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第76話 マニアの弱点
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鏡張りのだだっ広い部屋で長テーブルを挟んでマニアと菜松が対面して座っている。その菜松の横には翼も同席し、二人のやり取りを眺めている。
マニア「はい、ではお客様がいらした時の対応をお願いします」
菜松「はい……」
菜松はまだ顔が強張っている。
どうしよう……この若い子の前で失敗して怒られたら……
翼「菜松さん、君なら出来るよ!失敗なんて誰にでもあるものさ!完璧な人間なんか一人もいやしないって!さぁ、言って、私なら出来る!さぁ」
さ……さぁって……そんな恥ずかしいこと出来ませんよ……この人いったい何を考えてるの?
翼は菜松の顔を覗き込んでウインクして見せた。
菜松「わ……………わたしなら………出来る………」
翼「もっと大きい声で自分に言い聞かせて」
菜松「………わ……わたしなら……出来る!!!」
翼「はい!良くできました!」
翼はポンッと軽く菜松の肩を叩いてニコッと笑っている。
菜松「はい……」
やがて少しずつ菜松の緊張はほぐれ、マニアの前で堂々と接客対応を成功させた。
その瞬間翼は大きな拍手をして菜松を称えた。
マニア「はい、それでは今日のところはこれぐらいにしておきましょう……」
翼「よくやったね、菜松さん!」
菜松「あ……ありがとうごぜぇますだ……」
マニアは一瞬キッと菜松を睨む。
翼「ハハハハハハハハッ!それはそれで菜松さんの個性なんだから面白いじゃん!なまってるよか!そんな面白い名前誰が付けたの?」
場の空気を凍りつかせない配慮を感じた菜松(22)は、まだ高校生の翼に密かに恋に堕ちていった。
翼「ねぇマニアさん、久々に一緒にご飯食べに行こうよ!」
マニア「え!?ですがまだお仕事中ですので……」
翼「良いじゃん良いじゃん、ねぇ菜松さん、マニアさんは俺の乳母みたいな存在なんだよ!物心付いた時からお世話になっててね、第二の母さんって感じなんだ!」
菜松「そうでいらしてましたか……」
翼「さぁ、マニアさん支度してきて!」
マニア「ですが……」
翼「親父には俺が言っておくからさ」
マニアは口では拒否しているものの、デレデレしてあきらかに嬉しそうである。
マニア「では、お坊っちゃんの言葉には逆らえませんので……」
そう言ってマニアは先に部屋を出た。
翼「菜松さん、マニアさんは菜松さんが思うほど悪い人ではないんだ。凄く厳しいかもしれないけどその先にはきっとあの人の人間味に触れることが出来るから……だからそれまで頑張ろ?」
菜松「あ……ありがとうございます……」
菜松はうつ向きながら礼を言った。
翼は菜松の手をそっと掴んで折りたたんだ一片の紙を手渡した。
菜松「あああ…あの……こここ…これは……」
翼は何も言わずにウインクして見せ、そして足早に部屋を出て行ってしまった。
菜松はそっとその紙を開こうとした瞬間、翼がドアをバッと開けたので菜松はすぐに自分の後ろに手を回した。
翼「またね!」
そう言って翼は軽く手を振り出ていった。
あ~ビックリした……
菜松の心臓が破裂しそうなほど高鳴っている。
しばらくドアの方を見て、そしてドアに近付き
“ガチャ”
と開けて廊下を見回し、そこに誰も居ないことを確認して再びドアを閉める。
震える手でそっと折りたたんだ紙を拡げてみる。
“なまつさん、後で電話して!”
そこにはおそらく翼の番号であろう数字が書いてある。
ど……どうしよう……あの人は……きっとここの社長さんの息子さんとか……おそらくその辺でしょ……私なんかがそんな人に馴れ馴れしくしちゃダメだよね?
