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2章 新生活スタート

34 魔獣学

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(エメル部長、少ししか喋れなかったけど、変わり者の匂いがプンプンしたな…)


大変失礼にあたるが、あの様子なら交友関係についても条件クリアできそうだ。



そんなこんな考えているうちに、セシルさんの待つ校長室に到着した。

扉を開けてみると、彼の麗人は机に向かって何かを書きつけていた。


瞳のサファイアは光を受けて輝き、銀糸の髪もサラサラと揺れ動く。

見つめていると視線に気がついたのか、慌てた様にこちらに顔を向け、微笑んだ。


…今日もセシルさんは完璧美形オーラを放っている。
イケメンは敵、なんていう僻みさえも出てこない。


「…ああ、ごめんね。集中し過ぎていたみたいだ。」


セシルさんは慌てた様に立ち上がり、席を勧めてくれる。


「こちらこそすみません。お忙しい時に時間を割いていただいて…」


「もう、そんな堅苦しいのは良いんだよ。さ、時間も惜しいし早速始めようか。」


「あ、はい。よろしくお願いします。」



*****


テーブルを挟み向かい合ったセシルさんは、何処から出したのか、如何にも『歴史的な価値があります』と言いたげな古めかしい本を取り出した。

表紙には様々な種類の獣が描かれ、題字には金の箔が押されている。

よく見てみると、古い書物だからなのか超訳は発揮されず文字は読めない。

広辞苑に並ぶ厚さの図鑑と言った風貌だ。



「私が教えるのは魔獣学。こちらの世界には、魔力を身に宿す生き物が沢山いるんだ。」


そう言いながら図鑑のページを捲ると、マーナみたいな大型の狼と、グリフの様な人の倍程もあるグリフォンが描かれていた。

というか毛の色までそっくりじゃん…。

セシルさんは敬う様な触り方でページをなぞると、こう言った。



「これがマーナガルム様と、グリフォン様だよ。」


「へぇ、そうなんでs……え、なんて?」


「あ、声が小さかったかな。ごめんね。
これが、マーナガルム様と、グリフォン様だよ。」


「あ、はい、そうですか…」


(ステイステイステイ)


え、図鑑に載ってんのあの二人?!というか二匹!
もしや、こっちの世界でも伝説的な扱いなのかな?!

(規格外の世界だからこれが普通なのかと思ってたけど、やっぱりレジェンド的な存在だったんだ…)


これはいよいよ不味いぞ。

もしこの二匹と仲良さげに話している所を見られようものなら、あれよという間に噂になってしまうに決まっている。

そんな事になろうもんなら俺が異世界人だとバレるのに然程時間は掛かるまい。



「(ジ・エンド、俺。)」



「おーい…カンザキくん、大丈夫?

心配いらないよ。マーナガルム様が人型を取っているところは、先生達でもそう何人も見ていない。」



「あ、そうなんですね…なら安心です。
(じゃあ何故俺には秒で警戒を解いたんだよおお!)」


ぜんっっっっっっぜん納得も安心も出来ないが、何とか暴れたい衝動を嚥下する。

このせいで奇異な目で見られて異世界人だってバレたら…


(セシルさんに多大な迷惑をかけつつ追放される…)


考えうる最悪のパターンだ。
なんとしてでも回避しなくては。


一人で決心を固いものにしていると、セシルさんが楽しそうにこちらを向く。


「カンザキくんもまだグリフォン様には会っていないかな?
魔獣部になったんだったら、今後お会いする機会もあるはずだよ。」



あっ、もう会ってます。
むしろ、懐かれました。

なんて、

(言えないよな…)



「は、はは…楽しみにしてます…」



拝啓、30分前の俺へ。
今日もまた心労が一つ増えたよ。



「そうそう、この方々が最初のページに載っているのには意味があってね。
どちらもこちらの世界の創造主たる存在の使徒だったと言われているんだよ。」


「へ、創造主…?」


また大きな話が出てきたな。


「そう、この世界は元々色々な属性の生物がいたんだ。今でこそ数が減ってしまったけどね。」


(ああ、生き残りをかけた全属性の戦争があったって聞いたな。)


「全ての属性をお作りになられた、創造主アルケ様。その使徒がマーナガルム様、グリフォン様…まあ、あとお一人いるんだけど、それは割愛。」


「え、割愛するんですか。」


「そうだね…グリム君に聞いてみるといいよ。彼、色々知ってそうだし。」


「は、はあ…」


(校長が生徒に丸投げってどうなのか…)


「…とまあそんなところかな。あとはこの近辺の魔獣達の話をするよ。」



その後もセシル先生の講義は続いた。

この森に住む魔獣は全世界のうちでもほんの一握りで、外に出ればもっと色んな魔獣に出会えるそうだ。

絶対行きたくないけど。
捕食される未来しか見えないからね。


ここで一つ疑問が湧く。

「魔人と魔獣って何処から枝分かれするんですか?」


「そうだよね、みんな疑問に思うはずだよ。
実は、創造主に仕えていた使徒を生み出した時に、魔獣と魔人を創造したんだ。」

「成程、では割愛された使徒は魔人なんですね。」


「そう言う事。で、そこから数を増やしていったんだよ。」


「へえ……あれ、セシルさん、魔族界隈の生物って何処から生まれてきてるんですか?」


セシルさんに純粋な疑問をぶつけると、セシルさんは大袈裟に肩を震わせ、取り乱した。


「え?!そ、それはっ…!
グ、グリフォン様が運んでくるのかなーーーー!!!?あはは…」


「え、そうなんですか?グリフォン様凄いですね…持たざる者の世界では同種で繁殖出来るんですよ。」


「ウッ…そ、そうなんだ…」


グリフってかなり多忙なんだな…五万といる魔獣、魔人全てを送り届けてるだなんて。


あれ…セシルさん顔真っ赤にしてどうしたんだ?
まさかこの話に反応して恥ずかしがってるわけもなかろう、三桁生きてきてそれは流石に…


セシルさんの目をジッと見つめると、何処となく気まずそうな雰囲気を醸し出す。


(え、まさかのまさか)


「生殖系の話、あまりしないんですか?」


「…!!!」


今度こそ顔から火を噴き出しそうな勢いで、顔面が赤く染まる。


「(もしやグリフが運ぶって話も、元の世界で言うコウノトリの例え話と一緒だったのか…!)…変なこと聞いちゃいましたね。すみません。」


「い、いや、良いんだよ。
持たざる者の世界の人達は、そっそそそういう話を普通にするのかな…?」


いや、ドモリすぎだろ。


「まあ、生命の神秘とでも言えばいいんでしょうか。秘匿することではありませんよ。」


「そ、そうなんだ…」


相変わらず顔を茹蛸の様に赤くしたセシルさんは、ゴホン、と咳払いをした。


「じゃ、じゃあ今日はここまで。次回は他のエリアの魔獣について学ぼうね。」



若干話を逸らされた気がするが、変に微妙な空気になるよりは良いだろう。


片付けを始めたセシルさんの動きが若干ぎこちないけど大丈夫かな…


その後はセシルさんが用意をしてくれたお茶を貰いながら、日が落ちるまで近況を話し合った。



俺は、穏やかな時間を過ごしながら頭の片隅で、


(関わるのはあまり気乗りしないけど…創造主の使徒、気になるし…明日グリム君に聞いてみるか。)


不穏な気配のする人物への接近を企てていた。



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