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この世界は『 』

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「……ベール、返して下さい。それが無いと落ち着かないので」

「女装までして、頑張るねぇ。こうやって接触してきたってことは、君が黒髪と肉盾君を逃したんでしょ。バレスのパートナーがそんなことして良いのかなぁ?」


顎を強く掴まれ、全身が粟立つのを覚えた。


「黒髪……イアンさんとケンは戦える状態にありません。勇者の貴方になら分かってたんじゃありませんか?あと、バレスさんとはそういう関係じゃないですから」

「ありゃ、もしかしてバレスの片想いってヤツ?!腹捩れるッ!」

「人を煽るのが得意なんですね。そうやって振る舞って、何を得ようとされてるんですか?」

「……別に?俺は自分に正直なだけ」

(本当に、ただそれだけなのか?)


まさか素直に答える訳も無いと思うが、臆せず私利を求める勇者だからこそ、行動原理は至ってシンプルなのかもしれない。

勇者は、酷く退屈そうに肩を竦めると、また席に座り込んだ。


「ツレ君さぁ、転移者なら分かるでしょ。ここがRPGの世界だってことも、この世界自体が娯楽だってことも」


ツレ君……文脈的に俺のことだろう。
バレスさんので、ツレ君かな。


「娯楽?」

「ツレ君が日本を知ってるんなら、どういう娯楽が流行りだったかも知ってるでしょ」

(……俺達は、日本で作られたゲームの世界にいるってことか)

「そんな世界に生きてるんだし、自分の思い通りにすりゃいいじゃん」


全く理解が出来なかった傍若無人な言動の理由も、何となく分かってきた。
ゲームだから、娯楽だから。
例えこの世界がどうなろうと関係がないと割り切ってるんだ。


「貴方も、転移者なんですか?召喚には俺達2人だけが巻き込まれたと思ってました」

「転移者は、王家が初めて成功させた、件の2人しか存在しないよ。だけど俺は日本を知ってる……この意味、分かる?」

(転移者じゃないけど、日本を知ってる?確かにこの人は、髪や目の色、戦闘の強さを取ってもこの世界の住人で……あ)


この世界がRPGだと知っていて、かつ前の世界の知識を持っている住人といえば。


「もしかして……転生?」

「おぉ!肉盾君よりも賢いね、君。そう、俺は転生者でした~!元々はプロゲーマー」


にんまり、とあの笑みを浮かべると、俺に見せ付けるように指先に灯りを灯した。


「ほらこの通り、俺は魔道具なしで魔法も使える。この世界に生を受けた正当な勇者ってわけ!」

だからさ、と言葉を区切る。

「2度目の生を特典付きで受けた俺は、この娯楽の世界で好き勝手する権利があるんだよねぇ。ただの居候と違って」


居候、それは俺達がこの世界とは相容れない存在だと、そう嘲る言葉だった。


「特典って……もしかして、その異様な強さの事ですか」

「そ。俺ね、前世でこのゲームの存在を知ってて、全クリしてるワケ。こっちで生まれた時からチートっぽいスキルが使えるんだよねぇ」

(まさかとは思ったけど、イアンさんが捕まった時の移動速度の異常さも、全部スキルって事か)

「例えば~ワープでしょ、飛行術でしょ、アイテムボックス、あとちょっとした交感スキル……まぁ普通にゲームの攻略法は頭に入ってるし、それもか」

「うわぁ、俺なんて魔法すら使えないのに」


俺が愚痴を溢すと、勇者は愉快で堪らないと笑い声をあげる。


「んじゃ、次の質問は俺の番。ツレ君はこのの名前、知ってる?」

「世界の名前?」

「ゲームタイトルだよ、推理して。見事正解した方には豪華景品がありまぁ~す!」


パチパチ!と1人で拍手する姿に、どこまでも虚仮にされている感覚を覚えながら、自然と答えを考え始める。

とはいえ、社会人になってからは休日は何もする気が起きず、ゲームに割く時間なんて全く取れていなかった。
最近発売されたタイトルに至っては、もはや知識はゼロと言ってもいい。


(RPG、城、魔王と勇者……すごく王道な要素ばっかりだ。俺たちの存在はゲームに含まれていないとして、メインは魔王のいる城と勇者かも)


「『勇者と魔王の城』とか」

「んなわけねぇだろバーカ」

「なっ……!」

「正解は『勇者を誘う魔族の根城~海運国オスティア~』でした!残念!」

「分かるわけないだろそんなの!バーカ!……あ」

(やっ、やっちゃった……)


紙同然の煽り耐性に我慢の限界が来て、とうとう語彙力のない罵倒を返してしまった。

突然の大声に驚いた勇者は、目を丸くしてこちらを凝視する。そして俺も自分の大声に驚いて見つめ返すという、不思議な時間が流れる。

俺は内心、冷や汗が止まらない状態だった。
傍若無人な勇者の虫の居所が悪ければ、腕の1本や2本折られるかもしれない。
そんな心配とは裏腹に、勇者の表情は笑みを浮かべたままだった。


