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他国の黒
しおりを挟む「へ、他国に黒髪の人間?……すんません。分からないっす」
「だよなぁ~、そんな気はしてた」
俺は大げさというほどの息を吐き出し、心を落ち着けた。
え、ケンがなんでここにいるかって?
「それにしても奇遇っすね。また逃げ出した先でバッタリ会うなんて!も、もしかして、ユウさんと俺って運命的な……」
「会うというより、勢い余ってぶつかったっていうほうが正しいからね」
ゴニョゴニョと喋るケンを遮って訂正する。
そう、ケンはまた出勤途中の俺に後ろから突進してきたのだ。
「実は俺、あのあと色々考えて、定期的に城を抜け出して騎士団の注意を引きつける事にしたんです」
「え、また?!」
「へへ、それで今日もここを通りかかったところでした!今のところ、これぐらいしか出来ることがなくって」
照れ臭そうに笑うケンに毒気を抜かれる。
「それに、こうやってユウさんとお話できるし」
そう言いながら、チラリと俺の機嫌を伺う姿は、年の離れた弟が出来たようだ。
「そっか、ありがとう……でも、やりすぎると本当に怒られるかもしれないから、程々にね」
「はい!週3回くらいにしておきます!」
「いやそれでも多いと思う」
褒めて褒めて、と尻尾を振っているワンコ…ケンは、俺の話の続きを待っているようだった。
「俺もさ、ケンと別れた後に考えたんだ。やっぱりケンばかりに大変な思いをさせられないなって。もし王宮での立場が危うくなったら、ここの隣の村においで。俺なりにケンを匿うための準備はしておくよ」
「村…っすか」
「RPGでいう”さいしょのむら”って感じ長閑なところなんだけど、すごくいいところでさ。
俺はそこで匿ってもらってる。2人も受け入れてくれるかは分からないけど、きっと力になってくれるよ」
まあ、定員オーバーだったら、俺が出ていけばいいだけの話だし。
人が寄り付かない地域とかがあれば、今のうちから畑を用意しておくのも悪くない策だよな。
俺の提案を聞いたケンは、見えるはずもない尻尾を大げさに振り出した。
「え、俺ユウさんと暮らせるんですか?!」
「いや、そうと決まったわけでは……」
「なんか俄然やる気出てきたっす!!任せて下さい。異世界者は役立たずということを証明して、後腐れなく城を出てきますから!!」
「ものすごく不安になる宣言なんだけど、本当に大丈夫?」
あまりに自信ありげだから納得しそうになったけど、単純に王宮に迷惑かけます!と宣言しているようなものだ。
ケンは何かを思い出したように、あ、という声をあげると、唐突に別の話題を始めた。
「そういえばあのV系っぽい勇者が、遠出するって言ってました。タイミング的に、きっとその黒髪のことっすね。
遠征先は隣国で、行って帰ってくるまで5日はかかるって言ってたっす」
「あ、あの黄色い髪の人か。異世界者に対してあんまり興味抱いてなさそうだったけど、クエストはきちんとやるんだな」
「そうなんすよ。俺見た瞬間『盾にはなるかも』とか言いやがったんすよ。
酷いどころの話じゃないっす……人権まるっと無視ですよ」
「はは……」
バレスさんにはきちんと対応していた方、ってことか。
確かに、あまり友達にはなりたくないタイプだな。
「でもあの人、マジで強いみたいで…誰かサポートメンバーがいれば魔王も倒せるかもって噂らしいんす」
「へぇ、そんな強いのか。でも、魔王って誰にも倒されたことないんだろ?」
「そうなんっすよ~!そもそも、城に居る魔族が強いらしいっす。魔王本体は目立った攻撃もして来ないし、全然辿り着けないって聞きましたよ」
そういえば、アンナさんにもそんな話を聞いたな。
魔王については噂は様々飛び交っているようだけど、クエストから帰還する勇者が少ないから、結果的に魔王の素性は全くと言って良いほど情報がないんだろう。
「なんでだろうな……魔王自身が国を攻撃してこないのも、国王が魔王に執着するのも」
「なんでっすかねぇ~」
そんな疑問を口にしながら路地裏でゆったりとした時間を過ごしていたが、急に通勤途中だったことを思い出す。
「そうだ、店に行かなきゃ!それじゃケン、また隣国の奴の情報を掴んだら俺に教えてくれ。朝はここを通りかかるから!」
ケンと運良く話せたことではっきりしたことがある。
こちら側の人間が流した偽りの情報などではなく、本当に黒髪の奴が隣国で目撃されたってことだ。
(これは帰宅後に情報の整理をしないとまずいな…)
様々な要因が増えすぎた。
昨日までは身の回りの事で精一杯だったけど、ここで一度状況整理をしておこう。
俺はそう心に決め、薬草屋のドアを潜った。
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