黒崎天斗!伝説へのプロローグ

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第21話

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天斗は、倒れている安藤を哀れんだ目で見下ろしていた。

お前も…ずっと辛い目に合って来たんだな…俺なんかよりもずっと長い間孤独を背負って来たのか…お前のこと…救ってやりたかったよ…

天斗はいつかこうした孤独に苦しんでる者達を束ねて、本当の仲間との絆を教えてやりたいと想っていた。

一方、中田は臼井が横たわっている姿を見下ろし、そしてK会のメンバー全員倒れているのを確認して、この戦争の勝利の余韻に浸っていた。しかし、中田も臼井との激戦で、でこぼこの顔になり、口や鼻から血を流して、立っているのがやっとの状態だった。他のメンバー達もやはりと言うべきか、ほとんどが倒れて呻いている。

「透…生きてるか?」

中田がフラフラになりながら周りを見渡すと、透の周りには数人が倒れていて、透の方は傷一つ負っていない姿でニヤッと微笑みかけていた。

「やっぱりお前はバケモンだな…ナイフやら金属バットやら武器を持った奴ら相手に無傷かよ…誰もお前には敵わねえよ…」

中田は息を弾ませながらそう言った。中田は武器を持って喧嘩することを絶対に許さない。例え卑怯な手を遣う相手であっても素手で闘うことをポリシーにしていた。男なら素手、それは透の影響だった。


一方、この戦争の暗躍者である山縣は、まさかこの日に戦争が勃発していたとは、露程も思っていなかった。自分の中で思い描いていた青写真が完全に崩れ、自分で自分の首を締めていたことにこの後気付くことになる。

「おい、お前ら!俺が今回の件で次期総長の座に着いた暁には、俺に付いてきてくれたお前らを幹部にして、俺達の楽園を作るぞ!今やこの辺じゃS会を知らねぇ奴なんざ居ねぇ。目の上のコブのK会も潰れてくれりゃ、正に俺達の敵は居やしねえさ!今回の俺の功績で他の派閥のメンバーも、俺には頭が上がらねぇだろう!蔵田の奴も可哀想によぉ。あんな酷い目に遭わされて…お前の仇は俺が打ってやるからな!」

そう言って自分の派閥のメンバー達の前で蔵田をあわれむ姿を見せていた。
と、丁度その時、山縣のケータイに着信…それは…今正に戦争に打ち勝った中田からだった。山縣はてっきりK会に攻め込む段取りの確認でもしてきたのかと思い、思わず胸が弾む。

「はい~、中田さん!どうぞ?俺達はいつでも殺る準備は出来てますよ?」

しかし、山縣の予想に反して中田の声は重苦しい声のトーンで

「よぉ、山縣…お前今どこに居るんだよ?」

何か不穏な空気を読み取った山縣が少し声を上ずらせて

「あのぉ~…今~…街をちょっとぶらついてまして…中田さん…どうしました?」

「どの辺だよ?すぐに行くから場所教えろや!」

「どの辺?うーん…つーかこっちから行きますわ…中田さんはどこっすか?」

「そうか、じゃあ、すぐにお前らK会の本拠地来いや」

「あぁ…はい…了解…すぐに…行きます…」

山縣は中田がいつになくキレてるような言い方に胸騒ぎを覚える。K会本拠地に来いとは、作戦を急遽変更せざるを得ないような、なにか問題でも起きたのだろうかと考えていた。とりあえずメンバー達に声をかけてK会の本拠地へと全員向かう。それが山縣にとって予想だにしない修羅場が待っているとまでは、頭の中がおめでたい山縣にはまだ気づくはずも無かった。

そして数十分後に山縣達はこの戦場へと駆けつけた。
先ず山縣の目に飛び込んで来たのは、K会の連中が全員ボロボロの姿で倒れているものや、仲間を抱きかかえて起こそうとしてる者達で、ここで大きな抗争があったことはすぐに理解出来た。が、その相手であるはずの自分のチームのメンバーの姿がどこにも見当たらない。山縣にはこのおかしな状況を呑み込むには少し時間がかかった。

