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思惑

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リドさんの目は、獰猛な肉食獣のようにギラリと鈍く光を反射している。
触れられている頬から、支配されていくようなそんな感覚。

俺は突然の緊張感に耐えかねて、目を逸らした。


「なんてな」


先ほどとは打って変わって明るい声が耳に届き、先ほどまでの緊迫した空気が霧散する。


「大丈夫だ。俺が手を回しておいてやる」


頭をポンポン!とリズミカルに撫でられ、リドさんの纏う空気が変わったことを知り、ホッと息を吐いてしまった。


(な、なんだったんだ今の……)

「あ、ありがとうございます」


リドさんには世話焼きなだけではない、別の一面もあるのかもしれない。

でも、そりゃそうだよな。
来たばっかりの俺に分かることなんて、ほんの一部だ。


(少し、寂しいな)


俺は比較的包み隠さずリドさんに話してる。
でも、俺はリドさんのことを全然知らないんだ。


「とりあえず明日からは、別のやつを……」

「リドさん、大丈夫です。俺がここで頑張らないと、いつまで経っても独り立ちできないですから!」


これは本音だ。
いつまでも匿うようにして、優遇措置を取ってもらうことはできない。
俺は俺として、きちんと生きる術を身につけて……


(ゆくゆくは、憧れのスローライフ!)


まだ諦めきれない目標に想いを馳せてみる。

やる気に満ち溢れていますよ!というアピールのため、腕捲りをして力を誇示するようにポーズを取ってみせた。

…が、


「なにしてるんだ?腕なんか出して」

「あっ」

(やっぱり、前途多難だ……)


******


俺は渋るリドさんを宥め、カインさんのお店へと急ぐ。

昨日までと何ら変わりない道のりなのだが、昨日とは少し違う点があった。
洗礼されたデザインのマントを靡かせた集団の横を通り過ぎる。
その手には槍のような長物が握られていた。

そう、街中の特にメイン通りに、騎士団が多く配置されるようになったのだ。


「おはよう」

「お、おはようございますぅ~」


騎士団の皆様は、意外にも友好的に挨拶をしてくれるようだ。
RPGのイメージだと、高圧的で取っ付きづらい印象だったけどな。


(今まで遠目にしか見てなかったからわからなかった……バレス騎士団長の人柄のおかげかな?)


俺は内心ヒヤヒヤしながら、不審になりすぎないよう、そそくさと路地付近の店に入って行った。


「はぁ、通勤だけでも一仕事だな」

(異世界に来てまで辛い通勤をするとか…あんまりだよな)

「ああ、おはようユウくん。バレス君のお誘い、受けることにした?」


カインさんが裏から顔を出しながら、早速痛いところを突いてくる。
……この人も掴みどころがないよな。


「あ、ああ……あれはお断りしようかと。何も騎士団長様に御礼されるようなことはしてないですし」

「うわー、すごいね。騎士団長のお誘いを断るなんて」

「ウ"ッ!」

「ま、一回断られたくらいで諦めるとも思えないけどね」


カインさんは語尾にハートマークがつきそうなほど、にこやかに俺に引導を渡すような宣告をしてくる。


(取り敢えず、俺は今日をどうにかして乗り切らないと)


俺は頬を軽く叩き、今日一日を乗り切る気合を入れた。

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