翼君かぁ……なんて素敵な人なんだろ……
菜松はいろいろ悩みながらも結局翼に電話することは出来なかった。
~翼とマニアの会食~
翼「マニアさんは厳しいけど、本当はすごく優しい人だって俺はわかってるよ!でも、マニアさんはそういうとこ表に出さないからさぁ、他の人はみんなそういうマニアさんの優しさとか思いやりを分かってないみたいだから凄く残念だなぁ……
俺はもっとみんなにマニアさんの魅力を知って欲しいんだけどな……」
マニアは溺愛する翼に褒められ思わず顔がほころんでしまう。
~翌日~
菜松は恐る恐るマニアの待つ鏡張りの部屋のドアを開けた。
“ガチャ”
菜松「おはようございます……」
既にマニアは長テーブルの前に座っていた。
マニア「はい、おはようございます」
相変わらず表情は恐いが、昨日とは打って変わって言葉にトゲはなくなっていた。
菜松はテーブルの前まで進み深々頭を下げてから椅子に座る。
マニア「では、時間がもったいないので早速始めましょう」
菜松「はい……」
この日からマニアの菜松に対する態度がガラリと変わり、緊張感はほぐれいつしか酷いなまりも取れていった。
そんなある日、菜松はこの日のマニアのレクチャーも終わり意気揚々と廊下を歩いていると、不意に翼が備品室の中から顔を出した。
菜松「わっ!びっぐらすんだぁ⤴」
翼「ハッハッハッハッハッハッ、相変わらずなまりが出るね!」
菜松「あっ……申し訳ございません……」
翼は菜松の手を掴んで備品室の中へ引き込む。
そしていきなり壁ドンして菜松の顔を見つめる。
翼「菜松さん、あのとき後で電話してって……どうしてくれなかったの?」
菜松「あああ…あの……そんな……翼さんは……こここここの……しゃ……社長の御曹司ななななんじゃ……」
翼「だから?」
菜松「だだだだだからって……」
翼「まあいいや。あれから調子はどう?」
菜松「えっと……あの……お陰様で凄く……順調です……」
翼「そっかぁ、それは良かった」
マニア「はい、ではお客様がいらした時の対応をお願いします」
菜松「はい……」
菜松はまだ顔が強張っている。
どうしよう……この若い子の前で失敗して怒られたら……
翼「菜松さん、君なら出来るよ!失敗なんて誰にでもあるものさ!完璧な人間なんか一人もいやしないって!さぁ、言って、私なら出来る!さぁ」
さ……さぁって……そんな恥ずかしいこと出来ませんよ……この人いったい何を考えてるの?
翼は菜松の顔を覗き込んでウインクして見せた。
菜松「わ……………わたしなら………出来る………」
翼「もっと大きい声で自分に言い聞かせて」
菜松「………わ……わたしなら……出来る!!!」
翼「はい!良くできました!」
翼はポンッと軽く菜松の肩を叩いてニコッと笑っている。
菜松「はい……」
やがて少しずつ菜松の緊張はほぐれ、マニアの前で堂々と接客対応を成功させた。
その瞬間翼は大きな拍手をして菜松を称えた。
マニア「はい、それでは今日のところはこれぐらいにしておきましょう……」
翼「よくやったね、菜松さん!」
菜松「あ……ありがとうごぜぇますだ……」
マニアは一瞬キッと菜松を睨む。
翼「ハハハハハハハハッ!それはそれで菜松さんの個性なんだから面白いじゃん!なまってるよか!そんな面白い名前誰が付けたの?」
場の空気を凍りつかせない配慮を感じた菜松(22)は、まだ高校生の翼に密かに恋に堕ちていった。
翼「ねぇマニアさん、久々に一緒にご飯食べに行こうよ!」
マニア「え!?ですがまだお仕事中ですので……」
翼「良いじゃん良いじゃん、ねぇ菜松さん、マニアさんは俺の乳母みたいな存在なんだよ!物心付いた時からお世話になっててね、第二の母さんって感じなんだ!」