「山縣さん…いったいこれは…」

山縣の派閥メンバーが山縣にそう尋ねるが、当然山縣自身がその質問をしたい心境だった。そして山縣達の存在に気付いたK会のメンバー達が、山縣を恨めしそうに睨み付けている。その内の一人が山縣に苛ついた声で言った。

「おい山縣ぁ~!」

山縣は一瞬ビクッとなったが、目の前に居るのはフラフラになりながら立っているのがやっとのK会の連中で、それほどビビる相手ではないと思い直し、態度を変えて前に出る。

「何だよお前ら!そのざまは?あ?どうした?随分と派手にやられたなぁ!さっきウチの総長がここへ来いって言ってたけど、そうか…ウチの連中のゲリラ攻撃に遭ってやられたか?はっ!ウチの強さ思いしったかよ!」

と、ベラベラと調子に乗って詰めよって行くと、後ろから聞き覚えのある声が…

「随分楽しそうだなぁ!あ?山縣!」

山縣一向が突然背後からかけられた声に恐る恐る振り返った。
そこには、満身創痍の中田と、血まみれでボコボコに腫れ上がった顔をした自分の仲間達が、山縣達を睨み付けている。
おめでたい山縣はこの状況を理解出来ず、中田に向かっておどけて見せた。

「中田さん!総長!やったんすね?みずくさいっすよ!今日攻め込んで来るなら声をかけてくれればよかったのに!」

そう言って山縣は中田に笑顔で近づいて行った。そして中田の顔を見て

「中田さんも派手にやられたっすねぇ。臼井の野郎は?」

と質問した時、当の臼井が背後から山縣に声をかける。

「山縣ぁ!お前…ウチにいい話持ちかけといて、こんな形で裏切ってくれるとはよぉ…一緒に中田潰してこの辺牛耳るって話はどこ行ったんだよ?それに、蔵田って奴を病院送りにしたのはお前なんだろ?正直に言えよ!」

山縣はどっちにも良い顔して双方を裏切ってしまったツケが回ってきたのだが、しらばっくれるのは山縣の常套手段だった。

「臼井!俺はお前を油断させてウチを勝利に導く作戦を立てたことに気付けなかったんだろが!それになんだ?あ?蔵田を病院送り?はっ!ふざけんな!あれはお前達の仕業だってのはみんな知ってる事実さ!俺が仲間潰して何のメリットがあるって言うんだよ!」

「メリット?そりゃお前が次期総長になりてぇって俺んとこに泣きついて来たのが何よりの証拠だろが!実力じゃあ到底お前ごとき次期総長なんざ無理だろうからよ!」

山縣はこの一言にプライドがズタズタに引き裂かれ、キレて臼井に突進していった。その時

「やめろ!」

中田が割って入った。山縣はピタッと止まって中田の方へ振り返る。

「山縣…お前には失望したぜ…たかだか総長の座を狙う為に仲間を傷付けて、チームを裏切り、ここで猿芝居か…お前のような奴にこのチームを任せるなんて誰が考えるよ?あ?お前はクズの中のクズだよ…蔵田の責任は重いぞ!覚悟しとけ!」

