上 下
14 / 82

王宮の不運学生

しおりを挟む

俺は三崎 犬。何処にでもいる平凡な生まれで平凡な経験を積んだ、顔が良いだけが取り柄の至って普通の大学生だ。

…そのはずだった。


「だぁぁぁあああからぁあ!!俺はただの学生で、勇者でもなんでもないんっすよ!」


俺の全力の否定に、目の前でたむろする3人の男たちは戸惑ったようにこちらを見ている。


(人を呼びつけといて困るってなんなんだよ…!)


この訳のわからない男達に、異世界転移魔術とかなんとかで召喚されてからもう2日目に突入する。

平凡な日常は崩れ、俺は今非凡な異世界転移者としての肩書を得てしまったんだ。

……事の始まりは大学からの帰り道で友達と電話していた時だった。


*******


突然ポッカリと空いた穴に落ちたと思ったら、次の瞬間には漫画で見たことあるような魔法陣のど真ん中に座り込んでた。

周りを見渡してみると、驚愕、といった面持ちでこちらを見ているフードの集団と目が合う。


(いや俺も驚いてんだけど。誰か事情教えてよ……)


周りを取り囲まれている様は、まるでなんかの儀式みたいだ。
初めは驚きすぎて何も考えられず、怪しげなフード集団をボーッと眺めていた。

数分の間があって、ようやく目の前のヒゲ男が動き出した。


「国王様!せ、成功いたしましたぁっ!」


この状況で、「召喚に成功したぞ!」「おお……異世界勇者よ……」とか何とか騒がれたら、さすがに俺の身に何か不味いことが起きたのを理解した。

俺が現実と捉えきれず固まっていると、フード集団の外から煌びやかな衣服を身に纏ったイケメンが俺に近寄り話しかけてくる。


「ようこそナーヴェ国へ、異世界勇者よ。早速で悪いが、魔王を討伐してはくれないだろうか」


「……え、なんて?」


********



「マジで俺普通の学生なのにっ!」


俺がぐずる真似を始めると、国王様が戸惑いがちに俺の側に寄った。


「ケンよ、突然召喚してしまって悪かった。ただ、この国も魔物の侵攻で限界まで来ている。魔王討伐に力を貸してはくれないか?」


この国王様、俺が召喚されたから拗ねて力をかさないのかと思ってるっぽいけど…


「いやだから、その力が無いんっすよ!」

「しかし、伝承では……」


俺が全力で否定すると、国王様は狼狽える。
先程まで瞳に輝いていた、力強い煌めきがどんどんと失われていく。


「もしや、召喚の儀は失敗に終わったのか……?」

「陛下。差し出がましい真似をして申し訳ございませんが、私の目から見てもどうにも肉体的な優位性があるようには思えません」

「……バレス」


「金の髪を持っていたとしても、力が無ければ戦場で足を引っ張ります」


燃えるような赤髪のイケメンが俺を横目で見つつ話しかける。
彼の身体は鍛え抜かれ、触れれば手が切れてしまいそうな研ぎ澄まされた気迫がある。

……こんな人達が守れなかった国を救ってと言われても、俺は何の助けにもならないだろう。

しかも、俺はこの人達になんの思い入れもない。つまり、義理立てする必要は全くないんだ。


(バレスさんもっと言ってやって!)


心の中で声援を送っていると、黄色の髪をウルフカットにした、V系バンドのヴォーカリスト風の男に肩を組まれる。


「バレスゥ~そんなお堅いこと言うなって!戦闘はできなくても、肉の盾くらいにはなるかもしれないだろ?」

(肉の盾……?!)

そのニンマリとした口から、突然飛び出た不吉な言葉に思わず寒気が襲う。


「……勇者のお前がそんなだから陛下のお手を煩わせているのが分からないのか」

「さあ、なんのことやら」


バチバチッと効果音が聞こえてきそうなほどの睨み合いを始めた2人。

そんな2人を遮る様に、如何にも魔術師らしい男が部屋に駆け込んで来た。


「失礼いたしますっ!陛下、少々宜しいでしょうか。お耳に入れておきたいことが……この召喚の儀についてです」


魔術師の男が何事かを国王様に耳打ちしている。


(え、なんだろ。やっぱり儀式的なやつは失敗だったのか?)


すると、バレスさんに進言されてから思考に耽っていた国王様が、肩を跳ねさせて驚きを示した。

……瞳には、再び強い光が戻っていた。


「何?転移者がもう1人いる可能性があるだと?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

王太子殿下は悪役令息のいいなり

白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

婚約破棄は計画的にご利用ください

Cleyera
BL
王太子の発表がされる夜会で、俺は立太子される第二王子殿下に、妹が婚約破棄を告げられる現場を見てしまった 第二王子殿下の婚約者は妹じゃないのを、殿下は知らないらしい ……どうしよう :注意: 素人です 人外、獣人です、耳と尻尾のみ エロ本番はないですが、匂わせる描写はあります 勢いで書いたので、ツッコミはご容赦ください ざまぁできませんでした(´Д` ;)

処理中です...