菜松「そうでいらしてましたか……」
翼「さぁ、マニアさん支度してきて!」
マニア「ですが……」
翼「親父には俺が言っておくからさ」
マニアは口では拒否しているものの、デレデレしてあきらかに嬉しそうである。
マニア「では、お坊っちゃんの言葉には逆らえませんので……」
そう言ってマニアは先に部屋を出た。
翼「菜松さん、マニアさんは菜松さんが思うほど悪い人ではないんだ。凄く厳しいかもしれないけどその先にはきっとあの人の人間味に触れることが出来るから……だからそれまで頑張ろ?」
菜松「あ……ありがとうございます……」
菜松はうつ向きながら礼を言った。
翼は菜松の手をそっと掴んで折りたたんだ一片の紙を手渡した。
菜松「あああ…あの……こここ…これは……」
翼は何も言わずにウインクして見せ、そして足早に部屋を出て行ってしまった。
菜松はそっとその紙を開こうとした瞬間、翼がドアをバッと開けたので菜松はすぐに自分の後ろに手を回した。
翼「またね!」
そう言って翼は軽く手を振り出ていった。
あ~ビックリした……
菜松の心臓が破裂しそうなほど高鳴っている。
しばらくドアの方を見て、そしてドアに近付き
“ガチャ”
と開けて廊下を見回し、そこに誰も居ないことを確認して再びドアを閉める。
震える手でそっと折りたたんだ紙を拡げてみる。
“なまつさん、後で電話して!”
そこにはおそらく翼の番号であろう数字が書いてある。
ど……どうしよう……あの人は……きっとここの社長さんの息子さんとか……おそらくその辺でしょ……私なんかがそんな人に馴れ馴れしくしちゃダメだよね?
翼君かぁ……なんて素敵な人なんだろ……
菜松はいろいろ悩みながらも結局翼に電話することは出来なかった。
~翼とマニアの会食~
翼「マニアさんは厳しいけど、本当はすごく優しい人だって俺はわかってるよ!でも、マニアさんはそういうとこ表に出さないからさぁ、他の人はみんなそういうマニアさんの優しさとか思いやりを分かってないみたいだから凄く残念だなぁ……
俺はもっとみんなにマニアさんの魅力を知って欲しいんだけどな……」
マニアは溺愛する翼に褒められ思わず顔がほころんでしまう。
~翌日~
菜松は恐る恐るマニアの待つ鏡張りの部屋のドアを開けた。
“ガチャ”
菜松「おはようございます……」
既にマニアは長テーブルの前に座っていた。
マニア「はい、おはようございます」
相変わらず表情は恐いが、昨日とは打って変わって言葉にトゲはなくなっていた。
菜松はテーブルの前まで進み深々頭を下げてから椅子に座る。
マニア「では、時間がもったいないので早速始めましょう」
菜松「はい……」
この日からマニアの菜松に対する態度がガラリと変わり、緊張感はほぐれいつしか酷いなまりも取れていった。
そんなある日、菜松はこの日のマニアのレクチャーも終わり意気揚々と廊下を歩いていると、不意に翼が備品室の中から顔を出した。
菜松「わっ!びっぐらすんだぁ⤴」
翼「ハッハッハッハッハッハッ、相変わらずなまりが出るね!」
菜松「あっ……申し訳ございません……」
翼は菜松の手を掴んで備品室の中へ引き込む。
そしていきなり壁ドンして菜松の顔を見つめる。
翼「菜松さん、あのとき後で電話してって……どうしてくれなかったの?」
菜松「あああ…あの……そんな……翼さんは……こここここの……しゃ……社長の御曹司ななななんじゃ……」
翼「だから?」
菜松「だだだだだからって……」
翼「まあいいや。あれから調子はどう?」
菜松「えっと……あの……お陰様で凄く……順調です……」
翼「そっかぁ、それは良かった」
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