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王都編

フィンの帰還とお土産

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◇◆◇◆◇◆◇◆


「ゔー、ねむ……重いっ」
「いて」


 どうやらディオンに抱き込まれたまま、寝てたらしい。
 前世も含めて、生まれて初めての腕枕体験はビミョーだった。
腕枕だけなら、ディオンが辛いだけだ。
だが、反対の腕でホールドされてるせいで寝苦しい。
 筋肉つきすぎなんだよ。重いっつーの。


「うるさい、放せ」
「蹴る事ないだろ。ったく」
「うっせぇ。体格差を考えろ、バカディオン」


 昨日の事を無かった様に振る舞われるのも嫌だが、だからと言って甘すぎる。
そんな愛おしそうな目で見られたら…


「身体は大丈夫か」
「あ、ぅ。うるさいっ!」


 むしろスッキリしてるのが辛い。


「嫌だったか?」
「…嫌、ではなかった……けど」
「そうか。じゃあ次は最後までしよう」


 何を仰ってるんだ。このウルトラバカは。
 爽やかな顔で言っても、騙されねーぞ。


「次はない!」
「気持ちよかっただろ」
「それは、まあ」
「なら構わないな」
「いやいや。恋人でもあるまいし」
「……恋人になって欲しいと言ったら、なってくれるのか?」


 嘘だ。冗談に決まってる。
だけど…熱を帯びた目が、嘘ではないと訴えてくる。
 嫌悪感はない。それよりも、嬉しいとさえ感じている気がする。
 俺、どうしちまったんだ?
 王都で可愛いお嫁さんを見つけるつもりなのにっ。

 これは逃げても良いんだろうか。今までの関係が変わってしまうのは、恐い。
自分が楽でいる為に、ディオンの意思を無視するのか?
 

「悪い。困らせたかったわけじゃないんだ。
今は、忘れてくれ。先に食堂に行ってる」


 ポンと頭に手を置いて、落胆した様子でディオンは出て行った。
……ガッカリさせた、よな。あんな顔をさせておいて、聞かなかった事にするのか、俺は。
 何でこんな狡い人間になっちまったんだろう。


「ふぅ~。とりあえず着替えよ」


 そういえば、やけにスッキリしてる。溜まったもんを出したから、とかじゃない。
 ドロドロになってたはずの身体も、シーツも綺麗だ。
ディオンが全部やってくれたって事だよな。
ーーやっぱり、ちゃんと考えよう。


「待てよ? 身体は拭けばいいけど、シーツはどうしたんだ。っまさか、そのまま洗濯にっ!」


 じゃあメイドさんにはバレてる?
メイドどころか、屋敷中の人が知っている可能性も……。
 俺は、どんな顔して食堂に行けばいいんだ!
 






 どんよりした気分で、出来るだけ使用人の皆さんと視線を合わさない様に歩いた。
そもそもだ。起こしに来てくれるメイドさんが来ない時点で、恐らくバレてる。
 俺に気を利かせてくれたのか。
はたまた嫌われたのか。後者だったら最悪だ。



「おはよう、ルゥ。こうやって顔を会わすのは久しぶりだな」


 俺の葛藤を知ってか知らずか、食堂に行く途中で声をかけられた。
 

「おはようございます。
お元気でしたか、フィン兄」
「ああ。魔物討伐と言っても、中級ばかりだったからな。全員無事だ」
「良かった」


 実はフィン兄とは、初日に会話したぐらいで、なかなか会えていない。
遠征や護衛の任務で、家を空けてばかりだったからだ。
 それでも偶に立ち寄って、お土産を置いて行ってくれたりした。


「ルゥはどうだ。変わりなかったか。
第3騎士団に顔を出していると聞いたが」
「はい。皆さん良くしてくれます。友人も出来ましたし」
「そうか。良かったな。
ーーして、その友人とは何処の家の者だ。ちゃんとした奴なんだろうな」


 弟って言うより、妹じゃないか。その心配の仕方は。


「大丈夫ですよ。それに騎士ですから」
「騎士だからと言って、安心するのは危険だ」
「フィン兄。心配しすぎです」
「む。まあいい。それより、後で部屋に来なさい。良いモノを見せてやる」
「分かりました。今日のメニューは何でしょうね」
「さあ、特に変わり映えはしないと思うが」


 思春期の娘を持つ父親かっ。会話のキャッチボールが進まないなぁ、もう。




「おはよう…あら、ルゥちゃん。今朝はフィンと一緒なのね」
「おはようございます、メアリーママ」
「お久しぶりです、母上。明け方に戻りました」
「そう。ご苦労様でした」


 伯爵夫人とは思えないフレンドリーさで接してもらった結果、俺はメアリーママと呼ぶ様になった。
 1ヶ月あまりだが、第ニの母が出来たみたいで嬉しい。
 ふいにディオンを見れば、ジッとこちらを見つめていた。


「どうしたルゥ。顔が赤いぞ」
「えっ、あ、いえ、何でもないですっ!」


 早く鎮まれぇ~。
 慌てて席に着くと、隣から「フッ」と、漏れた声が聞こえる。
「何ともありません」って、顔しやがって。
しかも鼻で笑われた!
 ディオンの奴、ちょっと年上だからって偉そうに。


 恥ずかしさで俯いているうちに、パパさんが起きてきた。
今日も今日とて、ラスボスオーラは健在だ。


「ディオン。今日はやけにスッキリした顔をしているな。何かあったのか」
「まあ、出すもん出しーーー」
「わーっ! 昨日っ! 昨日ストレッチしたからだよね!」


 大馬鹿者ー!! 
どこに親に性事情を話す息子がいるっ!


