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晴れ時々赤
しおりを挟むケンが騎士団を引き連れ城に戻るのを確認して、ケンと衝突した店の前に戻る。
「……はあ、歳下の子に庇われるとか、めちゃくちゃ格好悪いよね」
どうにかしてケンを逃すことはできないだろうか。
(ケンは友達も沢山いそうだし、きっと帰りたいよな)
俺はというと、特に帰りたい理由も見当たらない。
家族はいるが、まあそれほど仲良くもない。
それに、俺はこっちでスローライフを送りたいんだ。
せっかく魅力的な環境に辿り着いたのに、元の世界に帰ってあくせく働こうなんて今更思わない。
(命の危険が時折あるのが玉に瑕だけど、基本的にここはのんびりしてて良いんだよなあ)
お使いを済ませ、薬草屋に戻ると、薬草茶を用意したカインさんがどこかソワソワしてカウンターに座っていた。
「戻りました」
「ユウ君!遅かったじゃない。心配しちゃったよ!」
どうしたの?何もされてない?転んだの?と、矢継ぎ早に質問される。
ドラマで見る心配性なお母さんの演出でよく見るやつだ。
「ちょっと道に迷いまして!あ、そういえば騎士団の人達は、何か探し物をしてたみたいですね」
「え、本当に偵察に行ってくれたの?!凄いなぁ、ユウ君」
(というか、原因が向こうからやってきたって感じですけどね……)
そうなんだ~と俺が遅れた理由も納得しつつ、カインさんは店仕舞いを始める。
そっか、もうそんな時間か。
「結局バレス君は来なかったね……その探し物とやらで忙しいのかも」
「あ、あはは」
カインさんはお使いの御礼にと、お茶に使うというカラフルな薬草を幾つか分けてくれた。
その中には、この前リドさんと見た水色の葉っぱもある。
「これはね、寝る前に飲むと良く眠れる薬草なんだよ」
「あ、この前リドさんが言ってた薬草だ!」
「この国では1番人気なんだ。それと、2番人気が、その明るい色の葉っぱ。本当はあまり飲用に使わないんだけど、効能はいいよ」
ほら、と見せてくれた薬草は、話の通りに明るいピンク色の葉が細断されたものだった。
「飲むと傷が癒えるのが早くなる。故郷でも見たことあると思うけど、すり潰して魔術をかけて液体にすると、あのポーションになるんだ」
「ポーション…」
俺は幼い頃から冒険ゲームに慣れ親しんできたから、相当印象深いけど……ポーションがピンクだとは初耳だ。
(それにしてもまさか、ポーションの実物を見れる日が来るなんて!)
「ここら辺で売ってるところ、教えて欲しいです!」
「え?怪我でもする予定あるの?」
「い、いや?!無いですけど……念のために?」
そっか、何の用もないのに買う人なんていないよな。
自分で言っておいて疑問符をつけてしまうような言い訳だ。
しかしカインさんは深くは追求せず、メイン通りにある冒険者ギルドに売ってるよ、と教えてくれた。
(ぼ、冒険者ギルド……!!)
またしても出た!憧れワード!!
ギルドといえば、冒険者が集まってクエストを受注したり、酒盛りをしたりするRPGならではの施設だ。
(いつか行ってみたい!)
見つかりたくないという気持ちもありながら、折角の異世界を楽しみたいという葛藤もある。
今度こっそり中を窺ってみようかな。
「じゃ、店も片付いたし、今日はこれで終わり!」
「ありがとうございました!」
俺はカインさんと別れると、人の少ない路地裏を使って帰途に着いた。
家に帰ったら、まずはこのハーブを……
「ユウ!」
突然呼びかけられ、俺は飛び上がりそうになる。
この声は……俺は反射的に後ろを振り向いた。
「げ、バレス騎士団長!?」
ハッ、思わず素が出てしまった。
俺は慌てて口を閉ざすと、少し疲れた表情をしたバレス騎士団長が不思議そうにこちらを見てくる。
(というより、何でいるの!ケンは捕まったってことか)
バレスさんの服装は、いつもの騎士の制服ではなく、私服のようだった。
城から走って来たのか、肩で息をしていた。
もっと言うと、鮮烈な赤の髪を少し乱し、額からは汗を流している。
(騎士団長ともあろう人が、そんなに必死で走って来るなんて……)
「今日、来ると言っておきながら遅くなってしまった……すまない」
(いや、来ないで頂いた方が俺の生活は安泰なんだけどね?!)
俺はそう思いながらも、どう返答するか迷っていた。
バレス騎士団長は、俺を不安げに見つめながら言葉を慎重に選んでいる。
「少々問題があってな。片付けては来たが、遅くなってしまった……答えを聞かせてくれるだろうか」
断りたい、ものすごぉぉく断りたいけど……
(こんな姿を見てしまっては無碍に出来ないよな。冷たく断って敵視されようもんなら、俺は朝日を拝めないだろうし)
「少しだけでしたら……」
「ッ!」
俺の言葉を理解したのか、バレス騎士団長はパァアアッと顔を輝かせ、安心したように大きく息を吐いた。
「でもどうしてわざわざ俺にお礼なんか……騎士団の皆さんの方がよっぽど感謝されるべきですよ」
「あ、いや。それは建前でな」
「建前?」
「実は、君を助けた時にはもう心は決めていた。あの子の盾になろうとした君を見て、この強く清らかな人と話してみたいと……そう思ったんだ」
真っ直ぐに見つめられて、俺を讃える言葉を掛けられる。
(強く清らか?ないないない!)
心の中で手を振りまくって否定するが、目立ちたいわけでは無いので、心の中に留める。
「どこか行きたい場所はあるか?」
「え?もしかして今からですか?!」
「勿論だ。明日にして君が心変わりしてしまったら、悔やみきれないからな」
「あ、うぅ……本当にちょっとだけですからね!」
俺は少し考えて、つい先ほど行きたいスポットができたことを思い出す。
ええい、せっかくの機会だ。
俺が一人ではいけないところに行ってもらうのも手だよな!!
「あ、あの!俺、ギルドの酒場に行ってみたいです……!」
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