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69. 元使用人
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僕がこの世界に転生してきてから、十二年目の秋を迎えていた。
すっかりこの世界に馴染み、生活に困ることもなくなった。来た当初は僕が住んでいた世界と違いすぎて、本物のミッチェルの記憶があったとしても、困惑することも多かった。
この世界の僕は双子の兄だった。僕に無邪気に甘えてくれる弟を見て、双子とはいえ僕は兄だから、守らなきゃと思った。前世で僕に懐いてくれた弟の『ソラ』を思い出し、どこか重ねて見ていたのかもしれない。
そんな甘えん坊の双子の弟のフィルは、今ではすっかり成長して、ハイネル家の当主として日々職務に励んでいる。今も僕のとなりで、書類を前にして眉間にシワを寄せている。
「フィル、どうしたの?」
「うーん……」
僕の問いかけに、フィルはうーんと一言唸った。そして、はっきり聞き取れないような声で何かをつぶやき、はぁと息を吐き出して、渋々といった様子で僕の方へ体を向けた。
「アーホルン公爵家の援助を受けて、少しずつ改善はしてきてるんだけど、やっぱりまだ厳しくて……。いつまでも使用人の派遣要請を続けるわけにもいかないし、かといって新規に雇う余裕もなくて」
「うーん、そうだよね。いつまでも甘えているわけにもいかないし」
頭を悩ますフィルに同調した僕は、一緒になって頭をひねった。
「その件なのですが、少しお話よろしいですか?」
軽いノックとともに、ペーターが顔を出した。
「どうしたの?」
「会っていただきたい人物がいるのですが、お部屋にお通ししてもよろしいでしょうか」
「ペーターがそういうなら、入ってもらって構わないよ」
「ありがとうございます」
ペーターはフレッドの従者だから、フレッドに付いているはずなのだけど、なぜか僕たちのそばにいることが多い。きっと、まだ経験の浅い二人の様子を見守っていてほしいと、フレッドが指示しているのだろう。
ペーターが「失礼します」と言って入ってくると、後ろから続いて入ってきたのは、見覚えのある人物だった。
「あ、あれ!? 前にハイネル家で働いていましたよね? ……そうだ、カールさんだ。そうですよね? とてもよく働いていてくれてたのに、お父様が辞めさせちゃったみたいで……。本当にごめんなさい」
ペーターについてきた人物は、以前ハイネル家で働いていた使用人で、確か名前はカールと言った。僕たちが小さい頃からいたから、結構長く勤めていてくれたのだと思う。
僕は懐かしさが先立ってしまい、質問攻めのように話しかけてしまった。
遮れずに戸惑っていたカールさんは、僕の言葉が途切れたのを確認してから、急にぱっと頭を下げた。
「申し訳ございません! 一連の騒動の引き金になったのは、おそらく私の行動が原因なのです!」
頭を下げたまま謝罪を始めた彼に、僕たちは慌てて顔を上げるように言った。とにかく話を聞くからと、椅子に座るように促した。
「ハイネル家を出てからのことです」
彼は椅子に座り、下を向いたまま話し出した。
「そういうことだったのですね……。でも、僕はあなたが悪いとは思いません」
一通り彼の話を聞いたフィルは、大したことではないようにそう言った。
「そうだね。僕もフィルと同じ気持ちだ」
僕も同調すると、彼は目を大きく見開いて、僕たちを見た。
「ハイネル家にオメガがいると隠そうとしたのはお父様一人の判断だから、あなたがリヒター伯爵に、たまたま僕がオメガだという話をしたからと言って、あなたが悪いことにはなりません」
「お父様に、『オメガを迎え入れたいと言っている資産家がいる』という話をしたのも、お父様が僕の結婚相手を探していたから、伝えただけでしょう?」
僕とフィルは、ね、と言って顔を見合わせた。
「ということで、この話はおしまい。それで、折り入って相談があるんですけど……」
