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29. 双子の絆
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扉の向こうから聞こえるお父様の声に、僕とフィルは顔を見合わせた。
このままだと見つかってしまう。僕はとっさにフィルの手を引き、部屋の隅にある収納箱の後ろに押し込んだ。
「ここに隠れていて。絶対出てきてはダメ」
「でも、ミッチはっ……」
「僕は大丈夫だから。いいね? そこから動いちゃだめだよ?」
僕はフィルに強い口調で言い聞かせると、深呼吸をしてから、扉を開けた。
目の前に見えたお父様に、僕の心臓はバクバクと大きな音をたてたけど、冷静を装って何事もないようにお父様に話しかけた。
「お父様、どうかされましたか?」
「フィラットは来ているのか?」
扉の前で仁王立ちをしたお父様は、僕と視線が合うと鋭い瞳で睨みつけてきた。
二度と目が合うことはないと思っていたお父様と、こんな形で視線を合わせることになるなんて……。
凍りつくような冷たい視線に、ブルっと体を震わせる。けれど、フィルのためにここで怯んではいられなかった。
「いいえ、来ていません」
お父様の目を真っ直ぐと見つめ、僕は冷静な態度で返事をした。
今はこんなふうにみすぼらしい姿になってしまったけれど、ハイネル家の長男だ。最後くらい、凛とした兄らしい姿を見せたかった。
おそらくこのまま何処かへ連れて行かれ、ここに戻ってくることはないだろう。
「わかった。ではお前だけを連れて行く」
お父様は僕の返答に追求をすることなく、無言で小さくうなずくと、僕の腕をガシッと掴んだ。
良かった。これでフィルが見つかって怒られることはない。
フィルはずっと、お父様とお母様に可愛がられ、最大限の愛情を受けて欲しい。
フィル、元気でね。
心のなかでお別れの言葉を言うと、お父様に引かれるがまま歩き出した。
「お父様、ミッチをどこに連れて行くのですか!」
部屋を出ようとしたその時、隠れているはずのフィルが収納箱の影から飛び出してきた。
「フィル、だめ!」
僕はフィルを守りたくて叫んだけれど、もう遅かった。
「いるじゃないか。先程はいないと申したな? うそつきめ! これだからオメガは!」
お父様がそう言いながら僕を睨みつけると、バシンと派手な音を立てて、頬を激しく叩いた。
前世のいわれのない嫌がらせや、理不尽な暴力を思い出しながら、痛む頬を押さえた。
「待って!」
そう叫びながら、止めるようにこちらへ走ってくるフィルを無視して、お父様は僕の腕をぐいぐい引っ張って部屋の外へ連れ出した。
扉の外へ出て階段に差し掛かった時、お父様に強く引っ張られた僕は、足元がふらつき、階段の縁で足を滑らせてしまった。
あっ! と思った時にはもう遅く、体がふわりと宙を浮いた。まるでスローモーションのように、ゆっくりと落下していく。
だめだ、このままじゃ頭から落ちる!! ……そう思った瞬間僕はぎゅっと目をつぶって身構えた。けれど次に襲ってくると思った衝撃はやってこなくて、温かなぬくもりに抱きかかえられていた。
「……?」
僕はびっくりしてそっと目を開けると、僕を抱え込んで守ってくれたのは、フレッドだった。
「フレッド!」
僕のピンチを助けてくれたんだ! 感謝の気持ちに溢れてお礼を言おうとしたけど、いつまで待ってもフレッドは目を開けない。
ペシペシと頬を叩いてみたけど、反応はない。
僕はフレッドの腕から抜け出すと、膝の上にフレッドの頭を乗せた。
そして、もう一度頬を叩いたり、肩を揺すったりしてみた。
けど、フレッドからの反応はなかった。
今まで無理やり記憶の奥に押し込んでいて、思い出すことのなかった、『リクが僕を庇って倒れた時』の記憶が、突然フラッシュバックした。
僕の頭の中に、あの日の恐怖と混乱が鮮明に蘇り、心臓が激しく鼓動し始めた。
