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朝、事変。

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「久しぶりに美味いもん食べた」


ごちそうさま、と小声で言って伸びをしたマニアックさんがピタリと動きを止める。

視線の先には…卵液に浸した食パンがあった。


「それ……」

「あ、これですか?朝ご飯の仕込みです」

「まさか、フレンチトースト……?」

「あ!よく分かりましたね。まだ仕込みの段階ですが……明日の朝ご飯では焼き立てをお出ししますよ!」

「朝飯は何時だ」

「…え?」

「何時だ」

「ろ、6時だそうです」

「チッ……早ぇな」


そうごちると、マニアックさんは頭をガシガシと掻きながら食堂を後にした。


「な、なんだったんだ…?」


狐に摘まれたような気分になりながら、
俺はさっさと準備を済ませ、部屋に帰った。


「ふぁ~…眠いな」


俺は布団にくるまりながら、今日一日を振り返る。


「本当に……色々あったな」


三日振りに家を出たら街中ゾンビだらけで……店長までゾンビになってるし。


「でも、ヒーローって、本当にいるんだなあ」


俺は日本を救っているヒーローを手助けすることになった。
こんな名誉なことはないんだろう。多分。


「あの人達強そうだったなぁ…。俺が料理と掃除以外で役に立てることってあるのかな」


いかんいかん!!ネガティブになりそうだった。

俺はずっとポジティブに生きてきた人間だから、弱気になんてなってられない。


「できることを、一つずつ頑張るぞ!」


俺は自分の胸に決め、今日のところはさっさと寝ようと瞼を閉じた。


*******


「おはようございます!」


「おはようございます」

「あぁ…おはよう」

『ハーッハッハッ!!!おはよう!!!』

「スイッチの声って本当にデカイよな…動物の咆哮にも匹敵しそうだ」


ヒーロー達が集まった食堂は、朝から賑やかだ。


「お!今日はパンか!!……あれ、なんかフニフニしてるぞ?」

「これは…フレンチトーストか」

「当たりです!これも店長直伝ですよ~!」

「美味しそうですね。いただきます」


各々食べ出すが、一人まだ来ていないことに気が付いた。


「あれ、そういえばマニアックさんは……」


『アイツは来ないだろう!!結成当初から一度も朝食を食べに来ていないからな!!』

「え、そうなんですか。エネルギー不足にならないんですかね?」

『前にゼリー飲料を飲んでいるのを見たことがある!!栄養は足りているかもしれないな!!』

(いやそれじゃあ十分な栄養とは言えないだろ……)


と思ったが、昨日の立ったまま夕食を食べようとしていた様子を思い出すと、ゼリー飲料を飲んでいる分まだ良い方なのかもしれない。


「…ぉ、おおお!なんだコレ!や、柔らかくて甘い!!!」


大きな声がしたと振り返ると、アニマさんが目を輝かせながら、フレンチトーストを頬張っていた。


「むふふ…美味しいですか?」

「ああ!凄く!!」


アニマさんのニッコリ笑顔に、俺の心は有頂天だ。

(ああ、無垢な天使のような笑顔だ……仕込み頑張って良かった!)

和やかに食事をしていると、音を立てて食堂のドアが開いた。


「……サポートの奴、フレンチトースト」


相変わらずの適当さで俺に要望を伝えると、どっかりと皆と離れた位置の椅子に座る。


「あ!マニアックさん、来てくれたんですね」

「……あ?俺、名前言ったか?」

「すいません、他の方から聞きました!」

「…マニアックだ。本名は倫人<リヒト>」


それだけ言うと、また退屈そうに宙を眺める。


「マニアックが…メシに来てる…?」

「しかも、名前を名乗ったな」

『奇怪!!!!』


3人がコソコソ(約1名は大声だが)と話をしているのを、マニアックさんは何とも気にしていない様だ。

本当に他人に興味がないんだな……

そんな彼が、ここまで食べに来てくれたんだ。


(美味しいフレンチトースト、焼いちゃいましょうか!!)

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