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56. お父様の出した答え
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「詳しい内容は……また機会を見て改めて説明することにして、話を続けます」
フィルは驚いて声を上げた僕をちらりと見て『後で説明するから』と目で伝えてきた。
確かにそうだ。今この場で詳しい内容を知らないのは僕だけだ。それなら、また後での説明でも十分だろう。……僕はフィルの目を見て、小さくうなずいた。
「お父様は、リヒター公爵家とのつながりを強固にすることに必死になり、その結果、周りが見えなくなってしまいました。そして知らないうちに、その犯罪に加担することになってしまったのです」
……!
驚きの連続で、僕は再び目を大きく見開いた。
リヒター公爵家が犯罪に手を染めていただけではなく、お父様が加担していたとは……。けれど、知らないうちってどういう意味なんだろう?
「リヒター公爵家の慈善事業そのものに、問題があったのです。それを知らないお父様は、資金援助という形でお金を渡した。……ただ、実際に使われたお金はほんの一部だったそうです。お父様の渡したお金のほとんどは、リヒター公爵家の人々の贅沢のために使われていたそうです」
フィルはそこまで言うと、お父様の顔を見た。
「お父様。ここまでは問題ないですね?」
フィルの問いかけに、お父様は少し不満そうな顔でうなずいた。
「他にも、お父様が関わった人々に関しても調べがついています。リヒター公爵家のみではありません。……ですので、このままだとお父様も関わった人物として裁かれてしまう可能性があります」
……!
もう何度目だろうか。フィルの言葉に驚き、お父様とフィルの顔を交互に見た。
「お父様には、事前にすべてをお話ししておきました。そして、今後の対応や、ハイネル家についての提案もさせていただいています。……ではここで、お父様にお答えいただきたいです。……僕たちの提案に、承諾していただけますか?」
フィルはそこまで一気に言い切ると、息をひそめた。
先程まで響いていたフィルの声もしなくなり、静寂があたりに広がる。
なんて重苦しい空気なのだろう。僕は耐えきれなくなり、再び下を向いた。
時間としては、そんなに長くなかったはずだ。けれど、こういうときの時間の流れは、とてつもなく長く感じた。
静寂の中に、かすかに聞こえる皆の息遣いだけを、耳が拾う。
その静寂を破り、かたっと音を立てたのは、お父様だった。
お父様は静かに立ち上がると、横に座るフィルの方を見た。
「フィラット……。お前の条件を……のもう……」
唇を少し噛み締め、お父様は短く言った。
その言葉を聞き、フィルは確認をするように、お父様を真っ直ぐ見た。お父様はその視線に答えるように、うなずきながら小さく息を吐きだした。
「いずれ、ハイネル家はお前に任せるつもりでいた。……ちょうどよい頃合いなのかもしれない」
お父様の答えに、この場にいる全員が安堵の表情をみせた。
ただ僕一人だけ、お父様に何があって何を提案したのか、まったくわかっていない。
けれど、今この時、ハイネル家当主の座を、フィルに託されたのだということだけは理解できた。
「……お父様、ご理解いただき、ありがとうございます。ハイネル伯爵家の当主として、恥じぬよう精進してまいります」
泣き虫で甘えん坊のフィルの面影は、もうどこにもなかった。
別々のベッドを与えられても、淋しいからと僕のところに入り込んで来ていたのが嘘のようだった。
目の前にいるフィルは、家の問題に勇敢に立ち向かい、ひとまわりもふたまわりも成長した姿を見せていた。
その眼差しには決意が宿り、かつての弱さはもう感じられなかった。
「当面の間は、ハイネル家当主代理という形で、僕が公の場に立つことになります。そして十八歳の誕生日を迎える時に、正式に僕がハイネル伯爵家の当主となることを、皆さんにお知らせする予定でいます」
「わかった……」
「お父様からは、まだまだ学ばなければいけないことがたくさんあります。経験の浅い未熟な僕に、これからも、お力添えをいただけると嬉しいです」
フィルはそう言うと、お父様に深く頭を下げた。
フィルは驚いて声を上げた僕をちらりと見て『後で説明するから』と目で伝えてきた。
確かにそうだ。今この場で詳しい内容を知らないのは僕だけだ。それなら、また後での説明でも十分だろう。……僕はフィルの目を見て、小さくうなずいた。
「お父様は、リヒター公爵家とのつながりを強固にすることに必死になり、その結果、周りが見えなくなってしまいました。そして知らないうちに、その犯罪に加担することになってしまったのです」
……!
