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仕掛けた網

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深い闇に音が吸い込まれていくような夜。

俺の衣服に包まったユウが、スピスピと可愛らしく寝息を立てている様子を確認すると、そっと寝室を離れた。


「よりによって今、イアンが捕えられたか…」


収穫祭に向けて収穫や各種出店の調整事に追われ慌ただしく過ごしていたが、こうなってしまえば加速度的にやる事が増える。
いつかはこうなると分かってはいたが、この時期に重なるとは。


「王宮からの呼び出しも、この件で間違いないか……はぁ」


ふぅ、と漏れ出た不満を隠す事なく吐き出すと、王宮へと足を向けた。

この小さな村の村長という立場以外に、とある厄介な肩書きを持つ人間として、有事には王宮からの招集がかかることになっていた。

とはいえ、この真夜中に飛んできた伝令用の魔法道具を、睡魔と多忙を理由に打ち落とさなかったことは褒めてもらいたい。


「まあ、情報収集も兼ねて行ってくるか」


……オスティア国には外交的な問題がある。

陸が広く続くこの世界、近隣諸国には山岳が多く、平野の数も少ない。

海に面した国はあるにはあるが、魔族の巣窟になっていたり、変動の激しい気候によって潮位が安定しないため、そのどれもが上手く機能していなかった。

オスティア国は、その中でも珍しく広範囲に渡り海に面し、気候も穏やかで幾つもの港が街として栄える結果となった。

珍しくも海運で栄えた国は、その経済的な優位性が仇となり、一度戦争が起きればその土地と商圏をせしめようと、様々な理由をつけてこの国に因縁を付けに来る。

オスティア国は諸外国から自身を守るために、強力な戦力を有する必要があった。

そんな折、今から15年程前にオスティア国と他国との境界線上に生まれたのが、好戦的な魔族の軍勢の<支配域>だった。

オスティア国は瞬間的な対応が遅れ、一区画をその軍勢に明け渡した。
支配域と呼んでいるのも、オスティア国側の砦である辺境の城を乗っ取られ、そのエリア一帯が魔物によって溢れてしまったためだ。

その城とエリアを纏めているのが魔王という存在ではないか、諸国ではそういった話で落ち着いた。


(まあ実際には、魔王の実態は掴めてないんだけどな…)


それからと言うもの、収穫祭の時期に合わせて、緊急クエストという形式で幾人もの実力者が城を探りに入った。

当初は国家存亡の危機と捉えて騎士団が討伐隊として編成されたが、最近ではその編成も小隊に変わり、勇者と呼ばれる人物を中心に討伐戦が行われている。

そうした歴史を重ねながら、実のところ、今までに魔王に辿り着いた者はいない。

国の沽券に関わるためにこの事実は国民には知らされていないが、成果の上げられない現状に、国としても痺れを切らしている状況だ。


(国民には強大な魔王を討伐する、という建前で毎年勇者を送り出している。今となってはこの事実すら国家機密だ)


フィラへの道のりを早足で進む中、先日イアンに聞いた話が頭を過ぎる。


(イアンが半魔になる原因、以前聞いた話だと魔術によるトラップのようなものだった……脳となる魔物がいると考えられるが、憶測の域を出ないな)


あのイアンが震えながら口にした内容は、脳のない魔族が考えたとは思いにくい、苛烈な罠だった。

城に攻め入った途端、勇者パーティーが消し炭になるような術が仕込まれていたらしく、奇跡的に生還したイアンもその体に多くの魔術を取り込んだ。

どんな仕組みで半魔になるのかは不明だが、イアンの気配は普通のものではなかった。


「王宮はあの存在をどうする腹積りか、しっかりと確認させてもらうか」


前方に、見慣れた城壁が見えてきていた。

まだまだ夜は深く、門番として立っている騎士団も耳をそば立てて周囲を警戒している。

そのせいもあって少し離れた位置からでも俺の足音を聞きつけたのか、素早くこちらに体を向けると驚きの表情を浮かべた。


「リディア様!お早いご到着でしたね」

「この忙しい時期だ。そもそも寝ていなかったからな……さっさと門を開けてくれ」


伝令に使われた魔法道具を提示すると、門番は軽く内容を確認し、門を開け放った。


「お気をつけて」

「あぁ」


目指すは王の使用する執務室。

絢爛な内装をなんの感情もなく見遣り、迷いなく進んでいく。

王宮内では一部の人間以外は既に寝ているのか、多くの部屋が静まり返っていた。
足に馴染む絨毯を踏みつけ、階段を上がっていくと、薄暗い中に一つだけ明かりが漏れている部屋が目に入る。

