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6. フレッドとの出会い
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そこは、いつも家族と一緒に歩いている道とそんなに離れていないはずなのに、ガラリと印象が変わっていた。少し裏通りに入ったのか、日当たりも悪くて全体的に薄暗く、肌に当たる空気もジメジメとしているような気がした。
僕の知っている通りが『陽』なら、この通りは『陰』という言葉がピッタリと合ってしまうような場所だった。
見慣れない顔が歩いているのが気になるのか、近くにいる人がチラチラと僕を見ている。いや、それだけではない。着ている服から身につけているもの全てにおいて、ここにいる人たちと僕とは全く違っていた。
ヨレヨレの服を身にまとい、手入れのされていない無精髭。そんな強面の大男や、同じくらいの歳に見える子供も、頬に汚れを付けたまま、重そうな荷物を運んでいる姿も見かけた。
僕は自分の格好と改めて見比べ、あまりの違いにひゅっと全身に寒気が走った。
このままここにいてはマズイ。本能的にそう思うけど、でも弟を見つけなければならない。フィルは強がりだけど、本当はとても寂しがり屋なんだ。きっと不安で泣いているに違いない。
でもここで名前を呼ぶために大声を出すのは、この場所がどんなところかわからない限りは危険だと思う。
なるべく目立たないようにと、あたりを警戒しながらソロリソロリと歩くと、ドンッと突然後ろに何かがぶつかってきた。
「いた、ミッチ!」
えっ!? と思って慌てて振り返ると、そこには今まさに探している弟のフィルがいた。そして、さきほど僕にその場で待っているように伝えてから、フィルを探しに行ったメイドも一緒だった。
「フィル! 良かった。無事だったんだね。……だめじゃないか、急に走り出して!」
「ごめんなさい!」
無事見つかったという安堵と、勝手な行動に対しての憤りを感じていたけど、素直に謝る弟にそれ以上怒ることは出来なかった。
フィルも、普段物静かな僕の強い口調に、心配をかけてしまったことを反省したと思う。けど、僕だってあまり強くは言えない。結局、メイドの帰りを待てずに探しに出てしまったのだから。
僕も反省しながら、どこか怪我をしていないかとフィルの体中あちこちを触って確認をする。
「あはは……。ミッチ、くすぐったいよ」
くすくす笑うフィルに、僕は大丈夫そうだなと体を触ることをやめると、やっと心からの安堵の息を漏らした。
「お父様とお母様が心配しているよ。さぁ、戻ろう」
手を差し出し歩き出そうとした時、フィルの後ろに一人の少年が立っていることに気が付いた。あれ? ずっといたのだろうか?
首を傾げながらも全く知らない人物だったので、自分たちには関係がないだろうと思い、気にせず歩き出そうとした。
すると、僕と繋いでいた手を、フィルがグッと引っ張った。
「ちょっとまって、ミッチ」
「……ん? どうしたの?」
「いっしょにかえっていい?」
「え? 何が?」
「おとうさまとおかあさまに、あってほしいの」
「……誰と誰が?」
フィルは、八歳だ。いや、僕も八歳だけど、前世の十八歳の記憶があるから、少し違う。普通の八歳であるフィルとの会話は、時々分かり辛い時があって、今も言いたいことが完全には伝わってこない。
「いっしょにきてくれたの」
そう言うと、先程関係がないだろうとスルーしようとしていた少年を、ぐぐっと前に押し出した。
「……え? 誰?」
「フレッドだよ!」
いや、フレッドだよと言われても……。
僕が困っていると、後ろに控えていたメイドがすっと前に出てきて、「しばらく様子を見ていましたが、おかしな様子は今のところは無いようです」と、そっと耳打ちをした。
僕の知っている通りが『陽』なら、この通りは『陰』という言葉がピッタリと合ってしまうような場所だった。
見慣れない顔が歩いているのが気になるのか、近くにいる人がチラチラと僕を見ている。いや、それだけではない。着ている服から身につけているもの全てにおいて、ここにいる人たちと僕とは全く違っていた。
ヨレヨレの服を身にまとい、手入れのされていない無精髭。そんな強面の大男や、同じくらいの歳に見える子供も、頬に汚れを付けたまま、重そうな荷物を運んでいる姿も見かけた。
僕は自分の格好と改めて見比べ、あまりの違いにひゅっと全身に寒気が走った。
このままここにいてはマズイ。本能的にそう思うけど、でも弟を見つけなければならない。フィルは強がりだけど、本当はとても寂しがり屋なんだ。きっと不安で泣いているに違いない。
でもここで名前を呼ぶために大声を出すのは、この場所がどんなところかわからない限りは危険だと思う。
なるべく目立たないようにと、あたりを警戒しながらソロリソロリと歩くと、ドンッと突然後ろに何かがぶつかってきた。
「いた、ミッチ!」
えっ!? と思って慌てて振り返ると、そこには今まさに探している弟のフィルがいた。そして、さきほど僕にその場で待っているように伝えてから、フィルを探しに行ったメイドも一緒だった。
「フィル! 良かった。無事だったんだね。……だめじゃないか、急に走り出して!」
「ごめんなさい!」
無事見つかったという安堵と、勝手な行動に対しての憤りを感じていたけど、素直に謝る弟にそれ以上怒ることは出来なかった。
フィルも、普段物静かな僕の強い口調に、心配をかけてしまったことを反省したと思う。けど、僕だってあまり強くは言えない。結局、メイドの帰りを待てずに探しに出てしまったのだから。
僕も反省しながら、どこか怪我をしていないかとフィルの体中あちこちを触って確認をする。
「あはは……。ミッチ、くすぐったいよ」
くすくす笑うフィルに、僕は大丈夫そうだなと体を触ることをやめると、やっと心からの安堵の息を漏らした。
「お父様とお母様が心配しているよ。さぁ、戻ろう」
手を差し出し歩き出そうとした時、フィルの後ろに一人の少年が立っていることに気が付いた。あれ? ずっといたのだろうか?
首を傾げながらも全く知らない人物だったので、自分たちには関係がないだろうと思い、気にせず歩き出そうとした。
すると、僕と繋いでいた手を、フィルがグッと引っ張った。
「ちょっとまって、ミッチ」
「……ん? どうしたの?」
「いっしょにかえっていい?」
「え? 何が?」
「おとうさまとおかあさまに、あってほしいの」
「……誰と誰が?」
フィルは、八歳だ。いや、僕も八歳だけど、前世の十八歳の記憶があるから、少し違う。普通の八歳であるフィルとの会話は、時々分かり辛い時があって、今も言いたいことが完全には伝わってこない。
「いっしょにきてくれたの」
そう言うと、先程関係がないだろうとスルーしようとしていた少年を、ぐぐっと前に押し出した。
「……え? 誰?」
「フレッドだよ!」
いや、フレッドだよと言われても……。
僕が困っていると、後ろに控えていたメイドがすっと前に出てきて、「しばらく様子を見ていましたが、おかしな様子は今のところは無いようです」と、そっと耳打ちをした。
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