にいにと呼ばないで。

ぽぬん

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only you

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「で?ヤッたの?」

「ぶっ!!」

あれから数日、少し落ち着いてきたので現状報告も兼ねてファミレスで4人集まることになっていたわけだけど…フォークをこちらに向けてズバリ!といったドヤ顔でミナホさんが聞いてきた。

俺は吸い込みかけたオレンジジュースを盛大に吹き戻し、ケンゴさんはミナホさんの頭をコツンと叩いて軽く叱ってくれていた。

「ったく…ミナホは相変わらずだなあ。」

「愛のムチってことにしてやるわぁ…っと、そうだろなつめぇ!俺らはいつも通りだぞ!安心したかー?」

「ノリがいいのは構わんが場所をわきまえろ、な?」

はたから見れば高校生男子が騒いで飯を食ってるように見えるが、話している内容はエグイ。

「彰孝にいさん…はもうあれから連絡は入れてこないし、待ち伏せとかも今のところない。」

やっていた事が事なだけに表立って俺たちを責めたり捕まえようとかすることはしてないみたいだ。していない…というよりは出来ない、が正しいのかもしれない。

「響くんの一撃のおかげで前後の記憶が飛んでるのか…押し入った俺たちの顔は覚えてないみたいでな。」

「そ!著名であの時の写真とか動画送りつけて、下手なことしたらネットにばらまくぞぉ!って言っといたら素直にやめてくれぇって言ってきて、大人しくなってさ。やっぱ世間体っていうの?社会人の重役の人には効くみたいだね。」

なんてへらへら笑いながら棗に向かって少し慌てた様子で「動画は加工してるし、送り主も足がつかないようにしてやったから俺らの身バレとかは無いから安心してくれ!」って言われたけど、ミナホさんの謎知識と謎の編集技術には驚きを隠せないというか…マジで謎すぎて怖いくらいだなと、ありがたいけど。

「大丈夫、二人とも信じてるからさ。ありがとうな。ただ…」

このことに対してのケジメというか、本当の決着はまだついていないって棗は言った。

確かに、していたことに対しての制裁は俺たちの手で一応は完結しているようにみえるけど、棗と彰孝さん当人同士の完全決着はまだ…心の問題だって。

「俺としては…このまま絶縁して欲しい気持ちが大きいけど。」

「響…俺だってできるならそうしたいよ。でもね?」

テーブルの上に置いた俺の右手の握りこぶしに添えられる棗の左手。そっと優しく包むように。

「響をちゃんとまっすぐ愛したいから。」

ブワッと全身の毛が浮いたというか、なんかすごい表情でこっち見てるから、俺、ゆでだこ。それどころかここにいるのかいないのかわからないみたいな?浮いてるような感覚に襲われ、固まってしまった。

「あーらら。これはこれは…」

「仲がいいのはいいことだが…棗のそれは響くんには少し刺激が強いみたいだな。」

棗はかっこいい…凛として、きりっとした顔をしてんだけど…なぜかわからないけど甘える仕草と瞳がどう伝えたらいいのかわからないくらいに可愛らしいんだ。色っぽいっていうのももちろんあるんだろうけど…まだ耐性乏しい俺にはケンゴさんの言う通り刺激が強いみたい。

「くッ…ごめん、わざと、ふふっ。」

「なぁっ!マジやめてくれよ棗ぇっ…はずっ…!」

そんな風にふざけてる俺たちを見つめるミナホさんは、

「見せつけてくれるわね!にいにじゃなくて名前で呼んでるし!なによっ!変な心配いらないじゃないの!」

って、ちょっとおネェっぽく喜び怒っていた。

「お前たちがいい方向にいってよかった、と思う。後はその、棗自身が納得いくようにやればいい。」

ケンゴさんも同じように安心してくれたみたいだけど、他愛のない話をして歩く帰り道、別れ際に

「響くん、仲がいいだけでは理解してもらえないだろう立場にあることはしっかり留めておくんだ。叔父とのことに完全決着したとしても、家族が受け入れてくれるかは…」

「はい、それも、わかってます。」

彰孝さんのこともだけど、心配してるのはそれだけではなく母さんのことも、心配してくれてる。
ケンゴさんもミナホさんも同性同士のカップルだけど、俺と棗の関係とは違う、俺たちは血はつながらずとも兄弟だから。

このことだけじゃないけど、俺ができることはしっかりやるつもりだし、棗の心も体も全部守ってあげたいって強く思っているし、強く誓ってる。
でもやっぱり少し不安だったりはする…だからかな、ミナホさんと棗が談笑しながら前を歩く姿を見ながら唇を噛み締めて、苦しい表情をしてしまっていたみたいだ。

「一度に解決できることじゃないからな。少しずつでいいだろう…そんな顔をするな。」

「そうです、よね。少しずつがんばります。」

ケンゴさんが俺の頭をぽんぽんと優しく叩いた。と、思ったら突然真面目な顔をして、

「で?ヤッたのか?」

「ちょっとケンゴさんまで?!」

なんて。
ケンゴさんはきっと俺のことを気にしてくれて普段言わない、なれない冗談を言ってくれたんだろう。証拠に耳が真っ赤になっていたから。

そんな風にして笑いながら歩く帰り道は、いつもより短く感じた。棗とふたりきりになった家までの道のりも。

「っし、気を張ってこ。」

胸のあたりでガッツポーズした俺を見て、

「響はそんな風に考えなくていいよ、俺がつけたいケジメだから。楽にしてていいんだよ。」

なんて困ったように笑いながら俺の頭をなでる。

「そういうわけには…って、なんか今日めっちゃ頭撫でられるなんでだ。」

「ん-?うーん?かわいいから?じゃない?」

じゃない?じゃない…くっそー!年齢だけはどうしようもないけど、身長はもう少し伸ばして…!

「そうやって膨れるから、かわいいんだよ。」

って不意打ちでほっぺたに棗の唇が触れる。

「…っ!そういうことする棗もだからな!」

そう言って俺は、棗の着ているシャツの襟を両手でぐっと掴んで引き寄せて、唇を重ねて…お返しをする。

「ふんっ…!」

「んっ。響…お前って結構大胆だよな。」


…そうなのかな?
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