驚きの連続で、僕は再び目を大きく見開いた。
リヒター公爵家が犯罪に手を染めていただけではなく、お父様が加担していたとは……。けれど、知らないうちってどういう意味なんだろう?
「リヒター公爵家の慈善事業そのものに、問題があったのです。それを知らないお父様は、資金援助という形でお金を渡した。……ただ、実際に使われたお金はほんの一部だったそうです。お父様の渡したお金のほとんどは、リヒター公爵家の人々の贅沢のために使われていたそうです」
フィルはそこまで言うと、お父様の顔を見た。
「お父様。ここまでは問題ないですね?」
フィルの問いかけに、お父様は少し不満そうな顔でうなずいた。
「他にも、お父様が関わった人々に関しても調べがついています。リヒター公爵家のみではありません。……ですので、このままだとお父様も関わった人物として裁かれてしまう可能性があります」
……!
もう何度目だろうか。フィルの言葉に驚き、お父様とフィルの顔を交互に見た。
「お父様には、事前にすべてをお話ししておきました。そして、今後の対応や、ハイネル家についての提案もさせていただいています。……ではここで、お父様にお答えいただきたいです。……僕たちの提案に、承諾していただけますか?」
フィルはそこまで一気に言い切ると、息をひそめた。
先程まで響いていたフィルの声もしなくなり、静寂があたりに広がる。
なんて重苦しい空気なのだろう。僕は耐えきれなくなり、再び下を向いた。
時間としては、そんなに長くなかったはずだ。けれど、こういうときの時間の流れは、とてつもなく長く感じた。
静寂の中に、かすかに聞こえる皆の息遣いだけを、耳が拾う。
その静寂を破り、かたっと音を立てたのは、お父様だった。
お父様は静かに立ち上がると、横に座るフィルの方を見た。
「フィラット……。お前の条件を……のもう……」
唇を少し噛み締め、お父様は短く言った。
その言葉を聞き、フィルは確認をするように、お父様を真っ直ぐ見た。お父様はその視線に答えるように、うなずきながら小さく息を吐きだした。
「いずれ、ハイネル家はお前に任せるつもりでいた。……ちょうどよい頃合いなのかもしれない」
お父様の答えに、この場にいる全員が安堵の表情をみせた。
ただ僕一人だけ、お父様に何があって何を提案したのか、まったくわかっていない。
けれど、今この時、ハイネル家当主の座を、フィルに託されたのだということだけは理解できた。
「……お父様、ご理解いただき、ありがとうございます。ハイネル伯爵家の当主として、恥じぬよう精進してまいります」
泣き虫で甘えん坊のフィルの面影は、もうどこにもなかった。
別々のベッドを与えられても、淋しいからと僕のところに入り込んで来ていたのが嘘のようだった。
目の前にいるフィルは、家の問題に勇敢に立ち向かい、ひとまわりもふたまわりも成長した姿を見せていた。
その眼差しには決意が宿り、かつての弱さはもう感じられなかった。
「当面の間は、ハイネル家当主代理という形で、僕が公の場に立つことになります。そして十八歳の誕生日を迎える時に、正式に僕がハイネル伯爵家の当主となることを、皆さんにお知らせする予定でいます」
「わかった……」
「お父様からは、まだまだ学ばなければいけないことがたくさんあります。経験の浅い未熟な僕に、これからも、お力添えをいただけると嬉しいです」
フィルはそう言うと、お父様に深く頭を下げた。
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