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王宮の不運学生
しおりを挟む俺は三崎 犬。何処にでもいる平凡な生まれで平凡な経験を積んだ、顔が良いだけが取り柄の至って普通の大学生だ。
…そのはずだった。
「だぁぁぁあああからぁあ!!俺はただの学生で、勇者でもなんでもないんっすよ!」
俺の全力の否定に、目の前で屯する3人の男たちは戸惑ったようにこちらを見ている。
(人を呼びつけといて困るってなんなんだよ…!)
この訳のわからない男達に、異世界転移魔術とかなんとかで召喚されてからもう2日目に突入する。
平凡な日常は崩れ、俺は今非凡な異世界転移者としての肩書を得てしまったんだ。
……事の始まりは大学からの帰り道で友達と電話していた時だった。
*******
突然ポッカリと空いた穴に落ちたと思ったら、次の瞬間には漫画で見たことあるような魔法陣のど真ん中に座り込んでた。
周りを見渡してみると、驚愕、といった面持ちでこちらを見ているフードの集団と目が合う。
(いや俺も驚いてんだけど。誰か事情教えてよ……)
周りを取り囲まれている様は、まるでなんかの儀式みたいだ。
初めは驚きすぎて何も考えられず、怪しげなフード集団をボーッと眺めていた。
数分の間があって、ようやく目の前のヒゲ男が動き出した。
「国王様!せ、成功いたしましたぁっ!」
この状況で、「召喚に成功したぞ!」「おお……異世界勇者よ……」とか何とか騒がれたら、さすがに俺の身に何か不味いことが起きたのを理解した。
俺が現実と捉えきれず固まっていると、フード集団の外から煌びやかな衣服を身に纏ったイケメンが俺に近寄り話しかけてくる。
「ようこそナーヴェ国へ、異世界勇者よ。早速で悪いが、魔王を討伐してはくれないだろうか」
「……え、なんて?」
********
「マジで俺普通の学生なのにっ!」
俺がぐずる真似を始めると、国王様が戸惑いがちに俺の側に寄った。
「ケンよ、突然召喚してしまって悪かった。ただ、この国も魔物の侵攻で限界まで来ている。魔王討伐に力を貸してはくれないか?」
この国王様、俺が召喚されたから拗ねて力をかさないのかと思ってるっぽいけど…
「いやだから、その力が無いんっすよ!」
「しかし、伝承では……」
俺が全力で否定すると、国王様は狼狽える。
先程まで瞳に輝いていた、力強い煌めきがどんどんと失われていく。
「もしや、召喚の儀は失敗に終わったのか……?」
「陛下。差し出がましい真似をして申し訳ございませんが、私の目から見てもどうにも肉体的な優位性があるようには思えません」
「……バレス」
「金の髪を持っていたとしても、力が無ければ戦場で足を引っ張ります」
燃えるような赤髪のイケメンが俺を横目で見つつ話しかける。
彼の身体は鍛え抜かれ、触れれば手が切れてしまいそうな研ぎ澄まされた気迫がある。
……こんな人達が守れなかった国を救ってと言われても、俺は何の助けにもならないだろう。
しかも、俺はこの人達になんの思い入れもない。つまり、義理立てする必要は全くないんだ。
(バレスさんもっと言ってやって!)
心の中で声援を送っていると、黄色の髪をウルフカットにした、V系バンドのヴォーカリスト風の男に肩を組まれる。
「バレスゥ~そんなお堅いこと言うなって!戦闘はできなくても、肉の盾くらいにはなるかもしれないだろ?」
(肉の盾……?!)
そのニンマリとした口から、突然飛び出た不吉な言葉に思わず寒気が襲う。
「……勇者のお前がそんなだから陛下のお手を煩わせているのが分からないのか」
「さあ、なんのことやら」
バチバチッと効果音が聞こえてきそうなほどの睨み合いを始めた2人。
そんな2人を遮る様に、如何にも魔術師らしい男が部屋に駆け込んで来た。
「失礼いたしますっ!陛下、少々宜しいでしょうか。お耳に入れておきたいことが……この召喚の儀についてです」
魔術師の男が何事かを国王様に耳打ちしている。
(え、なんだろ。やっぱり儀式的なやつは失敗だったのか?)
すると、バレスさんに進言されてから思考に耽っていた国王様が、肩を跳ねさせて驚きを示した。
……瞳には、再び強い光が戻っていた。
「何?転移者がもう1人いる可能性があるだと?」
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