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これってピンチ?!
しおりを挟む市場には遠目から見た通り、とても華やかな食材達が並んでいた。
あっちもこっちも気になってしまい、側から見たら不審者として扱われてしまいそうな程キョロキョロしている自覚がある。
「ほら、前見て歩け」
「ハッ!すみません!」
リドさんに言われた通りに、きちんと視線を前に向ける。
(誰かにぶつかったりしたら大事だもんな…!)
リドさんは酒が陳列されている店がお目当てだったのか、お店の人と話し始める。
店に着いたならもういいかとリドさんの裾を離した。
服が握った圧で少し皺になってしまっていた点については、申し訳ない気持ちで一杯だ。
「それは何を原料にしているんだ?」
リドさんの手には水筒らしき物が握られており、それに入れる酒を選んでいるらしい。
樽ごと売ってる訳ではないみたいだ。
てっきり、樽ごとでしか売っていないのかと思ってた。
(あんまりお酒飲まないから、小っ恥ずかしい勘違いしてたな)
1人で赤面しながら視線を泳がせていると、小さな影を視界に捉えた。
(あれ……?)
痩せた小学生くらいの子供が背丈ほどありそうな大きな荷物を運んでいる。
足元が見えていないのか、覚束ない足取りで、速度もまさに亀の歩みだ。
瞬間、背後からその子供を抜いて行った大人の荷物が子供の荷物に当たり、バランスを崩してしまった。
(危ないっ!!)
俺は今まで人助けなんてしてこなかったが、今の瞬間は体が勝手に動き出したんだ。
俺はスカーフを押さえながら、人混みをすり抜け子供の体を支えた。
「っはぁー、間に合った!大丈夫だった?」
「あ、ご、ごめんなさいっ!」
「え?いや、謝らなくて良いよ」
子供は震えながら俺に頭を下げると、不安そうにこちらを伺っていた。
「それより怪我はなかった?どこも痛くない?」
「え、はい…大丈夫です」
「そう、それはよかった!でもこんな荷物何処まで運ぶ予定なんだ?」
「すぐそこなんです、そこの路地裏」
子供が指さしたのは、今いる道の目と鼻の先だった。
「あ、あの距離なら…」
リドさんを見てみると、話が白熱しているらしく、こちらに気付いていない様子だった。
「よし、俺が持つから、案内してくれない?」
「え、でも!」
「いいから、いいから!」
俺は荷物を持つと、子供の先導に従って路地裏に入った。
「あ、ここで大丈夫です。後は他の子と協力して運びます。本当にありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げた子供の近くにワラワラと同世代の子が集まってくる。
「すごいっ!こんなに沢山!」
「やったー!」
口々に喜びの声をあげた子供達はあっという間に荷物を持って行った。
恐らく、彼らだけで生活しているのだろう。
声を掛けた子供も、俺の方を何度か振り返りながら立ち去って行った。
「…何人も居るんなら最初からみんなで行けばよかったのに」
素朴な疑問を感じていると、背後で砂利を踏みしめるような音が聞こえた。
「あれ~?何してるのかな、こんな路地裏に1人で。攫ってくれと言わんばかりじゃ無いか……ヒヒッ!」
背筋が冷えるような気味の悪い声が路地裏に木霊する。
バッと後ろを振り返ると、豪華な身なりをした50代くらいの脂の乗った男がこちらを楽しそうに眺めていた。
いや、眺めているという感じではなく、品定めされているような目線だ。
「どなたですか」
「おや、素養があるようだね。身なりも綺麗だし……なんといっても、その艶のある華奢な身体!きっと良い値がつくに違いないっ!」
興奮したように唾を飛ばしながら叫んだ内容に、俺は身体が硬直してしまった。
「ひ、人攫い……?!」
(えぇ、この街ってこんなに治安悪いの?!)
「こっちにおいで、もっと君を素敵にしてあげるよ……!」
「い、嫌だ!離れろ!!」
俺は精一杯の力で手を弾くと、身を翻して逃げようとした。
が、そこで気がつく。
(向こうには、あの子供たちがいる……っ!)
ここで俺があの子達の住処にコイツを連れて行ってしまうような事があれば、あの子達からまず捕らえられるだろう。
俺は路地裏方向に逃げることも出来ず、立ち止まるしかなかった。
「おや?逃げるのはもう辞めたんだね。それなら大人しく……」
「大人しく捕まるのは貴様だろう、奴隷商」
「…へ?」
男の言葉を両断する様に突然響く音。
力強く、洗練された声が、厳しく叱責する色を伴って男を貫いた。
俺も男も目を丸くして声の発生源を見てみると、メイン通り側の通路から、1人の男性が毅然とした態度で歩み寄ってきていた。
「咎を受ける覚悟はできているな?」
リドさんの茶色っぽいオレンジの髪の毛とは違い、火の様に赤く燃え上がる髪を後ろに撫でつけた長身の男性は、鬼の様な目付きで、男の胸ぐらを掴んだ。
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