「なんだ、ルーカスも一緒にやったのか」
「(墓穴掘った) か、軽ーく」
「そうか、偉いな」
「あはは~」


 油断も隙もないな、ディオン・モンフォール。




ーーーー
ーーー


ーーコンコン


「ルーカスです」
「入りなさい」
「失礼します」


 何気に初めてだな。ディオン以外の人の部屋にお邪魔するのって。
 分厚い背表紙の書籍に囲まれた部屋は、寝室と言うより、勉強部屋みたいだ。


「何か珍しい物でもあったか?」
「すみません。本がいっぱいだから、気になっちゃって」
「ああ、読みたい物があれば貸そう」
「ありがとうございます」


 俺でも読める本あるかな。
やっぱり、魔法か精霊の本が良いんだけど。
 俺がキョロキョロ物色していると、不意に右脚に何かが触れた。


「ワフッ」


 わふっ?
 目線を下げると、シベリアンハスキーぐらいの大きさの犬が、鼻を擦り付けていた。


「うわっ!」
「ホワイトウルフのこどもだ」
「ウルフ?! え、コレでこどもなんですか」


 デカくね。すげー、オオカミって初めて見た。


「ハッハッハッ、ワフン!」


 犬だ。犬にしか見えない。なんて愛らしさなんだ!
 今すぐモフりたい。わしゃわしゃしたいっ。


「気に入ったか?」
「はいっ。めっちゃ可愛いですね!」


 触りたくてウズウズしていると、ホワイトウルフが「待て」のポーズで俺を見てくる。
 ぐぅっ、俺に何を求めているんだ。
オヤツか。それともオモチャか。
待ってろ。今買って来てやるからな!


「ソイツもルゥが気に入った様だ。
まだ幼いくて戦力にはならないが、多少の役には立つだろう。
餌はこちらで用意するし、庭で放し飼いでもしておけばいい」


 フィン兄が飼うのか?
ならモフりたい放題なのではっ。もう触っていいっすか!


「名前も好きにつけるといい」
「……俺がっ!?」
「何を驚いている。お前用に連れて帰ったんだから、当然だろう」


 俺用に連れて帰った…………?
えっ。まさかラブリーなこの子を、俺のペットにして良いのかっ。


「俺がもらっても良いんですか!」
「その為に選んだんだ」
「ありがとうございますっ!! フィン兄大好きっ」
「っ!? そ、そうか。但し、躾はしっかりしなさい」
「頑張ります!」
「困った事があれば、いつでも言いなさい。
用はそれだけだ。もう行っていいぞ」
「はいっ」


 おいでー、とデレデレの顔で言えば、トコトコとついて来てくれる。
おりこうさんだな、キミは。

 フィン兄、神。愛してる。




「よーし、ココがお前の部屋だぞ~」
「ワフッ」
「えらいなぁ」


 部屋に戻り、ほっぺを挟む様にわしゃわしゃすると、尻尾が左右にブンブン振れた。
 おぉ~、そうかあ。お前も撫でられるの好きかぁ。


「名前、どうしようか」
「ワフ?」
「ホワイトウルフだから……スノウとか?
安直すぎるか」
「ヘッヘッ、アォン」
「その前にオスか、メスか。ちょっと失礼ーーーーオスだな」


 オスだとスノウは女の子っぽいか。
じゃあユキ? どっちでもイケそうだし。
 うーん。驚くほど、ネーミングセンスねえな、俺。


「なあ、お前の名前だけど、ユキでいいか?」
「アォーン!」
「いいって事か?
……ユキ」
「ワフッ」
「おお。ユキっ」
「ワフッ」
「そうかあ、気に入ったかあー」
「ワッフン」


 ヤベー、可愛すぎて鼻血出そう。
 まるで俺の言葉が分かるみたいに、返事が返ってくるし、ユキは賢い子に違いない。
 お手とか教えてみようかな。


「《お手とは何ですか、マスター》」
「ん~? お手って言うのはな、こう前足を俺の手にーーーーえ゛?」


 脳がバグった。ユキが喋るはずがない。
ゾッコンになりすぎて、都合のいい幻聴が聞こえる技を身に付けたのか?


「《どうされましたか、マスター》」


 あっれぇぇ?


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