王妃様です」

王妃様はうっとりして、満足そうに部屋を出ていきました。

いわゆる、プライドの塊が歩いているような王妃様です。なかなかにメンドクサイ性格です。

そんなこんなな日々を数年過ごした頃のある日、いつものように王妃様は魔法の鏡に話しかけます。

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは…だぁれ?」

すると魔法の鏡が答えました。

「この世で一番美しいのは、白雪姫。美しく、可愛い…お姫様。ファンクラブもあって、私も入会しています」

どうでもいい情報つきで。

「白雪姫…白雪姫……。名前は覚えたわ。さぁ、答えなさい。魔法の鏡。白雪姫はどこにいるのかしら」

鏡は答えます。

「なにをおっしゃいますか、王妃様。白雪姫は、城内におります。あなたの義理の娘ではありませんか」

王妃様はその設定を忘れていたようです。なんといっても、毎日自分にうっとりなんですから。

「義理の娘。……ということは、前王妃の娘ということね。いつの間にこんなにも…」

そう言いながら、魔法の鏡が映し出した白雪姫の姿を憎々しげに見つめる王妃様。

「この世に美しいものはひとつでいいのよ。ふたつめは、いらないのよ」

魔法の鏡がある部屋を出て、王妃様はある部屋へと向かいました。

王妃様はある狩人に、白雪姫を消してくるように命じました。ですが、白雪姫を可哀想に思った狩人は白雪姫を逃がしたのです。

森の奥へと逃げるように言われた白雪姫は、歩きつかれた森の中でとある小屋にたどり着き眠ってしまいました。

次に目が覚めた時には、その小屋に住んでいる小人たちに囲まれていて、事情を話すと一緒に暮らすことになったのです。

王妃様に追われず、平穏な日々を過ごす白雪姫。白雪姫がいなくなり、自分が一番美しいと思っている王妃様。

平和だったはずの日常が、またある日をキッカケに…崩れていくのです。

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは…だぁれ?」

自信ありげに鏡に話しかけたはずが、鏡の様子が…おや? おかしいですね。

「鏡よ鏡! なぜ答えぬ! この世で一番美しいのはこの私であろう?」

鏡は無言を貫きます。

「鏡よ! 答えなさい! この世で一番美しいのは誰だ!」

怒り心頭の王妃様は、鏡にむかって怒鳴り散らします。その辺にある花瓶を掲げ、今にも鏡に投げつけそうです。

「言います! 言いますから、どんなことを言っても花瓶を投げつけないと約束してください」

鏡は割られまいと、必死になって訴えかけます。

「わかったから、言いなさい! この世で一番美しいのは私であろう!?」

その言葉に、鏡の中が歪んで一人の可愛くて美しい女の子を映し出しました。

「この世で一番美しいのは、白雪姫! これ以上美しい方は、きっといないでしょう」

鏡がそう言った瞬間、花瓶が鏡に投げつけられて鏡はもう何も映さず話すこともなくなりました。

「……狩人め。あの時、嘘を吐いたのだな。…白雪姫を探し出して、この手で消してやろう。この世で一番美しいのは…この私だけだ」

そう呟く王妃様の姿は、まるで悪い魔女のようでした。



「暗転! 急いで!」

「ちょっとそっち、片しわすれてる」

「ああ…っ、もうすぐ第二部始まるよ」

「白崎くん、頑張ってね」

「あ、うん」

バタバタしながら、まわりが動いていく。不思議なことにあれだけ嫌がっていたはずなのに、この空気を嫌だと感じなくなっていた。

「それじゃ、行こうか。白雪姫」

「よろしくね、めんどくさい王子様。…また後で」

「ふふ。また後でねー」

王子役の女子と小さく声をかけあって、僕は舞台の中心へと歩いていく。

白雪姫の話としては、ここまでは普通の方だろう。問題は、ここから。

オリジナルに近いとはいえ、内輪ネタで盛り上がるような話の展開じゃ、楽しいのは自分たちだけだ。

学校のイベントとして、誰が見ても楽しめる流れにしなきゃと何度も話し合いをして、脚本の書き直しに赤ペンでの書き込みもたくさんした。

「…ふぅ」

僕が短く息を吐くと、小人役の数人が親指を立てて笑顔を向けてくれた。僕も緊張しながらも、なんとか笑顔を返す。

小さくブザーが鳴って、ライトに照れされる。

――幕が上がった。



「ただいまー」

「しー」

「らー」

「ゆー」

「きー」

「ひー」

「めー」

七人の小人たちの声に、白雪姫は振り返る。ものすごくいい笑顔を振りまいて。

「おかえりなさい、みんな。今日もお疲れさま」

そういって、白雪姫が手でハートを作って見せる。

「はぁああああっ! めっちゃ癒される」

「今日の疲れなんか、吹っ飛んだ」

