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さいしょのむら
しおりを挟むその言葉を聞いた瞬間、物凄い脱力感に襲われて、思わず膝から崩れ落ちてしまった。
何も事情を知らない人が見れば、俺がリドさんに土下座をしているようにも見えるだろう。
「な、なんだって……!」
("さいしょのむら"が王宮の目と鼻の先?運良く王宮から逃れられたと思ったらコレだよ…!)
信じていたものに無様に裏切られた気分だ。
黄金だと思ったらメッキの下が土塊だった!とか、そんな感じの。
そこでふと、元いた世界でやっていたRPGを思い出す。
(あ……そっか。王道のゲームでは、王様に魔王を倒すように命令されるあの瞬間から、勇者としての冒険を始めるのか)
その勇者が最初に立ち寄るのが"さいしょのむら"
だからこそ、王宮の近くに長閑な村の一つや二つあってもおかしくないんだ。
「も、盲点だった……」
長閑な村だったからラッキーくらいに考えてたけど、召喚に巻き込まれた人間が王宮付近に落ちた結果だったのか……!
(後もう少し座標を外してくれれば!)
頭を抱えて蹲る俺をジッと物珍しげに見つめているリドさんは、続けて更なる爆弾を落としていく。
「だから、この港街には勇者や騎士団も頻繁に出入りしてる。なんなら、俺の村で卸してる作物や肉のお得意様だったりするぞ?」
「リドさん!俺……この村を出ます。短い間でしたが、お世話になりましたっ!」
俺が切羽詰まった顔でそう宣言すると、リドさんは少し眉尻を下げた。
それは、例えるなら遊びを断られた大型犬のような表情だった。
「オイオイ、そんな寂しいこと言うなって。そもそも、魔族を倒せない人間の行動できる範囲には、勇者一行も必ず来ると言っていいからな」
「えっ?!そうなんですか?!」
「魔族を倒すことが出来ない、そういう弱い人間を狙って行動する魔物もいる。勇者一行は国中を旅しながら民を守ったりしてるってことだよ」
「ウッ、凄くいい話なのに……俺にとってはまさに四面楚歌!」
未だに俺が地面に這いつくばる勢いで落ち込んでいると、リドさんは優しい笑顔で俺に笑いかけた。
「ま、そういうことで、1番事情を知っててお前のことを匿ってやれるのは……俺だろ?」
(た、確かにっ!)
ペカーッと、リドさんに後光が差している。
「はぁっ……リド様!!」
上手く丸め込まれた気もするが、リドさんに限って俺なんかを村に引き留めようとはしないだろう。
俺が「救いの手!」と満面の笑みでリドさんの手を握ると、リドさんは居心地が悪そうな顔をして首を横に振った。
(あれ?なんかリドさん、元気ない?)
「……その呼び方辞めないか?」
「あ、すみません。あまりに頼りになりすぎて」
「それは嬉しいけどな。ま、取り敢えず家に戻って一旦落ち着こう」
「……っはい!!」
リドさんはそう言うと、来た時よりも幾分か早い歩調で歩き出す。
ボーッとしてたら置いていかれそうだ。
(リドさん、あの騎士団長を見かけたあたりから少し様子がおかしい気がする…)
よく見せるあの余裕綽々な笑みではなく、いわば普通の人の笑顔になってる。
(って、そりゃリドさんに失礼か)
拭えない違和感は残るものの、足早に家へと向かう道を進むリドさんの後を追った。
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