「……フレッド? ……どうしたの? ……ねぇ? フレッド……? …………ねぇ!! 返事をして!!」
僕は半狂乱になって、叫び続けた。
このままだと見つかってしまう。僕はとっさにフィルの手を引き、部屋の隅にある収納箱の後ろに押し込んだ。
「ここに隠れていて。絶対出てきてはダメ」
「でも、ミッチはっ……」
「僕は大丈夫だから。いいね? そこから動いちゃだめだよ?」
僕はフィルに強い口調で言い聞かせると、深呼吸をしてから、扉を開けた。
目の前に見えたお父様に、僕の心臓はバクバクと大きな音をたてたけど、冷静を装って何事もないようにお父様に話しかけた。
「お父様、どうかされましたか?」
「フィラットは来ているのか?」
扉の前で仁王立ちをしたお父様は、僕と視線が合うと鋭い瞳で睨みつけてきた。
二度と目が合うことはないと思っていたお父様と、こんな形で視線を合わせることになるなんて……。
凍りつくような冷たい視線に、ブルっと体を震わせる。けれど、フィルのためにここで怯んではいられなかった。
「いいえ、来ていません」
お父様の目を真っ直ぐと見つめ、僕は冷静な態度で返事をした。
今はこんなふうにみすぼらしい姿になってしまったけれど、ハイネル家の長男だ。最後くらい、凛とした兄らしい姿を見せたかった。
おそらくこのまま何処かへ連れて行かれ、ここに戻ってくることはないだろう。
「わかった。ではお前だけを連れて行く」
お父様は僕の返答に追求をすることなく、無言で小さくうなずくと、僕の腕をガシッと掴んだ。
良かった。これでフィルが見つかって怒られることはない。
フィルはずっと、お父様とお母様に可愛がられ、最大限の愛情を受けて欲しい。
フィル、元気でね。
心のなかでお別れの言葉を言うと、お父様に引かれるがまま歩き出した。
「お父様、ミッチをどこに連れて行くのですか!」
部屋を出ようとしたその時、隠れているはずのフィルが収納箱の影から飛び出してきた。
「フィル、だめ!」
僕はフィルを守りたくて叫んだけれど、もう遅かった。
「いるじゃないか。先程はいないと申したな? うそつきめ! これだからオメガは!」
お父様がそう言いながら僕を睨みつけると、バシンと派手な音を立てて、頬を激しく叩いた。
前世のいわれのない嫌がらせや、理不尽な暴力を思い出しながら、痛む頬を押さえた。
「待って!」
そう叫びながら、止めるようにこちらへ走ってくるフィルを無視して、お父様は僕の腕をぐいぐい引っ張って部屋の外へ連れ出した。
扉の外へ出て階段に差し掛かった時、お父様に強く引っ張られた僕は、足元がふらつき、階段の縁で足を滑らせてしまった。
あっ! と思った時にはもう遅く、体がふわりと宙を浮いた。まるでスローモーションのように、ゆっくりと落下していく。
だめだ、このままじゃ頭から落ちる!! ……そう思った瞬間僕はぎゅっと目をつぶって身構えた。けれど次に襲ってくると思った衝撃はやってこなくて、温かなぬくもりに抱きかかえられていた。
「……?」
僕はびっくりしてそっと目を開けると、僕を抱え込んで守ってくれたのは、フレッドだった。
「フレッド!」
僕のピンチを助けてくれたんだ! 感謝の気持ちに溢れてお礼を言おうとしたけど、いつまで待ってもフレッドは目を開けない。
ペシペシと頬を叩いてみたけど、反応はない。
僕はフレッドの腕から抜け出すと、膝の上にフレッドの頭を乗せた。
そして、もう一度頬を叩いたり、肩を揺すったりしてみた。
けど、フレッドからの反応はなかった。
今まで無理やり記憶の奥に押し込んでいて、思い出すことのなかった、『リクが僕を庇って倒れた時』の記憶が、突然フラッシュバックした。
僕の頭の中に、あの日の恐怖と混乱が鮮明に蘇り、心臓が激しく鼓動し始めた。
「……フレッド? ……どうしたの? ……ねぇ? フレッド……? …………ねぇ!! 返事をして!!」
僕は半狂乱になって、叫び続けた。
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