「白雪たん」

「今日のご飯は?」

「ボクだけに、ファンサしてぇ」

「眠い」

「手伝うことはないかい? 白雪(キラーン)」

小人たちは一緒に暮らすうちに、白雪姫のことが大好きになり、大変仲良く暮らしていました。

まさか王妃様が白雪姫をまた狙おうとしているなんて思わず、今日も一日が平和に終わります。

次の日になり、城内にて王妃様がお城の厨房係にアップルパイを作らせていました。

「毒リンゴでも食べさせてこの世から消そうと思ったけど、毒を仕込んだ場所にかぶりつくかわからない一か八かよりも、アップルパイに仕込んだ方がいいに決まっているわ」

王妃様は意外といろいろ考えていたようで、確実に白雪姫を消す方向で動いていました。

「あぁ、リンゴを煮る時に、これを隠し味にね。決して味見はしないように。…わかってるわね?」

厨房係にそう念押しをして、出来上がり次第、部屋に運ぶように指示をして王妃様はいなくなりました。

しばらくして、王妃の部屋にアップルパイが運ばれました。

出来上がり次第、調べて手に入れた白雪姫の行き先へとアップルパイを運ぼうとしていた王妃様。

魔法使いのコスプレをしようと、ローブを羽織って鏡でその姿を映し出しています。

アップルパイが運ばれて、鏡の中の自分にうっとりしていた王妃様はうっかり味見をしてしまいます。

そう…毒が仕込まれたアップルパイを。どこを食べても、毒に侵されてしまうアップルパイを。

「…あら! とても美味しく出来てるわ……うっ……喉の奥が焼けるよう…グハッ」

毒の効きは早く、王妃様は魔法使いのコスプレをしたまま亡くなってしまいました。

白雪姫に毒入りのアップルパイを食べさせることが出来ないままで…。

その頃、隣の国の王子様が馬に乗って森を走り抜けていきます。

パッカパッカパッカパッカ……。

「あぁ、どこにいるんだ。白雪姫は」

この王子様。実は異世界に転生した王子様で、白雪姫の話の展開を知っていました。

「この俺がキスをしなきゃ…白雪姫の話が終わらない。俺のキスでエンディングだ! どこだ! 白雪姫ぇ!!」

パッカパッカパッカパッカ……。

森を駆けていくと、気づけば夜が更けていました。

「…どこだ、ここは」

森の中で馬を下りてさすらう王子様。うっそうとした森の中で灯りがともる小屋を見つけるのは、砂の中の金を探すのに等しいのです。

どれだけ歩いたのでしょう。

遠くに小さな灯りを見つけ、王子様はそこへと近づいていきます。

木で出来た小屋があり、そっとそのドアを押すと簡単にドアは開きました。

鍵らしい鍵がない時代だったのでしょう。大変不用心ですが、この時の王子様には好都合でした。

家の中に入り、あたりを見回します。

いくつかのドアがあり、そのひとつには小人たちがベッドに眠っています。

「こいつらはどうでもいい」

ボソッと呟き、隣の部屋のドアを開きました。

「…これは」

そこは小人たちが用意した、白雪姫だけの部屋です。

ぐっすりと眠っている白雪姫の姿を見て、王子様は内心大興奮です。

「寝顔がキレイだ。これならきっと起きていたら、さらにキレイなのだろう。…あぁ、こんな人が毒に侵されるなんて…許されない」

静かに白雪姫に近づき、王子様はその顔を真上からのぞきました。

「こんなに静かに眠っているように見えるけど、もしかしたら…まさか…! すでに毒に?」

王子様は一人で勝手に突っ走るタイプのようです。そこにきて、寝息があまり聞こえない白雪姫という偶然が重なって、更に王子様は先走ってしまいます。

「今…しちゃってもよくないか? キス」

ごくりと唾を飲み、リップクリームをしっかり塗って、息を詰めてから王子様は白雪姫に唇を重ねました。


「きゃああーーーー」

「うぉおおおおお! キスしたのか?」

「いやあ! 白崎くーん」

シルエットでのキスシーンで、実際は触れてもいないのに会場だけが盛り上がっていく。


「…ん。だぁれ? ……って、マジで誰!!」

目がさめた白雪姫は、薄暗い部屋の中で目が合った王子様を見て、思わず素の声が出ました。

「え? 白雪姫…でしょ? 俺は隣の国の王子。君を救いにきたのに、その態度はないんじゃない?」

「え? え? 不法侵入者? なに、その平然としてるところが、ありえないんだけど! 誰か! 誰か起きてよ!」

白雪姫は大きな声をあげて、小人たちを呼びます。

「ちょ…待ってよ。もう…っ。じゃあ、とりあえずまた来るよ」

「え? また…って、どういうことーーーー」

放心した白雪姫に残されたのは、よくわからない男に奪われたファーストキスと、その男がまた来るということ。そして、知らずして折られたフラグは王妃様に毒を盛られるということ。

「白雪! どうしたの?」

あわてて駆けつけた小人たちに、泣きながら訴える白雪姫。こぶしで何度も唇を拭いながら。

「眠ってる間に、どこぞのバカ王子が不法侵入してキスしていったんだよっ! ありえないんだけど」

いつものキレイで可愛らしい白雪姫ではなくなってしまったものの、これはこれでイイと小人たちは思いました。

翌日になり、朝からバカ王子がやってきては、白雪姫に尋ねます。

「ねぇ、リンゴ持った魔法使い来てない? キスが必要なら、いつでもするけど?」

言いながら、リップクリームを何往復もさせる王子の姿に、平和な日常はいつ戻ってくるんだろうと途方に暮れた白雪姫でした。

話の展開が変わったことに気づくまで、王子様は毎日白雪姫のところへと通い続け、ウザ王子と言われたかどうかは内緒の話。


音楽が鳴って、キャストが上手と下手から出てくる。

王子にエスコートされた僕を中心に、みんなで手をつないで一列に並んでから目で合図をしあって頭を下げる。

観客席の方から大きな歓声があがって、僕はすごくドキドキした。

(思っていたよりも、すっごく楽しかった!)

幕が下りて、みんなでワイワイ言いながら舞台から下りていく。

大道具担当の子とか担任が出てきて、背景に使ったものとかをステージ横の倉庫へと一時的に片づけはじめた。

「よかったぞ、白崎」

担任の先生に言われて、僕は笑うだけ。

(先輩、見に来てくれていたのかな)

舞台を下りたその後に気になったのは、先輩のことだけだ。

僕らの舞台の直後にあるのが、先輩たちのバンド演奏だという。

「次のが見たいなら、お前がよければそのまま観客席にいてもいいぞ」

そわそわしていた僕に担任からまた声がかかって、軽く会釈をして僕は体育館の中の方へと移動した。

次が先輩たちなら、きっと見てくれていたはず。

あとで時間をもらって、どうだったか感想が聞きたい。

ドレス姿で体育館の隅に行こうとした僕の目に、舞台の方へと移動する先輩の姿が目に映った。

舞台下の、端と端。そんな場所同士の僕と先輩。

――ほんの一瞬、先輩と目が合った気がした。

(気のせいじゃなきゃいいな)

そんなことを思いながら、人ごみの中を移動していく。

楽器のセッティング。音出し。すこしずつザワつきが変わっていく感じに、ワクワクするようでドキドキするような不思議な感じだ。

ジャーーーーン…とボーカルの先輩がギターを軽く鳴らすと、体育館が一瞬で静かになった。

アナウンスでこれからバンド演奏が始まりますと、告げられる。

「演奏の前に、バンドの方からお願いがあります」

ボーカルの先輩がメンバーを見回して、一度うなずく。先輩はなぜか大げさにやれやれというポーズをした。

「実はパンフレットにあるように、バンド名をこの場で決めようと思います。今からあげる二つの名前から、拍手が大きい方を選ぶのでご協力お願いします」

そうして二つの名前の共通の由来をあげ、メンバー込みで多数決の掛け声はあがった。

「Collars(カラーズ)がいい人ぉ」

パチパチパチ……。

「Colorful(カラフル)がいい人ぉー」

(あ、先輩はこっちか。じゃあ、一緒がいいや)

僕は先輩に合わせて、Colorfulの方に拍手をする。

パチパチパチ…。

メンバーと目配せをして、バンド名が決まった。

「それじゃ、今から演奏を始めます! はじめまして! 俺たち、Colorfulです」

ドラムやギター、先輩が弾くキーボードにベースの音が聴こえて…止まって。

ボーカルの先輩がマイクをわずかに上に向け、息を吸い込んで告げた。

「二曲やります。…では、一曲目」

イントロは聞き覚えがあるあの曲だ。

僕は自然と、まるで祈っているように手を組んでこぶしにし、先輩の姿だけを見つめていた。




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