軽く声を掛けて入室すると、そこにはユウが一緒であれば気絶しそうな面々が揃っていた。

国王、第一王子、騎士団長と副団長…その視線を一身に受け、居心地の悪さに吐き気を催した。


「リディア、突然呼び出してすまなかったな」


労わる声が耳に届き視線を向けると、椅子に腰掛けたオスティア国王が何かの書類を手にこちらを見据えていた。

その表情にはいつもの溌剌とした雰囲気がない。


「陛下、国に献身できるのは誇りです。何時でもお呼び立て下さい」

「随分他人行儀だな」


鋭く挟まれた声の主は、その声色を体現したかのように鋭利な目付きでこちらを見ていた。
この国の第一王子である彼は、賢くはあるが完璧主義的な性格で、高慢だ。


「……フン」


返答次第で一触即発の雰囲気になりそうな予感がして無言を貫いていると、彼は鼻を鳴らして外を向いてしまった。


「リディア、この度の招集は以前より通達していた異世界転移者の件だ」

「……進展があったのですか?」


何も知らない体で先を促すと、国王は重い動きで肯定の意を示し、口を開いた。


「一人はこの王宮内に引き続き引き留めているが、ちょうど昨日もう一人を捕らえたのだ」

「それは吉報ですね。今度は勇者然とした者でしたか」


表面上では繕った会話を続けながら、俺の頭の中は疑問で埋め尽くされていた。


(イアンはまだ転移者として扱われているのか……正体が明かされていないと言うことか)


ユウの話では、勇者はイアンの体に魔のモノが混ざっていることを確信していた。

それならば、何故国王にはそれを伝えていない?
勇者の行動の真意が掴めず、戸惑う。


「戦闘に関しては問題ないだろう。伝承の金の髪を有しているわけではないが、黒という異質さが転移者の証ではないかと考えている。強さに関してはバレスの見解も得ている」

「信用に値する者かは見定められておりませんが、殊強さにおいては問題ないかと」

「……そうですか」


どこか釈然としない受け答えで、国王の中では明確にイアンが転移者だと位置付けられていないのが窺える。

だが、オスティア国のことを考えると、イアンを勇者パーティーに組み込んで、早くこの状況に蹴りをつけたいのだろう。

それが如何に怪しげな存在でも縋りたいという、国の窮状を物語っていた。


「陛下、その者との面会は出来ますか。この目でも確かめておきたい」

「へぇ、一人目の転移者には興味も示さなかったのに、どういう風の吹き回し?」

「……陛下、面会の許可を」


飛び交う厭味を無視して陛下を見遣ると、どこか決まりが悪そうな顔をしていた。


「ああ、問題ない……だが、確保した勇者によると相当な抵抗にあったそうでな。今は地下牢に繋いでいる」


国王の口から告げられた言葉は、俺を衝撃の渦に呑み込んだ。


(国として、あくまでこれから助力願おうっていう転移者に対して、地下牢へ投獄したと……?)


「ッ、陛下!お言葉ですが、それは道理に反した扱いなのでは」

「そうは思うが、何せ気配が異質でな……あれでは、もはや魔物と言われても納得してしまう」

(やはり腐っても国王か。イアンの正体に勘づき始めている)


本当であれば直ぐにでも解放に動きたいが、それには彼が過去に勇者であったこと、自身が管理する村の住人であったことを明かさなければならない。

それに、それが判明したところで半魔となったイアンに前の様な暮らしが送れる確証はない。

……自身がイアンを匿っていたことを公にせず追求できることは、ここまでのようだ。


「陛下、その者は勇者パーティーに組み込まれるのでしょうか」

「そうだ。今すぐにでも出したいところではあるが、運よく収穫祭が目前に迫っている。それを節目として送り出そう……バレス、首尾はどうだ」

「緊急クエストの手配は進めております。今回も勇者を指名する手筈です」


そこまで話を聞き届け、短く礼をすると、地下牢へ向かうために踵を返した。


「待てリディア、今度こそ討伐を成功させなければならない。だからこそ手は尽くしたい……この城に戻って来てくれないだろうか」

「……陛下、私は既に排斥された人間です。どうしても戻れと言うならば、こちらにも条件がありますよ」


俺は眉間に寄る皺をそのままに、国王を振り返った。


「夢物語のような異世界転移者の伝説に頼るのをやめて、今ある資源を有効に使ってください。あの勇者の根性を叩き直せば、まだ勝機はあります」


反応を確かめる間も無く部屋を後にする。


(まあ、ユウの希望を叶える一歩は踏み出せたかな)


よくあの状況で啖呵切れたな、と自身の言動を振り返る。

きっとユウの事がなければ、今までと同じように、この国の行く末を嘆いても行動には移さなかったかもしれない。


「俺も、随分と絆されてるな」


地下牢に続く扉を開くと、その陰鬱な空気が身を掠めた。

……ここには、昔から良い思い出がない。

思わず引き返しそうになる自分を抑え込み、階段を降りきると、そこに待っていたのは意外な人物だった。


「あ、第二王子サマじゃん」

「……その呼び方はやめろ」

「ひえー、おっかなーい!」


俺の睨みを受けても全く動じず、ヒラヒラと手を揺らめかせて戯けると、勇者は逃げるように階段を登っていく。


「待て、お前は一体何がしたいんだ」

「何って?別になぁんにも」


「じゃあねぇ、?」と機嫌良さげに手を振ると、瞬く間にその姿は掻き消えた。


(何時も思うが、あの勇者には特別な力でもあるのか?あの逃げ足の速さは常人ではあり得ない)


冷たく湿った牢に繋がれ、浅い息を繰り返すイアンを見て、早々に手を打った方がいいと再認識した俺は足早に城を後にした。

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