上 下
26 / 58
王都編

先祖返り

しおりを挟む



「ルーカス、くれぐれも失礼のない様にな」
「ルゥちゃん、ディオンから離れちゃダメよ」
「ルゥ、聞かれた事にだけ応えれば良いからな」
「《ルゥ様~、ワタシもお供します!》」



 その日の朝、俺はドナドナの気分だった。
 心配オーラ全開のモンフォール家の面々がかける言葉が、俺の気持ちをより一層重くさせる。


「努力します。たぶん。きっと。
……ユキ、俺も連れて行きたいけど、ごめんな」
「《そんなぁっ》」
「いいかディオン。ルーカスの事を頼んだぞ」
「そうよ! ルゥちゃんをちゃんと連れて帰って来るのよ?」


 頼りない俺の返事に、今度はディオンに矛先が向かった。
 ディオンも、散々聞かされた言葉をまた繰り返され、既にお疲れモードである。


「もう宜しいですか。これでは王弟殿下をお待たせしてしまいます」
「もうディオンったら、母は心配なのですよ?」 
「分かっています。ですが、本当に時間がないのでもう行きます」
「頼んだぞ、ディオン」
「はい、父上。では行って参ります」


 馬車の中から、勢揃いで見送ってくれる皆んなの姿が辛い。
 最後までついて行くと駄々をこねたユキは、フィン兄に抱き抱えられ泣いている。
 すまん、ユキ。だけど、城にユキは連れて行けないんだ。 
あと、大きなぬいぐるみみたいに抱っこされるのがツボだ。
フィン兄の腕に前足と頭を乗せ、お腹や後ろ足がダラ~ンとぶら下がっている状態で、非常に可愛い。




「ルーカス、そろそろ着くぞ」
「お、おう」


 初めて王都に来た時も見た、デメテル城。
王都はもちろん、この国で1番高い建築物だ。
 2番目は、魔塔だったかな。いや、辺境伯の砦だったかも。
今はどうでも良いんだけどね。そりゃ現実逃避もしたくなりますよ。


「何階建てなんだろ。見晴らし良いだろうな~」
「王弟殿下に気に入られれば、上階を開放してくれるかもしれないぞ」
「えっ。展望室みたいなとこ?」
「まさか。ルーカスが想像しているのは、陛下が民に顔を見せるデッキの事だろう?
そこに入れるのは、王族と一部の者だけだ」


 なんだ、違うのか。
 そもそも、気に入られるなんて以ての外だから、いいけどさ。


「アダム卿もう着いてるかな」
「さあ。それに彼が招かれている確証はない」


 元凶が居ないのは、アウトだろ。
 ディオンがちゃんと、パパさんに相談するって牽制したのに、チクリやがって。
返事聞いてから行動するだろ、普通。
 本当に生徒に勉強教えられてるのか?
常識より、自分の好奇心を優先する様な人だぞ。





「お止まり下さい」


 門番に制止され、ディオンは招待状を見せた。
おお~、やっぱり王城だな。伯爵家の紋章付きの馬車でも、顔パスは出来ないのか。


「確認致したました。
第3騎士団副団長モンフォール卿、並びにルーカス様ですね。入られたら、右側へお進み下さい。案内の者がおります」
「分かった。ご苦労」
「ハッ!」


 入城しても、まだ先があるらしい。
 馬車が通りやすい様に、舗装された道は3つに分かれている。
 右の道は何処に繋がってるんだ?
王城は正面を直進だし。


 少し進んだ先に、執事服の男性が立っていた。
その人の前で馬車を止めると、案内役の人で間違いない様だ。


「ディオン・モンフォール卿、ご挨拶申し上げます。
わたくしユリウス殿下の執事、ザードにございます。ここより先は、殿下が用意された馬車にお乗り継ぎ下さい」
「分かった。当家の馬車は帰した方が良いか?」
「その必要はございません。御者の方は別の場所でお休み頂きます」
「そうか。ではお願いしよう」




ーーーー
ーーー


 馬車を乗り換えてから10分くらい経っただろうか。
 てか、どんだけ広いんだよ。いくら馬車がゆっくりっつっても、門から10分。徒歩なら何分だ。
不便すぎる。


「着きました」
「ザード殿、ココはいったい」


 ディオンの疑問は尤もだ。
 右も左も木と草で囲まれている。建物の中じゃなくて、林の中かよ。予想外にも程がある。


「奥で殿下がお待ちです」
「奥?」


 居た。
 ザードさんが手で示した先に、長身の男性と教授が優雅にお茶を楽しんでいる。
 あんな豪華なテーブルセットを土の上に置いちゃうのか。きっとアレは屋外用なんだ。ソファーに見えるけど、ガーデンチェアとかいうヤツだ。
そうでなきゃ、不自然すぎる。
 

「ユリウス様、モンフォール卿がいらっしゃいました」
「ん、おお。やあ、モンフォール卿。
急な招待で悪かったね」
「いえ。お招き頂き光栄です。王弟殿下」
「そっちの彼が、ルーカス君かな」
「ハッ。王弟殿下にご挨拶申し上げます」


 振り返った長身の男性は、ずいぶんと儚い雰囲気を纏う人間に見えた。


「そんなに緊張しなくていいから。ほら、顔をお上げ」


 許しをもらって、いざ顔を上げると、王弟殿下の骨張った身体が目に入った。


「……ああ、やっぱり。戻って来たんだね」
「え?」
「王弟殿下?」


 泣いてる?!
 嘘だろ。俺の顔見て静かに涙流し始めちゃった。
そんなに不細工でしたか。お気に召しません? 俺の顔。


「どっどっど、どうされました!?
何か失礼な事を」


 あ、ヤベ。勝手に口開いたらダメなんだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夏休みの自由研究は監禁したクラスメイト観察

海林檎
BL
夏休み、兄貴がクラスで人気のAを自宅の離に監禁した。 それが俺の自由研究になった。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?

リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。 誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生! まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か! ──なんて思っていたのも今は昔。 40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。 このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。 その子が俺のことを「パパ」と呼んで!? ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。 頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな! これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。 その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか? そして本当に勇者の子供なのだろうか?

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

デブ専モラハラ彼氏から逃げたくて痩せたけど、体型変えれば良いってわけじゃなかった話

なだゆ
BL
デブ専(?)モラハラ美形執着攻め×元ぽっちゃり ⚠体型に対しての揶揄、少しの猟奇的表現がありますがあくまで創作上のものです。その他嫌な予感がした方は読まずにそっと閉じてもらえると助かります。 pixivに投稿したものとすこーしだけ描写変わってますが大筋に影響はありません。

処理中です...