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遭遇!
しおりを挟む…と、意気込んだはいいのだが。
「来ないねぇ、バレス君」
「え、えぇ」
(いや、来なくていいんだけどね!)
俺は助かった、と直感的に思った。
とりあえず、今日は無事に村に帰れそうだ。
バレスさんは気を遣って俺を誘ってくれたんだろう、いわば社交辞令。…きっとそうだ。
俺は自分の心の安寧を得るために、都合のいい解釈をしてみる。
(あれ…でも待てよ)
とすると、これは俺だけが意識してましたってパターンなのか?
そうだとしたら、とんでもなく恥ずかしい勘違いをしていたことになるぞ。
俺が一人で勝手に顔を赤くしていると、カインさんが話を続ける。
「あんだけ熱烈だったから、何もないってことはないと思うんだけどねぇ」
(あ、そんなもんか。残念なような、ホッとしたような……)
「じ、じゃあ、目が覚めたんじゃないですか?『思ってたような人間と違う!』っていう」
「昨日の今日で?」
「……それはないか」
「何かあったとしか思えないね。それこそ、騎士団が出動しなきゃいけない何か、とか」
カインさんはニヤリと笑うと、怖い顔で俺を見据える。
「魔王の侵攻、とかね」
「ッ!!」
俺はカインさんが放った<魔王>という脅し文句に、肩をビクつかせてしまった。
断じてビビったわけじゃないぞ、魔物関係の発言は俺にとってはタブーなだけだから!
「というわけで、偵察ついでにお使いに行ってくれないかな?……薬草を入れる瓶を切らしていてね。私は店を離れられないから、ユウ君に行ってきて欲しいんだよね」
「へ?」
「ハイ、2つ隣のお店でこれと引き換えてきて!いつも手形でやりとりしてるから大丈夫!」
早口で告げながら、俺に紙切れを渡すと、店から閉め出されてしまった。
店からは「帰ってきたら、美味しい薬草茶を用意しておくよ~」と呑気な声が聞こえる。
「え、ええぇぇぇぇ?!」
(お、俺、買い物とか初めてなんですけど!)
カインさんの鬼畜な一面を目の当たりにして、人って怖い……と再認識する。
「でもまぁ、2つ隣か。確かに近いし、行けそうだな……騎士団の偵察は行かなくていいんだよな?」
俺は自立のための第一歩と腹を決め、すぐ目的の店へと足を運んだ。
******
店は聞いていた通り、カインさんのお店からすぐ近くにあった。
やはりここも人通りがほぼ無く、俺でも問題なく来られる範囲だ。
さっきの鬼畜発言は撤回しないとな。
店の外観は、どことなく現代の喫茶店のような雰囲気で、カインさんのお店のように常設店のようだ。
外側から見ると、ドアを挟んだ奥の店内は薬草の瓶詰めがいたるところに飾られている。
RPGでいう、アイテムショップとか、そんな感じかもしれない。
(カインさんが薬草茶って言ってたのも、この薬草を煎じたお茶ってことなのかな)
リドさんのところで出されたお茶も、確かにただの煎茶ではない香り高いお茶だった。
俺はてっきりただの煎茶だと思ってしまっていたので、なんの有り難みもなく飲んでしまっていた。
小洒落たお店は久しぶりに入るため、緊張して手汗をかきそうだ。
「お邪魔し……」
では早速、とドアを開けようとドアノブに手を伸ばしたのだが、それは未遂に終わる。
何故って?横から突進してきた塊に、軽く吹き飛ばされたからだよ!
「……ってぇ!!」
俺に突進してきた塊は、盛大に尻餅をついたようで、ゴロリと地面に転がっている。
それは言わずもがな、俺も同様の状態だ。
「ちょっと、いくら人がいないからって、そんな速度で走ると……ッ!」
俺はこの猪突猛進野郎に文句の一つでも言ってやろうと、その顔を見て猛烈な後悔の念が生まれる。
そう、顔を向けた先にいたのは…
太陽の光をキラキラと照り返す見事な金髪の、見覚えのある顔の人物だったのだ。
見間違えるわけなんてない。あの学生くんだ!!
(まずいまずい、まずいぞ……ッ!)
俺は喋りかけていた文句を一切合切飲み込んで、急いで回れ右をする。
無言で逃げようとしたところで、小さなつぶやきが耳を掠めた。
「あれ……黒髪?」
「ハッ!!」
反射的に俺は頭を触る。
(な、ない!!あるはずの布が……頭に乗ってない!!)
バッと学生くんの方を振り返ると、未だ尻餅をついている学生くんがこちらをガン見している。
(あ、アウトォォォォオオオッ!)
俺は今更ながら布を被り直すと、学生くんに頭を下げた。
「み、見なかったことにしてください!」
「へ?!ま、待って!」
今度は俺が猛ダッシュでその場を立ち去ろうとしたが、若いが故か、直ぐに反応した学生くんに腕を捕らえられてしまった。
離してくれ!と訴えようとその顔を見て、つい動きが止まってしまった。
「あの、もしかして……俺と同じ日本出身の転移者っすか?」
狙いは百発百中だろうその甘い顔立ちを、泣きそうに歪めてこちらを見ていた。
いや、僅かだが、既に涙を流している。
「俺、おれ……ッ!!!」
「ちょ、なんで泣いてるんだよ」
「ずっと怖くて、そ、その黒髪見たら安心してぇ~!!」
学生くんはそこまで話すと、ズビ、という音を立てながら、思いっきり泣き出してしまった。
「ああ!待って待って、目立つから静かに……!」
「っう、ズビッ」
本当は今直ぐにでも振り切ってカインさんのお店に帰りたいところだ。
とはいえ、流石に俺に縋って泣いている年下を放置するほど人間が落ちぶれてはいない。
「とにかく、一回そこの路地裏に入ろう」
こんな目立つやつをカインさんの店に連れ帰るわけにもいかず、俺は学生くんを路地裏に誘導した。
ここなら、アウトローな奴ら以外は基本通らないだろう。
(厄介な拾い物をしてしまった)
俺は膝を抱えてズビズビと鼻を鳴らす学生くんを見て、頭を抱えた。
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