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魔塔の狂人編
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しおりを挟む拝啓 王立第3騎士団の皆様
時下益々ご清栄のこととうんたらかんたら。
第1騎士団は、官舎だけでなく食堂の食事まで違いました。
まさか、仕事中に背筋を伸ばして、ナイフとフォークで静かに食べる事になるとは……。
居心地が悪いの、なんのでビックリです。
本当に平民が1人も居ないんですね。
息を吸うと、高貴な匂いがします。
早く第3に戻りーーいや、早く普通の職に就きたいと強く感じました。
取り急ぎ、このどうしようもない気持ちを。敬具
「ルゥ、どうした。ぼうっとして。食事が進んでいないじゃないか」
「……っは。意識が宇宙にっ」
「(ウチュ……?) 大丈夫か? 少し前にディオンとサシャ・ヴァロアが来たそうだな。何かされたのか」
何かって。変態はともかく、弟は信じてあげてくれ。
まあ、絡まれただけで物理的には何もされてない。
……いや、脅されたか。そうだな、アイツは悪い奴だ。うん。
「挨拶?に来たらしい、デス。お土産持って」
「そうか (ルゥには一度家庭教師をつけるべきだろうか。少し頭が……いや、だがのびのびと……) 」
「そうか」と、一言呟いてティーカップを傾ける姿は、とても様になっている。
男の俺が見ても、黄色い声を上げたくなるくらいだ。
上げないけど。
自分で言っといてなんだが、今の返答で納得してくれるんだ。というか、あんまり興味がなかったのかな。
ディオンが仲が悪いだけで、フィン兄はそうでもないのかも知れない。
「あの、魔塔ってどういう場所なんですか」
「一概には言えないが、魔法や魔術を研究する機関だ。魔法が使える者がほとんどだが、使えない者も居るらしい」
へえ。てっきり高レベルな魔法使いの巣窟だと思ってと。
だって、貴族でマナが多い人でも入れないって言うし。基準は何なんだろう。
「事務作業員とは別なんですか」
「私も詳しくは知らない。魔塔は、排他的というか閉鎖的な独立機関なんだ。貴族の権威も通じない」
モンフォール家のフィン兄が言うって事は、少なくとも伯爵クラスの貴族では融通が効かない、と。
マジか。すげーな。これが独立機関!……なのか?
ーーゴクリ
「王家や公爵家もですかっ」
「そこはケースバイケースだ。だが、それこそサシャ・ヴァロアは公爵家だからな。彼が居る限りは、他の公爵家も難しいだろう」
「他の貴族が遠慮するって事ですか?
でも、ヴァロア家に有利になっちゃうんじゃ」
権力バランスとかで、ドロドロしてそうなイメージが強いが、この国の貴族達は平和的なのか?
普通に考えて、ヴァロア公爵家が魔塔の後ろ盾を得てるって事になるよな。
「ルゥは、デメテルの四大公爵家を知っているか」
「え~っと?」
「覚えておいた方が良い。まあ全員、この間父上と勉強したリストに入っている。名前を聞いたら、直ぐに分かるはずだ」
なんだ、あの中に居るのか。
えー、どの公爵だろ。宰相閣下も公爵だったっけ。
「ーーーーという訳で、ヴァロア公爵家は、四大公爵家の筆頭だ」
アイツ、そんな立派な家柄のボンボンだったのか。
くそうっ。ムカつく!
「ふ~ん」
「さて。話を戻すが、サシャ・ヴァロアは確かに公爵家の人間だ。しかし、ヴァロア家と魔塔に繋がりはない。だから、他の公爵家も黙っているんだよ」
「それっておかしくないですか。
公爵の息子が魔塔で存在感を発揮してるのに、何で余所の家は黙ってるんです」
「サシャ・ヴァロアがヴァロア公爵を怨んでいるのは、有名な話なんだ」
いったい、どんな理由があるんだ。
怨んでるからってだけで周りが納得するなんて変じゃないか。
変態が父親だけじゃなく、ヴァロア家自体に協力しないって、信じてるわけだろ?
うわー、どんだけドロドロなんだよ。変態の生い立ち。
「そうなんですか」
「ああ。聞かないのか? 何故、彼がヴァロア公を怨んでいるのか」
「んー、いいです。誰もが納得しちゃう様な、胸糞悪い話って事ですよね。そういうのは、ちょっと」
「そうか」
「はい」
こういうのは、知らない方が良いんだ。
フラグが立つからな。村人Aの俺には、必要ない。
むしろ、聞いたら厄災が降りかかりそうだ。
悲しいかな、村人ってのは、あっさりぽっくり、一瞬で死ぬんだ。次はない。
主人公が強大な敵に一度敗北して、立ち上がるとかいう胸熱展開は、村人には存在しない。
「敗北=死」だ。
あー、危ない、危ない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふんふんふーん」
「わー、すっごいご機嫌っすね。第3騎士団との話し合い、上手くいったんすか。気絶した俺を放置して、室長はどっかに行きましたもんね。俺を置いて!」
「いや、それが全然」
「はあっ?! ちょ、マズイっすよ。怒られるっす」
「まあまあ、落ち着きなって~」
助手くん、仕事は出来るんだけどねぇ。
なーんで、こんなに小心者なのか。
あ゛~~流石に疲れたな。連日、騎士団長と副団長の相手したら、そりゃ疲れるわ。
「ルーカスくん、可愛かったなぁ」
「は。誰っすか、それ。失礼な事してないっすよね?!」
「してない。彼が気に入ったテオブロマをあげただけー」
「テオブロマを? 豆ごとっすか」
「まさか。ちゃんと精製したやつだよぉ」
「へー。薬師の方なんすか」
やっぱそう思うよねー。
まさか、テオブロマをそのまま口にするなんて思わない。
ただ苦いだけの薬の原材料を食べるなんて。
「ふふっ。喜んでくれてるかなぁ」
「うーわ、キモいっす」
「助手くーん。魔道具のバッテリー全部満タンにしといてー」
「全部……満…タンっ」
「そっ」
「鬼ぃっ! 人殺しぃっ!」
やだなー、人聞きの悪い。僕は出来ない事は言わないのに。助手くんのレベルなら、ちょおっと無理すれば出来るでしょ。
「明日の朝までによろしく~。
あと、この部屋綺麗にしといて」
「はいいっ?!」
「明日、お客さん来るから」
「誰っすか!」
「ルーカスくん」
「だから誰なんすか、その人!
あ、薬師か」
僕も知りたいな~。ルーカスくんが誰なのか。
モンフォール家の居候で、ディオン・モンフォールの宝物。
そしてたぶん、精霊の契約者。特別な、ね。
「早く明日になんないかなーっ。
テオブロマの温室を案内してぇ、塔の展望台に連れてって。あー、魔道具の試運転室も」
「ちょいちょいちょーい!
全っ部、機密ブースです。馬鹿なんすか。ダメですよ。一般人に見せちゃ」
「大丈夫。一般人じゃないから」
「えっ。もしかして魔塔の新入りさん?」
「ルーカスくんは、僕のお気に入り」
「頭大丈夫っすか?」
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