僕たちは、ペーターが彼をここに連れてきた意図を察し、フィルがさらっと話題を変えた。
すっかりこの世界に馴染み、生活に困ることもなくなった。来た当初は僕が住んでいた世界と違いすぎて、本物のミッチェルの記憶があったとしても、困惑することも多かった。
この世界の僕は双子の兄だった。僕に無邪気に甘えてくれる弟を見て、双子とはいえ僕は兄だから、守らなきゃと思った。前世で僕に懐いてくれた弟の『ソラ』を思い出し、どこか重ねて見ていたのかもしれない。
そんな甘えん坊の双子の弟のフィルは、今ではすっかり成長して、ハイネル家の当主として日々職務に励んでいる。今も僕のとなりで、書類を前にして眉間にシワを寄せている。
「フィル、どうしたの?」
「うーん……」
僕の問いかけに、フィルはうーんと一言唸った。そして、はっきり聞き取れないような声で何かをつぶやき、はぁと息を吐き出して、渋々といった様子で僕の方へ体を向けた。
「アーホルン公爵家の援助を受けて、少しずつ改善はしてきてるんだけど、やっぱりまだ厳しくて……。いつまでも使用人の派遣要請を続けるわけにもいかないし、かといって新規に雇う余裕もなくて」
「うーん、そうだよね。いつまでも甘えているわけにもいかないし」
頭を悩ますフィルに同調した僕は、一緒になって頭をひねった。
「その件なのですが、少しお話よろしいですか?」
軽いノックとともに、ペーターが顔を出した。
「どうしたの?」
「会っていただきたい人物がいるのですが、お部屋にお通ししてもよろしいでしょうか」
「ペーターがそういうなら、入ってもらって構わないよ」
「ありがとうございます」
ペーターはフレッドの従者だから、フレッドに付いているはずなのだけど、なぜか僕たちのそばにいることが多い。きっと、まだ経験の浅い二人の様子を見守っていてほしいと、フレッドが指示しているのだろう。
ペーターが「失礼します」と言って入ってくると、後ろから続いて入ってきたのは、見覚えのある人物だった。
「あ、あれ!? 前にハイネル家で働いていましたよね? ……そうだ、カールさんだ。そうですよね? とてもよく働いていてくれてたのに、お父様が辞めさせちゃったみたいで……。本当にごめんなさい」
ペーターについてきた人物は、以前ハイネル家で働いていた使用人で、確か名前はカールと言った。僕たちが小さい頃からいたから、結構長く勤めていてくれたのだと思う。
僕は懐かしさが先立ってしまい、質問攻めのように話しかけてしまった。
遮れずに戸惑っていたカールさんは、僕の言葉が途切れたのを確認してから、急にぱっと頭を下げた。
「申し訳ございません! 一連の騒動の引き金になったのは、おそらく私の行動が原因なのです!」
頭を下げたまま謝罪を始めた彼に、僕たちは慌てて顔を上げるように言った。とにかく話を聞くからと、椅子に座るように促した。
「ハイネル家を出てからのことです」
彼は椅子に座り、下を向いたまま話し出した。
「そういうことだったのですね……。でも、僕はあなたが悪いとは思いません」
一通り彼の話を聞いたフィルは、大したことではないようにそう言った。
「そうだね。僕もフィルと同じ気持ちだ」
僕も同調すると、彼は目を大きく見開いて、僕たちを見た。
「ハイネル家にオメガがいると隠そうとしたのはお父様一人の判断だから、あなたがリヒター伯爵に、たまたま僕がオメガだという話をしたからと言って、あなたが悪いことにはなりません」
「お父様に、『オメガを迎え入れたいと言っている資産家がいる』という話をしたのも、お父様が僕の結婚相手を探していたから、伝えただけでしょう?」
僕とフィルは、ね、と言って顔を見合わせた。
「ということで、この話はおしまい。それで、折り入って相談があるんですけど……」
僕たちは、ペーターが彼をここに連れてきた意図を察し、フィルがさらっと話題を変えた。
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