「あは!意外と度胸あるねぇ~弱っちぃ癖に。弄るの面白いし、俺に鞍替えしなよ」

「冗談でも嫌です」

「超嫌がるじゃ~ん!ま、正解じゃないけど、面白かったから参加賞あげようかなぁ……って何も考えてなかった。何が良い?」

(お、怒ってなさそう?というか、むしろ嬉しそうだ)


俺は勇者の反応を見て、強気な態度を貫く事に決めた。
ハッキリと意見した方が、退屈や、嫌い……そういった負の感情が、勇者の表情から霧散するようだった。


(というか、やっぱり豪華景品も口から出まかせか)


でもあの口振りだと、何かしらは褒美を与えようとしているらしい。


「じゃあ、勇者パーティーを正式に組んで、魔王を討伐してきて下さい」

「えぇ?強欲~!ちょっとしたクイズの参加賞にしては欲深すぎるんじゃない?」


勇者は、この回答が痛く気に入ったらしい。腹を抱えてゲラゲラと笑い始めた。


「それ以外に欲しいものはないです」

「やっぱり面白いねぇ、ツレ君!知らないようだから教えてあげるけど、そもそもこのゲームに魔王って存在は居ないよ」

「……へ?」

(いや、噂には聞いていたけど……本当なのか?)

「この情報が参加賞ね」


勇者は、目の前に並べられた皿の中から、いくつものサイコロステーキが盛られた皿を選んで目の前に置いた。


「国が目の敵にしてる魔王なんて存在しなくて、あるのは魔族の集合体だけ。ちょっと頭が使える魔族が複数生まれただけの世界って設定」


勇者は皿に乗った肉片を、ナイフでぶつりと刺し、意志があるかのように動かしてみせる。
肉が、踊るように宙を舞う。


「このゲームのメインストーリーは、勇者である主人公の俺が、魔族を配下にして魔王になる事で完結するの」

「は、勇者が魔王になるゲーム?!じゃあ何のためにイアンさん達は……」

「知らね。ツレ君と肉盾君とは違って、アイツらはただの過去。つまり舞台装置でしょ」


勇者は事もなげに、パクリ!と弄んだ肉片を口に含んで咀嚼し嚥下する。

その悪辣な言動が引き金となり、猛烈な怒りの感情が押し寄せた。


「……そうやって、自分は高みの見物ですか」

「あれぇ、怒った?俺は本当の事しか言ってないよ」

「俺は違うみたいな顔をしてますけど……アンタだって、ここに生まれたからには、もうこの世界の住人ですよ。分かってますか」

「……あは、痛いとこ突くねぇ」


舌をペロリと出して唇を舐めとり、笑いながら泣き真似を始めた。


「前世での俺はクソつまらない原因で死んで、運良く生まれ直したと思ったら結末が見えてる世界だった……な~んて、可哀想じゃない?」

「いえ、全く」

「……ツレ君って、意外と共感性低いタイプ?」

「アンタにだけ、同情しないと先程決めたので」

「それは残念。でも、考えてもみなよ。さっきも言った通り、俺が魔族を統べたらゲームクリア。この物語が完結するんだよ」

(ゲームクリア……か)


考えもしなかったけど、この世界がRPGだとして、ストーリーをクリアしてしまったら……もしかして。


「分かった?完結するって事は、この世界が消滅するかもって事だよ」

「そ、れは……」

「だから魔族の城も無視してんの。俺だってもっと楽しみたいんだよ、2度目の人生ってヤツ」

「……」


分かったらさっさと消えてよ、そう言って手を払う仕草で俺を追い立てる。

……魔族を打ち負かすことでストーリーが完結する、か。


(今の会話でかなり理解度が上がったと思う。この世界の仕組みも、勇者の心情も)


勇者の言うストーリークリア後の世界がどうなるかは分からない。お互いにどこまでも憶測なんだ。
それなら、少しでも可能性のある道を探したい。


(イアンさんも、俺達転移者も、この世界の人たちも……皆が思い思いに過ごせる国を夢見たっていいじゃん)


おもむろに手で両頬をぶっ叩く。
バチン!と小気味良い音が鳴り、勇者が目を瞬かせてこちらに注目した。


「よし!決めた!」

「え、何さ。怖いんだけどぉ」

「アンタに言われたくない……なあ、つまりは勇者が魔族を統べなければ良いってこと?」


基本年上には敬語を使おうと意識してたけど、勇者相手ではこれまでの行いが災いして強い言葉で対応してしまう。

勇者の方も俺の態度が豹変したのを感じ取ったのか、ようやく食器から手を離した。


「そう。だからこうやって放置してんじゃん」

「なら、共存すれば良い。頭が使える魔族ってヤツと、人間アンタが対等に」

「えっ、理解不能~ッ!」

「アンタは長くこの世界を楽しみたい、俺は魔王討伐のクエストを止めさせたい。それなら、残る策は魔族との共存だ」


俺の言わんとしている事が伝わったのか、勇者はこちらを見据えたまま、その場から動かない。


「じゃあ現勇者として生きて、ずっとバレスさんに『勇者たるや』って小言を言われ続ける?……アンタ割と、ここでの生活も結構気に入ってるように見えるよ」

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