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ばっちゃんの教え

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おばあちゃんは俺を招き入れると、早速ご飯の用意を始めた。


「手伝います!」

「あら、本当?助かるわぁ…じゃあこれをお皿に盛り付けてくれるかしら」


お皿、と言って渡された器は、明らかに手製の歪みがあった。

この古民家の外観も何処となく手作り感があったけど、皿もこういうのが一般的なのか。
…ますます此処がどこだか分からなくなってきた。


(日本語は通じてるけど、日本じゃないのか…?)


悶々と考えながら、雑穀が入った様なパンと野菜を盛りつけていく。

服も質素だし、器も手製。食事もかなり慎ましやかだ。

他にも何か判断材料がないかと、話し掛けようとして、彼女の名前を知らないことに気が付いた。


「あの、何とお呼びすれば……」

「アンナよ。貴方は?」

「有です。アンナさんは一人で此処に?」

「そうなの。結構前に旦那をクエストで亡くしてねぇ。それからは此処に一人よ」


(ちょっと待て、え?今なんて??)


「クエ……スト?」

「そうよ、10年も前になるから覚えてないかしら?ギルド主導の、魔王討伐の大規模クエストがあったじゃない」

(待て待て待て待て、アンナさんストップ!ストップ!!)


「ま、魔王……?」

「そうよ!私の旦那は凄かったんだから。勇者一行の長として、軍を率いたのよ~!」


アンナさんは旦那さんの勇姿を思い出しているのか、身をくねらせながら惚気始めた。


(ごめんアンナさん、俺は今それどころじゃないんだ)


ちょっと落ち着こうか。
あってはならないワードが聞こえて来たぞ。

というより、俺の耳がおかしくなったのか?

……それとも、ドッキリ?
穴に落ちたら、剣と魔法のRPG世界でした!って言うドッキリ??


アンナさんは俺がめちゃくちゃ動揺していることには気が付かず、一人で話を進める。


「でも、昨日だったかしら。お触れが出たのよ」

「お触れ、ですか?」

「そう、国王様から、異世界勇者の召喚に成功したって」

「異世界……」


あ、これダメなやつだ。状況証拠が揃いすぎた。

ドッキリにしては作り込まれすぎた舞台セット、あの突如現れた穴。

もう信じる他ない。


「(ここ、異世界なんですね……)」


俺は歪んだ形の器を手に、気が遠くなるのを感じた。

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