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先手必勝?

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「え?何か手段があるんですか?」

「俺が王宮に出向いて話をつけてくる」


俺はリドさんがなんてことないように続けた言葉に、耳を疑った。
王宮に行って話をつけてくる、だって?


「いや、リドさん、いくらなんでもそれは難しいんじゃ……」

「あぁ、確かに不確定要素もあるな。勇者が捜索に行った黒髪の件。もしこの黒髪がユウ以外の転移者で何かしらの力があるやつなら伝承の正当性が証明されて根底が覆る」


むしろそれなら話は早いんだがな。とニカッと笑うリドさんは、俺の言葉の意図が分かっていないようだ。
俺は、そもそも直訴が難しいんじゃないかって話をしたかったんだけどな……。


「そういえば魔王はどうするんだ?あまり面識はないが、勇者の性格の悪さは相当なものだって聞いてるぞ」


リドさんがあまりにも普通に次の話題に移るから、突っ込むタイミングを見失ってしまう。


「……俺、前に酒場で話を聞いていて、解決策がありそうだと思ったんです。
バレスさんには割と普通に対応していたので、対等だと思った人の話は聞いてくれるんじゃないかなって」


それに、前々から思っていたけど、魔王自身がそんなに脅威ではない気がする。
国王様の考えを変えたい、それは討伐じゃなくて和平の道もあるんじゃないかって、そう思ったからこの作戦にしたんだ。

そうしたら、全面戦争にならずに済むし、俺のスローライフが早めに実現されるし!と一人で意気込む。


「ふーん、そんなもんか」

「なので、バレスさんに説得してもらおうと思うんです」


リドさんは俺の提案に、飲んでいた薬草茶を噴き出し、ついでに気管に入ったようで、しきりに噎せていた。


(俺、またリドさんを驚かせてしまったらしい)


少し経ってマシになったのか、リドさんが俺に困ったように微笑みかけてくる。


「ゲホッ!…前から思ってはいたが、ユウは何かと大胆な行動を取ろうとするな」


机を挟んで向かい合わせになっていたのだが、俺の隣に回り込んで腕を掴むと、俺と至近距離で目を合わせる。

突如としてグッと近づいてきた顔は、上に立つ者の圧を感じさせ、見つめられると後退りしてしまいそうな迫力があった。


「前にも言ったが、本当は薬草屋には他の奴を向かわせたいくらいには心配してるんだ……あまり俺を困らせないでくれ」


そう言いながら、俺の右手を持ち上げ、手首にブレスレットのようなものを通した。
突然の行動に驚いて思わずブレスレットをまじまじと見ると、リドさんの髪と同じ茶色に近いオレンジの石が嵌め込まれており、全体的に彫りが入った精巧な作りであることが分かる。


「え、すごい綺麗……じゃなくて、どうしたんですかコレ!」

「ちょっとした魔除けだ。気にするな……騎士団長と接触するのはいいが、必要以上に距離を詰めるなよ?」

(魔除けかぁ、力のない俺にはこれ以上ない贈り物だなぁ)


未だ何の役にも立ってないのにまた贈り物を頂いてしまったと、ちょっとした罪悪感を感じつつも、リドさんの気遣いを実感して頬が緩むのが止まらない。

だって、頬を少し赤くしてまたそっぽを向いてしまった。
話の流れでプレゼントしたはいいが、内心照れているんだろう。


「もちろん転移者だってバレたくないので気を付けますが、改まってどうしたんですか?」

「一緒に行動する機会が多いみたいだからな……先手を打っただけだ」


リドさんは分かるようで分かりにくい呟きを残して、溢した薬草茶の処理に向かった。

俺は貰ったブレスレットを灯りに翳して光の煌めきを観察してみたりしていたが、その屈折した光を見て、ギルドでポーションを買ったことを思い出した。


(すっかり忘れてたけど、自分の部屋の棚に仕舞いこんでるんだった!)


明日はカインさんの急な都合で薬草屋が休みになるらしいし、明日は前々からやりたかったポーションの観察をしてみよう。

俺が目覚めたあの草原あたりなら、人も来ないだろうし、あの時は魔物に会うこともなかったから恐らく一人でも行ける範囲だろう。

ポーションを物珍しそうに観察する姿なんて、絶対に誰にも見つかりたくない。


(あ、そうだ。ついでに、アンナさんのところにも顔を出しておこう)


数日も経っていないのに急に懐かしく感じてしまった顔が思い出される。
リドさんの村に住み始めたこととか、色々話したいことが積もりに積もっている。


(そういえば、最初に黒髪のことを言ってくれなかったのは抗議しなきゃ)


あの優しいだけじゃない一癖ある笑顔を見れるかと思うと、明日を待ち遠しく思う気持ちが募っていった。

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