1 / 4
転生したらしい
しおりを挟む
現代社会の闇に飲まれて自暴自棄になり、ならいっそのこと死んでやる! と息巻いたが、人の決死の覚悟も上司や同僚には鼻で笑われ「どうせお前もこき使われて一生を終えるんだよ」と明るい未来設計もくそもない一言を云われビルの屋上から飛び降りた。死ぬってこんなにも気分が軽くなるんだな、と思っていたのがついひと月前のことである。
俺は今、異世界に転生して第二の人生を強制的にスタートさせられていた。いや、なんでやねん。生粋の関東生まれ関東育ちの俺ですら関西弁で突っ込むレベルで奇想天外な展開に、何もかもがついていけない。唯一俺に寄り添ってくれるのは疲労のみである。お前だけは俺を裏切らない。お前のことは嫌いだが、お前の存在を感じられるというだけで得られる安息もあったのだ。嬉しくない。
異世界に転生した俺は勇者であるらしい。宿屋で目が覚めていつもと違う雰囲気に地獄の沙汰を垣間見ようと外に飛び出たのが運の尽きだった。いかにも冒険していますという風貌の四人組に「貴方が勇者ですね」と変な言い掛かりを付けられ、有無をいわさず武器屋に担ぎ込まれてあれよあれよと装備を身に付けさせられると一見して城下町を徘徊する近衛兵のモブが爆誕した。勇者という肩書きがあまりにも重すぎる。
「え、もしかしてこれ魔王とか倒しに行く流れ?」
また自ら死を選べと?
異世界転生してもブラック企業に勤めていた頃と変わらないハードモードな選択肢に、俺の思考はパンクした。無理だわ。死のう。
「落ち着け」
首もとに剣の切っ先を運んだ俺を制したのは筋骨粒々の大男だった。職業は僧侶である。人は見かけで判断してはいけない見本そのものだ。
「そうですよ、死ぬのは魔王と会ってからでも遅くないですって」
「死ぬ前提なら今死にたい」
「死ぬならせめて役立ってから死ぬ方が人としての尊厳が格上げされますよ」
「辛辣すぎない?」
仮にも勇者なんだよね、俺。気さくに清流のごとく酷いことを天使のような笑顔で宣ってくる少年の職業は武道家である。可愛い顔をしてえげつない筋肉の鎧を服の下に纏っている。分かるんだよ、立ち方がなんか普通の人じゃない。
「大丈夫、魔王といえど殴れば死にます」
脳ミソまで筋肉で出来ているらしい発言に、俺は「ソーデスネ」とただ頷くしかない。反論でもしようものならあばら骨を持って逝かれる。そんな気配を察した。その武道家の後ろに居た穏和そうな青年が「まあまあ」と物腰柔らかな言動で武道家を宥めているが、彼の背中には大剣が背負われており、最終的には物理的に黙らせてきそうだな、と俺はいささか現実から逃避をし始めた。
「殴るよりも首を切り落としてしまえば、相手も自分も痛くないよ」
いや、相手は痛いだろ。それとも痛みも与えずに首を落とすほどの手練れだっていうのだろうか。
「まあ、これでも一応は剣士だから」
そう、彼は剣士である。敵と遭遇しようものなら「困ったなあ、どうしようかなあ」と全く思ってもいないことを口にしながら容赦なく大剣を振り下ろすような男である。知らんけど。
そしてその隣で冷淡な雰囲気を醸し出す青年が、魔法使いらしい。口数が少ないのか、個性が強すぎる面子に出来うる限り関わり合いたくないのか、少し離れた位置で鎧をガシャガシャと鳴らす俺に冷ややかな眼差しを向けている。頼むからそんな目で見ないでくれ。
大柄屈強僧侶に、毒舌ショタ武道家、穏やかの皮を被った蛮族剣士に、唯一それっぽい魔法使い。改めて整理して見ると、もはやバグだろ。人は見かけで判断してはいけないの見本市を勇者のパーティーで開催するんじゃあない。
俺は今、異世界に転生して第二の人生を強制的にスタートさせられていた。いや、なんでやねん。生粋の関東生まれ関東育ちの俺ですら関西弁で突っ込むレベルで奇想天外な展開に、何もかもがついていけない。唯一俺に寄り添ってくれるのは疲労のみである。お前だけは俺を裏切らない。お前のことは嫌いだが、お前の存在を感じられるというだけで得られる安息もあったのだ。嬉しくない。
異世界に転生した俺は勇者であるらしい。宿屋で目が覚めていつもと違う雰囲気に地獄の沙汰を垣間見ようと外に飛び出たのが運の尽きだった。いかにも冒険していますという風貌の四人組に「貴方が勇者ですね」と変な言い掛かりを付けられ、有無をいわさず武器屋に担ぎ込まれてあれよあれよと装備を身に付けさせられると一見して城下町を徘徊する近衛兵のモブが爆誕した。勇者という肩書きがあまりにも重すぎる。
「え、もしかしてこれ魔王とか倒しに行く流れ?」
また自ら死を選べと?
