黒木くんと白崎くん

ハル*

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せんぱい! 先輩! センパイ! 4

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~黒木side~


「最近、アイツの様子がおかしい」

昼休み。いつものメンバーで、教室で弁当を食う俺とその他。

「アイツ?」

「アイツって誰」

「アレだろ、アレ」

「どれだよ、どれ」

そのど真ん中で、眉間にしわを寄せて唸っている俺がいる。

「後輩。中学ん時の、委員会つながりでちょいちょい保健室に来るんだけどよ」

と俺がいえば、そろって「あぁ、アレね」と一瞬で理解した。

「後輩ちゃんが、一体どうしたってさ」

俺の玉子焼きに無許可で手を伸ばしてくる奴の手を、箸の先でつつく真似をして追い払う。

唐揚げをつかんで、口へ放って咀嚼しながらアイツの顔を思い出す。

「入学して、なんだかんだで二か月だろ?」

「そうだな」

「俺たちも三年になって、二か月だろ」

「…まあ、そうなるよね。同じ時間が流れてるんだし」

「それで、何がおかしいのさ」

「二年ほど連絡つけてなくて、それの穴埋めみたいな感じの期間って俺は思ってるんだけど」

「連絡つけてなかったのかよ。…冷たいねー、お前」

「連絡先書いたやつ入れたまんま、洗濯しちまったんだっての」

「あー、あるある」

「にしても、穴埋めしたいような後輩…ってことで、オケ?」

「ん? オケといえば、オケ? なんつーか、一緒にいた期間は短かったんだけど、よく懐いてくれてたから簡単に縁を切るのもなぁ…と、さ」

「ふぅ、ん」

「なんだ、けど…よ。距離感がよくわからなくなってきてる、俺が。二年間の空白って、どのくらいの早さでどうやって埋めていくのが正解なんだ?」

机に肘をつき、盛大にため息をつけば隣から「それは二人次第で違うんじゃない?」という声がする。

「それで? 後輩ちゃんの何がどう悩み?」と聞かれ、あの日を思い出す。

何個目かわからない菓子パンの袋を開ける隣の友人を横目に、「なんつーか」と切り出してから。

「やたら、褒めて落としてくる。それと、大したケガでもないのに保健室に来る。何か悩みがあって話したいのに、言い出せなくて……困ってるんじゃねぇのか? と思うんだけど、どう思う?」

「褒めて落として?」

「ん」

「褒められたの? さくちゃん」

「ちゃん付けすんなって言ってるよな」

「で。なんて褒められて、なんて落とされたのさ」

「あー……。目は大きくって、まつげも長いって言っといて、身長は僕より低いけど、そこまで低すぎってほどじゃないって言ってきて。その後に、口は悪いけど、なんだかんだで世話好きだから多分好かれる方じゃないですか? って言われた。素直に喜べんって返したら、素直に取ってくれてもいいとか言われてもな。からかわれているのかと思えるんだけど、まんまなのか?」

あの時間を思い出して言われたまんま伝えてみると、「はいはい」とどうでもよさげな返しがあった。

「…あのなー。いかにもどうでもいいですって顔すんなよ」

と困った顔で言えば、「だってどうでもいい話にしか聞こえないし」と隣から呟く声がした。

「お前、それ何個目のパン?」

「え? 4つめー」

「ってか、どうでもいいって…俺が悩んでるのに、冷たくねぇ?」

「だってさ、…なあ?」

なんて、まわりにまるで同意を得るように声をかけたかと思えば。

「だよな」と、いう声が続く。

「なにがなんなんだか、俺にわかるように話してくれよ」

戸惑い、箸が止まってしまった俺を置いて、先に食べ終わったやつがゴミをまとめ始める。

「じゃあ、俺の感想ね」

と言い出したのは、いつもおにぎりばかり食べている友人で。

「…なに。感想、って」

思わず身構えた俺に、「今まで通りに大事にしてやってりゃ、そのうちどうにかなるんじゃないの?」と鼻先であしらうように呟いてからゴミ箱の方へ消えてしまった。

「なんでそんな態度で言われてんの、俺」

腑に落ちない気持ちを抱えながら、残りの弁当を口に詰め込んでは噛んでいく。

「黒木は、後輩がすることとか気になる…で合ってる?」

俺と同時に食べ終わったやつが、確認をしてきて、俺はちょっと考えてからうなずいた。

「なら、さ。向こうから絡んでくるのを待つんじゃなくて、こっちからアクション起こしてみて…の、反応を見てみたら? またなにか違うモノが見えるかもしれないじゃない?」

