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敵対組織

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「……暇だぁ!! 」


俺はあまりの退屈さに我慢できず、スイッチのベッドの上でゴロゴロと転がり回る。
それもそのはず、何かを思い出したように急に部屋から出て行ったスイッチは、あろうことか“出て行ったら容赦しないから”と俺に脅しをかけて行ったのだ。

あの時の表情の冷たさは、まさに氷の様な冷たさだった。

それまで、あの後小一時間ほど俺を抱き枕の様に抱きしめ続け、何度も何度も名前を呼ぶという、妙な状況を作り出した当の本人とは思えない変わり様だった。

シノビさんによると、丸一日寝ていたみたいだし、体はすこぶる快調だ。
もう家事くらいなら出来るのに、ここに留まるしかないのが歯痒い。


「もう12時か……かれこれ1時間以上は戻ってきてないんじゃないかなぁ」

(あれっ、もしかしなくても俺、忘れられて放置されてます?)


俺はハッと現状に最適なワードを思いついてしまい、勝手に落胆した。
そうだとしたら、今すぐにでも部屋を出たい。

1日とはいえ、キッチンを家事からっきしの皆に明け渡してしまったんだ。多分また缶詰と生野菜を貪っていることだろう。

(でも、スイッチのトラウマを刺激したくないし……)


うんうんと悩んでいると、控えめにドアがノックされる音がした。


「ユウトさん?起きてますか」

「え、シノビさん!?どうしたんですか」

「どうしたはこちらのセリフですよ。驚きましたよ、仮眠室がもぬけの殻だし、部屋にもいないんですから」

「心配掛けてすみません……スイッチに連行されちゃいまして」

「それはスイッチさんに伺いました。全く誘拐されていた人を更に拐かすなんて……当のスイッチさんは急遽偵察に向かうことになりましたので、仮眠室に戻って大丈夫ですよ」

「へ?偵察、ですか」

「ええ、あの男を幽閉したことで、向こう側に動きが出たみたいです。ユウトさんには詳しくお話ししていませんでしたが、このウィルスを各所にバラ撒いた敵対組織は世界を飛び回っていて、機動力が高い点がビジランテよりも優れているんです。今のところ奪還の動きはなさそうですが、所在は探しているみたいですね。」

「うっ……中々不穏ですね」

(俺にもようやく実感が湧いてきたけど、映画みたいな“悪役”がいるんだもんなあ)


そこで、俺は人相の悪いオールバックの男、カイの顔が頭を過ぎった。


「シノビさん、あの……2階に居る人に会わせてくれませんか? 」


俺の手を引いて仮眠室に向かおうとしていたシノビさんは、俺の突拍子も無い頼みが聞こえたのか、足を止めた。


「いや貴方、あの男に連れ去られているんですよ?そんな人物に会うんですか」


意味が分からないと顔に書かれているのではと錯覚するほど、分かり易い顔をしたシノビさんは、呆れた様に俺を諌める。
だが、俺もここでは引けない。俺の体に起きたことや、今後のことを聞いておかないといけないんだ。


「お願いします!! 」


飲食バイト仕込み“直角お辞儀”を披露すると、シノビさんは僅かにたじろいだ。


「う……はぁ、貴方の頼みですから、一度は聞きます。ただし、私も同席しますからね」


「分かりました。でも、最初の10分だけ、二人で話す時間を下さい。彼も警戒して話してくれなくなるかもしれないので」


困った顔で、分かりましたよ、と俺の頭をポンポンと叩く姿はどことなく店長を思い起こさせる。
シノビさんは人に頼まれると、何とかしたくなっちゃうタイプなんだろう。
店長もその性格のおかげか、近所の手伝いを良くしていて、助けられた人が店の常連になるなんて流れも珍しくなかった。

気が乗らないのか、重い足取りで先を行くシノビさんの後に着いて行く。
暗く、長い階段を一歩一歩踏みしめ、この後の動きを考える。

実は、俺はカイに持ちかけたい取引があった。
俺に共感してくれたら、今後のビジランテにとっても絶対に良い方向に動くはずだ。

今、カイは組織についてはもちろん、俺のことについても何も喋っていないらしい。
俺は拳を軽く握る。


「それなら、俺が聞き出さなきゃ」

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