「待ってくれよ!何だよ?俺が本当に蔵田殺ったってのかよ?じゃあその証拠はどこにあんだよ?」

山縣は開き直って猿芝居を続ける。
その時、透のスマホに薫から電話が鳴った。

「もしもし、兄ちゃん?蔵田さんのことで色々調べてたんどけど、あの日K会が蔵田さんと喧嘩したあとに、別の人達が蔵田さんを拉致したところを見た人が居るの!」

「薫、それはまさか山縣のことか?」

「ううん、チームの人じゃ無かったって」

それをそのまま中田に伝えた。

「ほら見ろ!中田さん!俺は関係ねぇよ!蔵田の件は俺は無実だ!」

山縣も必死に弁解している。中田も薫の情報収集力は認めているため、それを疑うことは出来ない。
ではいったい蔵田を拉致した人物は誰なのか!中田の心臓が高鳴る。

「薫!それはいったい誰だよ!」

中田は透のスマホに向かって急かすように言った。

「Nってチームのやつらしいって…私もそんなに知らないんだけど…」

「N?聞いたことないなぁ…」

中田はそんなチームの名は聞いたことが無かった。
しかし、それを聞いた臼井が

「Nっていや、最近ウチを抜けて新たにチーム作った所だ。しかし、何で蔵田なんかをそんな山奥に拉致して…俺達に報復の目を向けさせる為か?どうにも腑に落ちないぜ…」

すかさず山縣が

「とにかく俺は蔵田の件は関係ないっすよ!俺だって蔵田をあんな目に遇わせた奴らは殺してやりたいぐらいだ!けど、今はお互い怪我してるし、Nのことは俺が当たってみるから!中田さんはとりあえず一旦休んだ方がいいぜ!」

中田はどうにも山縣の様子がおかしいと勘ぐっている。中田と臼井の両方にいい顔してどちらも裏切ったかと思えば、今度は積極的にNに当たってみるとか…どうしても山縣の真意が掴めない。
そして臼井が山縣に

「おう!お前に任せるとまた話がややこしくなるからお前は黙っとけよ!俺らに濡れ衣着せようとした魂胆も知りたいし、そもそもお前は調子に乗りすぎなんだよ!なぁ中田?俺は山縣を許せねぇ!俺はこいつら潰さねぇと気が収まらないが、それでもお前はこんなクズかばうか?」

臼井は中田の出方を窺(うかが)っている。中田は山縣を睨み付けて

「山縣!これも自業自得だよな?俺達を裏切ろうとしたお前の罪はみんな許す気はねぇみたいだし、俺もお前のやったことは罪が重いと思う。悪いがお前をかばう義理はねぇよ!」

他の連中も同じ想いだと言わんばかりに山縣達を睨み付ける。この殺伐とした空気をすり抜けようと山縣が

「ちょっ…ちょっと待ってくれよ!ほんとに蔵田の仇取ってチームに貢献して信頼取り戻すから!少し時間くれよ!な?」

この修羅場を逃れようと山縣が必死に中田に訴える。
中田は山縣の必死な足掻きにしばらく思案している。そして、

「わかった…今回一度だけチャンスをやるよ!もし本当にお前がNを潰して落とし前着けてきたら信用してやるよ。これでまた俺達を出し抜こうとしたら、今度はお前の首は無いものと思え!」

山縣はとりあえずこの修羅場を乗りきれたことで安堵している。

「中田さん!任せてくれよ!俺達が必ず奴等の首を取ってくるからよ!」

そう言って山縣は逃げるようにバイクに跨がり去っていった。その姿を見て双子のバカ兄弟の林田昌嗣が中田に

「中田さん!良いんすか?アイツあのままズラかるかもしんねぇぞ!」

「昌嗣、俺はとりあえずアイツを泳がしてみようと思ってんだよ!」

「あ?泳がす?あっ、なるほど!確かにそれは良い考えだぜ!山縣はカナヅチだからなぁ!」

昌嗣がそう言うと、孝嗣が

「そうそう!この間プールに突き落としてやったらよぉ…頼む!助けてくれ!俺は水に入るとパニック起こすんだ!とか言ってよぉ!あれは笑ったって!」

そのやり取りを聞いていた天斗が

「林田さん…泳がすってのは…意味違うんすよ…あのまま行かせて山縣さんが不審な行動に出ないか様子を見るってことで…」

中田も呆れた様子で

「お前らのバカさ加減にはほんと呆れるわ…もう少しサスペンスドラマとか見て勉強しろよな…」

この場に居合わせた全員が肩を落としている。
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