「アクション、ねえ」

ふぅむ…と考えてから、そういえばと思い出したことがあった。

中学の時に聞いていた、アイツの好きな食べ物の話だ。

幸いなことにと言っていいかわからんが、俺は母親に代わって料理を担当していることもあって、そこそこの調理スキルはあるはず! 多分。

中学の時にもアイツに食わせて、珍しく口元をゆるめていた食べ物があった。

「……アクション、起こすか」

そう呟けば、隣から小さく笑ったように息をもらしたのが聞こえた。

「なんだよ」

どこか楽しげな友人に、文句を言うように口を尖らせれば。

「なんだかんだ言いながらも、面倒見がいいしな。後輩ちゃんがいうように」

さっき話した後輩の言葉を引用してくる。

「特別世話好きだのなんだのって意識したことないのに、そう言われてもな…。体と心が向いた方に動いてるだけの話でしかないことを、外野からそう思っていますって伝えられても実感が皆無に近い」

「あはは」

「さくちゃんは、そうだよね」

「だーかーらー、さくちゃんって呼ぶな」

「だって、可愛いんだもん。さくちゃんって」

「…可愛さは求めてない」

「もったいないこと言うんだから、さくちゃんは」

「お前なー、しつっこい!」

「ふふ。次は体育でしょ? なんだっけ、今日やるの」

「たしか、バスケ。体育の担当の先生がいないから、代わりの先生が来て、フリーゲームのはず。ケガ無いようにって、朝のホームルームで言ってたじゃん」

「あー…バスケなー」

「昼飯の後の運動って、絶対わき腹にくるやつ」

「あー…わかるかも」

ロッカーからジャージを取り出して、更衣室へと急ぐ。

他愛ない話をしながら、体育館へと急ぐ俺たち。

教室は二階の職員室がある階で、そこから一階の廊下へと小走り。

二階から一階に行く途中の階段で、何の気なしに振り向くと二階の反対側通路で佇むアイツの姿を見つけた。

三年生の教室が並ぶ廊下側の反対にある通路には、図書室がある。

(昼休みの当番だったのかな)

なんて想像しつつ、みんなの後を追って更衣室へと急ぐ。

さっき思いうかべていた、中学の時に俺が作ったお菓子を食べた時のアイツの顔。

あの頃よりはもうちょっとうまく作れるようになったはずだし、飾りつけだってなんだって。

(あの頃と味の好みが変わっていなきゃいいんだが)

すこしの不安を抱きつつ、作る系統を考える俺。

相談したように、俺が気づけないだけで本当に何かを悩んでいるのかもしれない。

食べ物でどうこう出来るだなんて思っちゃいないけど、もしかしたら昔に戻って口を軽くしてくれるかもしれないだろ。

更衣室でバタバタと着替えて、体育館へ。

号令に従って礼をして、準備運動からのバスケのフリーゲーム。

体を動かしながらも、俺はアイツのことを考えていた。

連絡先を失くして、バツの悪さに会いに行けない臆病さを知られたくなかったのも、二年間音沙汰なしだった理由だ。

アイツが同じ高校に入学してきてからは、何かとアイツを気にかけてしまう。

罪悪感がいまだに重たくのしかかっているから、だろうな。

今日は俺が保健室の当番の日。

(今日は来なきゃいいな、アイツ)

ケガをしてこなきゃいいと思いながら、ケガなんかしないでも話にきたってかまわないのになと考える俺もいる。

「へぇーーーーい! パスよこせよ!」

手をあげて、パスを求めると結構な勢いでボールが吹っ飛んできた。

「…った」

なんでか指先が切れて、じわりと血がにじんでいる。

「あ…悪い」

「いや、大丈夫だ。念のため、保健室に行ってくる」

「おう」

体育館を出て、保健室へと歩いていく。

「まさか俺の方がケガをするなんて、な」

アイツのことが言えないなと思いつつ、歩いていく。

「これっぽっちのケガでも、アイツは心配するんだろうなぁ」

指先を見せたくない。

「…来なきゃいいな、やっぱ」

なんて、さっきとは違うことを考えて、保健室へと急いだ。


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