異世界転生してもブラック企業に勤めていた頃と変わらないハードモードな選択肢に、俺の思考はパンクした。無理だわ。死のう。
「落ち着け」
首もとに剣の切っ先を運んだ俺を制したのは筋骨粒々の大男だった。職業は僧侶である。人は見かけで判断してはいけない見本そのものだ。
「そうですよ、死ぬのは魔王と会ってからでも遅くないですって」
「死ぬ前提なら今死にたい」
「死ぬならせめて役立ってから死ぬ方が人としての尊厳が格上げされますよ」
「辛辣すぎない?」
仮にも勇者なんだよね、俺。気さくに清流のごとく酷いことを天使のような笑顔で宣ってくる少年の職業は武道家である。可愛い顔をしてえげつない筋肉の鎧を服の下に纏っている。分かるんだよ、立ち方がなんか普通の人じゃない。
「大丈夫、魔王といえど殴れば死にます」
脳ミソまで筋肉で出来ているらしい発言に、俺は「ソーデスネ」とただ頷くしかない。反論でもしようものならあばら骨を持って逝かれる。そんな気配を察した。その武道家の後ろに居た穏和そうな青年が「まあまあ」と物腰柔らかな言動で武道家を宥めているが、彼の背中には大剣が背負われており、最終的には物理的に黙らせてきそうだな、と俺はいささか現実から逃避をし始めた。
「殴るよりも首を切り落としてしまえば、相手も自分も痛くないよ」
いや、相手は痛いだろ。それとも痛みも与えずに首を落とすほどの手練れだっていうのだろうか。
「まあ、これでも一応は剣士だから」
そう、彼は剣士である。敵と遭遇しようものなら「困ったなあ、どうしようかなあ」と全く思ってもいないことを口にしながら容赦なく大剣を振り下ろすような男である。知らんけど。
そしてその隣で冷淡な雰囲気を醸し出す青年が、魔法使いらしい。口数が少ないのか、個性が強すぎる面子に出来うる限り関わり合いたくないのか、少し離れた位置で鎧をガシャガシャと鳴らす俺に冷ややかな眼差しを向けている。頼むからそんな目で見ないでくれ。
大柄屈強僧侶に、毒舌ショタ武道家、穏やかの皮を被った蛮族剣士に、唯一それっぽい魔法使い。改めて整理して見ると、もはやバグだろ。人は見かけで判断してはいけないの見本市を勇者のパーティーで開催するんじゃあない。
14
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
悪役の弟に転生した僕はフラグをへし折る為に頑張ったけど監禁エンドにたどり着いた
霧乃ふー 短編
BL
「シーア兄さまぁ♡だいすきぃ♡ぎゅってして♡♡」
絶賛誘拐され、目隠しされながら無理矢理に誘拐犯にヤられている真っ最中の僕。
僕を唯一家族として扱ってくれる大好きなシーア兄様も助けに来てはくれないらしい。
だから、僕は思ったのだ。
僕を犯している誘拐犯をシーア兄様だと思いこめばいいと。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる
海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
隣国王子に快楽堕ちさせれた悪役令息はこの俺です
栄円ろく
BL
日本人として生を受けたが、とある事故で某乙女ゲームの悪役令息に転生した俺は、全く身に覚えのない罪で、この国の王子であるルイズ様に学園追放を言い渡された。
原作通りなら俺はこの後辺境の地で幽閉されるのだが、なぜかそこに親交留学していた隣国の王子、リアが現れて!?
イケメン王子から与えられる溺愛と快楽に今日も俺は抗えない。
※後編がエロです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる