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王都編
先祖返り
しおりを挟む「ルーカス、くれぐれも失礼のない様にな」
「ルゥちゃん、ディオンから離れちゃダメよ」
「ルゥ、聞かれた事にだけ応えれば良いからな」
「《ルゥ様~、ワタシもお供します!》」
その日の朝、俺はドナドナの気分だった。
心配オーラ全開のモンフォール家の面々がかける言葉が、俺の気持ちをより一層重くさせる。
「努力します。たぶん。きっと。
……ユキ、俺も連れて行きたいけど、ごめんな」
「《そんなぁっ》」
「いいかディオン。ルーカスの事を頼んだぞ」
「そうよ! ルゥちゃんをちゃんと連れて帰って来るのよ?」
頼りない俺の返事に、今度はディオンに矛先が向かった。
ディオンも、散々聞かされた言葉をまた繰り返され、既にお疲れモードである。
「もう宜しいですか。これでは王弟殿下をお待たせしてしまいます」
「もうディオンったら、母は心配なのですよ?」
「分かっています。ですが、本当に時間がないのでもう行きます」
「頼んだぞ、ディオン」
「はい、父上。では行って参ります」
馬車の中から、勢揃いで見送ってくれる皆んなの姿が辛い。
最後までついて行くと駄々をこねたユキは、フィン兄に抱き抱えられ泣いている。
すまん、ユキ。だけど、城にユキは連れて行けないんだ。
あと、大きなぬいぐるみみたいに抱っこされるのがツボだ。
フィン兄の腕に前足と頭を乗せ、お腹や後ろ足がダラ~ンとぶら下がっている状態で、非常に可愛い。
「ルーカス、そろそろ着くぞ」
「お、おう」
初めて王都に来た時も見た、デメテル城。
王都はもちろん、この国で1番高い建築物だ。
2番目は、魔塔だったかな。いや、辺境伯の砦だったかも。
今はどうでも良いんだけどね。そりゃ現実逃避もしたくなりますよ。
「何階建てなんだろ。見晴らし良いだろうな~」
「王弟殿下に気に入られれば、上階を開放してくれるかもしれないぞ」
「えっ。展望室みたいなとこ?」
「まさか。ルーカスが想像しているのは、陛下が民に顔を見せるデッキの事だろう?
そこに入れるのは、王族と一部の者だけだ」
なんだ、違うのか。
そもそも、気に入られるなんて以ての外だから、いいけどさ。
「アダム卿もう着いてるかな」
「さあ。それに彼が招かれている確証はない」
元凶が居ないのは、アウトだろ。
ディオンがちゃんと、パパさんに相談するって牽制したのに、チクリやがって。
返事聞いてから行動するだろ、普通。
本当に生徒に勉強教えられてるのか?
常識より、自分の好奇心を優先する様な人だぞ。
「お止まり下さい」
門番に制止され、ディオンは招待状を見せた。
おお~、やっぱり王城だな。伯爵家の紋章付きの馬車でも、顔パスは出来ないのか。
「確認致したました。
第3騎士団副団長モンフォール卿、並びにルーカス様ですね。入られたら、右側へお進み下さい。案内の者がおります」
「分かった。ご苦労」
「ハッ!」
入城しても、まだ先があるらしい。
馬車が通りやすい様に、舗装された道は3つに分かれている。
右の道は何処に繋がってるんだ?
王城は正面を直進だし。
少し進んだ先に、執事服の男性が立っていた。
その人の前で馬車を止めると、案内役の人で間違いない様だ。
「ディオン・モンフォール卿、ご挨拶申し上げます。
私ユリウス殿下の執事、ザードにございます。ここより先は、殿下が用意された馬車にお乗り継ぎ下さい」
「分かった。当家の馬車は帰した方が良いか?」
「その必要はございません。御者の方は別の場所でお休み頂きます」
「そうか。ではお願いしよう」
ーーーー
ーーー
馬車を乗り換えてから10分くらい経っただろうか。
てか、どんだけ広いんだよ。いくら馬車がゆっくりっつっても、門から10分。徒歩なら何分だ。
不便すぎる。
「着きました」
「ザード殿、ココはいったい」
ディオンの疑問は尤もだ。
右も左も木と草で囲まれている。建物の中じゃなくて、林の中かよ。予想外にも程がある。
「奥で殿下がお待ちです」
「奥?」
居た。
ザードさんが手で示した先に、長身の男性と教授が優雅にお茶を楽しんでいる。
あんな豪華なテーブルセットを土の上に置いちゃうのか。きっとアレは屋外用なんだ。ソファーに見えるけど、ガーデンチェアとかいうヤツだ。
そうでなきゃ、不自然すぎる。
「ユリウス様、モンフォール卿がいらっしゃいました」
「ん、おお。やあ、モンフォール卿。
急な招待で悪かったね」
「いえ。お招き頂き光栄です。王弟殿下」
「そっちの彼が、ルーカス君かな」
「ハッ。王弟殿下にご挨拶申し上げます」
振り返った長身の男性は、ずいぶんと儚い雰囲気を纏う人間に見えた。
「そんなに緊張しなくていいから。ほら、顔をお上げ」
許しをもらって、いざ顔を上げると、王弟殿下の骨張った身体が目に入った。
「……ああ、やっぱり。戻って来たんだね」
「え?」
「王弟殿下?」
泣いてる?!
嘘だろ。俺の顔見て静かに涙流し始めちゃった。
そんなに不細工でしたか。お気に召しません? 俺の顔。
「どっどっど、どうされました!?
何か失礼な事を」
あ、ヤベ。勝手に口開いたらダメなんだった。
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